#02 Who is the Brave?
#02 Who is the Brave?
俺の一声のせいで、室内の人々が一斉に俺を見た。
いきなり注目の的になってしまい、どうして良いかわからないので、とりあえず挨拶をしてみる。
「……えーと、こんばんは……かな?」
(さっき迄もそうだが、どうして俺は、リアクション取りづらい状況に置かれるんだろう……)
「……」
暫し静寂が流れ、非常に気まずい空気だったが、王らしき人物が困惑した表情で、口を開いた。
「3人目だと?一体どうなっている?」
(多分、勇者1人だけが召喚されると高を括っていた様だな……)
「こうなると誰が"勇者"か、判別が付かぬ……まさか全員が"勇者"なのか!?」
王は声を荒げて、こちらを見据える。
「[カイル]陛下、お気を鎮めて下さい。只今[アナライズボード]を準備致しますゆえ、暫しお待ちを……手が空いている衛兵共!急げ、急げ!」
側近が王を宥め、兵士に指示を出す。
(このハゲ散らかしたオッさん、随分と偉そうな喋り方するなぁ)
「すまぬ、[エギロト]。[ミウ]の事も心配で、少し気が立ってしまった。異界からの者達よ、非礼を詫びよう」
(おや?このカイルって王様、気難しい奴かと思ったら、そうでも無さそうだな。ミウってのは、メイドに介抱されてる、あの娘か……)
「ほんで、誰がウチらに説明してくれんねん、つうか此処ってドコや?」
今度は作業服の女性がカイル王に向かって、声を荒げた。彼女が憤慨するのに合わせ、ポニーテールが揺れる……
しかし、それを誹謗する様に、側近が直ぐさま声を上げた。
「貴様、勇者候補とはいえ、陛下に直言とは無礼であるぞ!!」
(またコイツか……いちいちしゃくに触る言い方する…… それと、勇者候補?嫌なワードが聞こえた……)
すると、カイル王が抑止する様に腕を上げる。
「エギロト、御主こそ抑えよ」
カイル王が側近を嗜める。
「も、申し訳ありません。カイル陛下……」
側近は、まさか注意を促されるとは思わなかったらしく、戸惑いながら頭を下げた。
「家臣の非礼を詫びよう、異界の者よ。そうだな、貴殿達に順序良く、説明せねばならぬな。俺の名は、[カイル・ラガルド]。[リザンコット国]を治める王だ」
俺は、カイルと名乗った男の言葉に少し違和感を覚えた。
(王様なのに一人称が"俺"?普通は"余は"とか"我輩は"って威厳を示す言い方しないか?)
カイル王は説明を続けた。
「3日前、王都に魔族の使い魔が現れた。厳密に言えば、王都に到着する前に何かに襲われたらしく、城壁の手前で生き絶えていた。普段なら死体を処理して終わるのだが、使い魔は[レコードクリスタル]を所持していたのだ。衛兵、例の物を持ってまいれ」
兵士の1人が、水晶が置かれた小さ目のテーブルを持って来た。水晶はボロボロで、あちこちにヒビ割れが走っている。
「これが、使い魔が所持していた、クリスタルだ。これも襲われた際にダメージを受けたらしく、画は映らないが、音だけはかろうじて、聞き取れる。俺が説明するより早いだろう、何せ魔王直々の言伝だからな。術師、魔力を流せ」
ローブを纏った神官らしき人物が、クリスタルに両手を翳す。
(この神官みたいな連中は、魔法使いなのか?よく見ると部屋の至る所に居る)
「魔力に、魔王やて?」
驚いた様に、作業服の女性が上ずった声を出した。
やがて、水晶が淡い光を浴びて、水晶から声が聞こえてきた。
「……余は、魔族を束ねる王、[ビャーナ・シャリオン]……
……我々魔族は、……他国の……し……、人界への……たたかい……願う。
近々、貴殿の元へ……取らせて頂く……余自ら……、我が国の幹部……と……、王都リザンコットに……我が……行く……待っておれ」
酷いノイズで、音声は途切れ途切れだが、メッセージの主は間違いなく"魔族を束ねる王"と名乗った。
再生が終わると、カイル王が静かに口を開いた。
「聞いての通りだ。近々、王都に魔王軍の侵攻があるだろう、我等は宣戦布告だと受け取った。そこで
勇者をこちらの世界に招き、魔王討伐を託そう。というのが今の現状だ」
(変だな……勇者として魔王を倒し、世界を救うのは無しの筈だが……騙されたのか?あのポンコツ女神め!!)
