第二話 覚醒&波乱
そう言い放ったはいいが全身の震えが止まらない。その上これからどう対処すれ
ばいいかもわからない。
(俺は何をやっているんだ、対処方法もないのに飛び出すとか馬鹿かよ!?)
「お前はいったい誰だ? 俺たちに喧嘩でも売りに来たのか?」
「そ、その子を放せ! お前らの相手はこの俺だ!」
戦う術もないのにも関わらず、つい口がすべってしまう。
「どうやらお前は殺されてぇみたいだな」
「いい度胸じゃねぇか小僧、俺たちに喧嘩を売ったことを後悔するといい!」
頭の中で脳が超高速回転していた。どうする? いやどうしようもない。だから
といってここで死ぬのか? そんなのはごめんだ。転生してまだ半日もたっていな
いんだぞ?
そんなことを考えている間に男は剣を振りかぶった。
(もう駄目だ……)
そう覚悟したその時だった。体中に何かが流れる感触を覚えた。力が湧き上がっ
てくる。不意に言葉を発した。
「防御魔法 結界!」
そう発したと同時に体を守る結界が出現した。男の振りかぶった剣は結界に弾き
飛ばされた。
「クソ……、お前『ウィザード』だったのか……!」
(これが魔法を使う感覚……! 体中に力が巡っている感じがする!)
あの防御魔法を使った瞬間に自分が使える魔法の知識が脳へと一気に流れ込んだ。
先ほどの防御魔法に加え属性魔法や打撃魔法、顕現魔法や暗黒魔法など、その数
は数えきれない。
(これならあいつらに勝てるぞ……!)
さっきまでは男らに対し恐怖心を抱いていたが今ではかわいそうとまでに思えて
しまう。
「あんまり俺らをなめんじゃねぇぞ……」
「そうだよ……、行け! グリフォン!」
男は何やら紋章が描かれたカードを取り出すとにやついた。カードが雷を纏うと
黄色い光となって消え、鷲獅子が現れた。
(なるほど……、召喚獣か。グリフォンは出現の仕方を見るに弱点の少ない雷属性
か……)
「に、逃げてください……! グ、グリフォンはとっても危険な魔獣です!」
猫耳の少女が震えながら俺に言った。自分が一番怖いのに人の心配をするなんて、
どんだけいい子なんだ。元いた世界ではそんな優しさに触れることはなかった。
高校では友達がいないかったためいじめられ、学校に行くのが嫌になった。今日
だけ休もう、がどんどん増えていき、いつしか学校に行かなくなってしまった。学
校に行かなくなったことを後悔はしていないが、親不孝だとは思っていた。
彼女を見捨てるなんてできるはずがない。
「やっちまえグリフォン! あいつを殺せ!」
「キャオ―――――!!」
まだ出会ってまともに会話もしていないのに、彼女へ好意を抱く自分が恥ずかし
かった。
「火属性魔法 ヘルフレイム!」
紫色の地獄の炎がグリフォンを包み込んだ。
「キャー――――!!」
グリフォンの叫び声が響いたと同時に黄色い光となってグリフォンは消えていっ
た。
「俺たちのグリフォンが、一瞬にして……、消えただと……?」
「お、お前はいったい、何者なんだ!?」
恐怖に満ちた声で男らは俺に問いかけた。答えは一つだ。
「俺の名前は五十嵐 翔琉、異世界の者だ」
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「た、助けてくれて、ありがとうございました!」
彼女は可愛い声で俺にお礼を言った。
「当然のことをしたまでだよ」
カッコつけて余裕ぶった返事をする自分が痛い。
男たちは「お、覚えてろよ!」と捨て台詞を吐くとしっぽをまいて逃げて行った。
もうこれに懲りて悪さをしなければいいのだが。
「申し遅れました。私の名前は『ミーシャ・クラフト』と言います。ミーシャって
呼んでください!」
「あぁ、よろしくミーシャ。俺の名前は五十嵐 翔琉。翔琉って呼べばいいよ」
もうすっかり周りは暗くなっていた。
路地を抜けて俺たちは宿へと向かっていた。
「本当にいいのか? 別に俺はそこら辺のベンチで寝るからいいのに……」
「いいえダメです! 私だって一応冒険者なんですから少しくらいお金はあります!
それに、あなたは私を助けてくれた大切な恩人です。恩を仇で返すことはできま
せん!」
本当にいい子だ。可愛い上に性格もいいなんて、こんな女性がこの世の中にいる
とは。
そうこう言ってる間に宿に到着した。扉を開けると中は冒険者や亜人が酒を交わ
し盛り上がっていた。人混みの中を何とか受付まで進むことができた。
「あ、あの……」
「どうした?」
か細い声でミーシャが俺に話しかけてきた。
「さっきあんなことを言ったのに申し訳ないんですが……」
何か言いづらそうにもじもじとしていた。
「その……、私もそんなお金を持ってなくて……、だから、その……」
(ま、まさか……!)
ミーシャが言いたいことを勘づいてしまった。
「相部屋でも……、いいですか……?」
俺の思考は停止した。