「嫌だぁ!!家に帰りたい!!」
突然女子高生が泣き叫ぶ。それを宥める様に、作業服の女性が、背中を摩りながら、カイル王に問いかけた。
「これ、誰かの悪戯ちゃうん?」
「レコードクリスタルは、人界では採掘量が少なく希少だ、逆に魔族領では豊富に採掘されると聞く。戯言で用いるには割に合わぬ、魔王本人と見るのが妥当であろう」
「なぁ、推測やけど、アンタらの世界って、剣と魔法がデフォルトなんやろ?だったらアンタらで何とかなるんとちゃうの?ウチら普通の日本人には戦いなんて無理やで」
(この作業服の女性、周りの状況と、これまでの会話の情報から、この世界の設定を推理したのか!中々頭がキレそうだな……)
「デフォルトとは、何だ?知らぬ言葉だが、察しが良いな、異界の者よ。俺や、手練れの冒険者ならば、剣や魔法で、魔族と互角に渡り合えるが、一般的な兵士では、無駄に命を棄てるだけだろう……魔族は、最弱でも人界の住人5倍以上の身体能力と魔力量を持っている。まして相手が魔王となると、勇者以外は立ち打ち出来ぬのだ……」
「剣に魔法に魔王に勇者か……大体読めたで」
(どうやら作業服の女性には思い当たる節がある様だな)
「ウチらがここに呼ばれたのって、勇者召喚やろ?」
「何故、貴様の様な小娘が、我が国の古い秘術を知っている!?」
エギロトが、驚き呟く。
「ほぅ、異界にも勇者召喚を知っている者がいるとは、話しが早い。貴殿達の力、いや勇者の力で魔王を討伐し、我が国を守ってくれ」
「あんなぁ、アンタら勝手すぎやないか?ウチらの世界の事も知らんと呼び出しといて、魔王倒せとか!こう見えてもウチはバリバリのゲーマーやさかい、大体の見当はつくからええねん。ぶっちゃけあれやろ?ウチらのチート能力当てにしとるんやろ!?」
「ゲーマーと言うのも理解出来ぬが、そこまで把握してるとは想定外だ」
カイル王が感心した様に驚く。
「勇者召喚なんてベタなテンプレ、ウチみたいなマニアには鼻血もんやけど、この嬢ちゃんに、勇者は無理や!!普通の女の子やで。そっちの短髪の兄ちゃんは、もしかしたらやれるかも知らんけど」
(ごめんなさい、俺も無理です。魔王討伐の案件は、ポンコツから聞いてません……)
「ほんで、ウチらが魔王倒すの断ったらどうする気や?また補充で無関係な人間呼ぶんか?」
「次に勇者を召喚出来るのは、100年後と書物に記されている。今、魔王を討伐出来ねば、リザンコット国が堕ちる。リザンコットが堕ちれば、人界は滅ぶ……勇者に拒否権は無い!」
「ほな、もう1個言わしてもらうわ、魔王倒したら、ウチら元の世界に帰してくれるんか?」
「すまぬ……勇者召喚は異界より呼ぶ方法しか記されておらぬ。無論、元の世界に帰す方法は、俺が責任を持って見つける。だが今は……魔王がいつ侵攻して来るとはわからぬ為、時間が惜しいのだ!頼む、我々に協力してくれまいか!」
「んなアホな……」
カイル王と作業服の女性の問答が続くのを止める様に、部屋のドアが開き、兵士が息を切らしながら入って来た。
「アナライズボードの用意が出来ました!」
甲高い声が室内に響く。
(ん?よく見ると兵士は皆んな女性じゃないか。術師って呼ばれてた人達は皆んな男だし、妙な役割分担だな……)
兵士がタブレット端末の様な物を、エギロトに手渡す。エギロトは偉そうな態度で、俺達に言った。
「これはステータスを視る為の魔道具だ。これで誰が勇者かハッキリするだろう。先ずは威勢の良い娘、御主だ」
最初に白羽の矢が立ったのは、作業服の女性だった。エギロトが作業服の女性にアナライズボードを不愛敬に渡す。
アナライズボードを仕方無しに受け取ると、彼女は王と、エギロトに向けて啖呵を切った。
「ええやんか、ウチが勇者やったら結果オーライなんやろ!?ほなやったるわ!で、どないするんこれ?」
(あちゃー、やっちまったなぁこの人、自分は勇者じゃないフラグ立てちまった……)
側に居た兵士が、丁寧に説明する。
「こうして、アナライズボードに掌をかざして下さい」
作業服の女性は、言われるがままに従って、掌をボードに向けた……
すると、ゲームでよく見たステータス画面の様なものが空中に投影された。
(さっきのクリスタルもそうだけど、どういう技術なんだろう?あのポンコツはフリーダ・ルルの住人はバカばっかりって言ってだけど、凄いぞこれ)
「出ました!しかし……此方の方は勇者ではありません、魔具師です!」
カイル王が少し落胆した表情で呟く。
「貴殿が勇者ではなかったか……」
フォローする様に、エギロトがしゃしゃり出てカイル王に話しかける。
「陛下、この者、勇者ではなくともMPが高く、属性魔法の適性が4種もあり、従者としての素質が充分ですぞ。魔具師として、我が軍の装備作成にも役立ちますし、中々の上物では?」
(うわ……このオッさん、俺達を駒として使う気だ……)
「何や魔具師って?名前からすると生産系やんか!アカン……ハズレ引いてもうた……、いや、ウチにはアタリか!?」
(ハズレと言ってる割に、何故か嬉しそうだな、この人)
「どれどれ?はーん、ベースレベル概念無しで固定ステータスか……装備強化とスキル熟練度で強くなるシステム、あのゲームと同じやな……ほな、あれをこうして、こうすれば……イケるやん!!」
(何か、訳わからない事言い始めた……でも、ステータスってのがどんなものか気になる。他人のプライバシー覗くみたいで気が引けるが、一応見ておこう)
俺は、空中に投影された画面を見て驚いた。
名前: ライデン ツカサ
種族: 人族
職業: 魔具師
称号: 異界からの賢人
HP: 500/500
MP: 850/850
STR: 5
VIT: 4
INT: 9
DEX: 8
AGI: 5
LUK: 8
スキル: 翻訳Lv9、リペアL v1、クリエイトL v1、融合Lv1、錬金Lv1、弓術Lv1、属性魔法(火Lv1)、属性魔法(水Lv1)、属性魔法(風Lv1)、属性魔法(土Lv1)
「能力が数値化されてる!ゲームみたいだ!!」
思わず声を出してしまった俺に、彼女が話しかけて来た。
「何や兄ちゃん、東京もんか?どう思う?この状況」
「ああ、そうだけど……えーと、正直、頭が混乱してて、良くわからない」
俺は、女神の件もある為、取り敢えず知らないていでお茶を濁す事にした。
「ふーん、ま、ええか。」
(何か、変な疑いをかけられた様な気がする……)
「ウチがハズレたっちゅう事は、兄ちゃんか、嬢ちゃんが勇者やもんな」
俺は彼女の一言で、これから起こる事態に気づいた。
女神の言ってた、勇者として魔王を討伐するのが俺じゃないとすれば、勇者はあの女子高生って事になる。
女子高生にそんな重大な責任を押しつけてしまって、はたして耐えられるだろうか?
「次は、術師の様な格好をした貴様だ!」
考え事をしていた俺に、順番が回って来た。兵士からアナライズボードを受け取り、さっきのやり方を真似て掌をかざしてみる……
空中に俺のステータスが投影された途端、エギロトが罵倒の声を浴びせた。
「な、何だ、この低いステータスは!?異界の者だから期待したのだが、ゴミではないか!!」
「えっ?どういう事だ?」
俺も自分のステータスを見て驚いた。
名前: カミシロ ジョウ
種族: 料理人
職業: 人族
称号: 巻き込まれし者
HP:70/70
MP:50/50
STR: 1
VIT: 1
INT: 1
DEX: 1
AGI: 1
LUK: 1
スキル:翻訳Lv9、解体Lv5
(いくらなんでも、これは酷い。さっきの彼女と比べると、俺のステータスこそハズレじゃないか……)
「うぅむ……ステータスが著しく低いが、料理人とはどういう職業なのだ?」
カイル王も困惑している。どうやら料理人という職種を知らない様な口調だ。何故だか、《ライデン ツカサ》が俺を疑念の目で見ている。
(……俺、貴女に何かしましたか?)
「えーと、食材を調理して、食事を提供する仕事……としか説明出来ないけど……」
(あのポンコツ女神!チート仕様ってのは嘘だったのかよ!!)
「話しにならぬな!飯を作るなら、駆け出しの冒険者でも当たり前にやる事。それが職業だと!?馬鹿馬鹿しいにも程がある。幸い解体のスキル持ちだから、[リーニスの街]で冒険者にでもなるが良い!!ええい、時間を無駄にした!最後はそこの娘だ!!」
エギロトが、俺からアナライズボードをひったくり、女子高生に向かって歩く。
(いい加減、このオッさんにはキレそうだ……でも、俺が勇者じゃなかったって事は、あの女子高生が……)
「嫌!!私は勇者なんかじゃない!!家に帰して!!」
女子高生は本気で怖がって、抵抗している。それを兵士が2人がかりで無理矢理に起こし、エギロトがアナライズボードを目前に差し出す。
「おい、嫌がってるだろ!乱暴に扱うな、女の子だぞ!!」
俺は兵士達を女子高生から引き離そうと思ったが、それより早く兵士の1人が吹っ飛んだ。どうやらライデン ツカサが俺が行動するより先に、兵士を蹴飛ばした様だ。
「アンタらええ加減にせいや!!人にもの頼むんならなぁ、それなりのやり方ちゅうもんがあるやろが!!この散らかりハゲ!!」
(ズバッと言っちゃったよ、この人!)
「ち……散らかり……ハ……ハゲだと!?……」
怒りを抑えて小刻みに震えるエギロトを見て、何人かのメイドが小さく笑った。よく見るとカイル王も笑いを堪えるのに必死の様だ。それを後目に、彼女は女子高生に寄り添い、宥めながらこう言った。
「大丈夫や、もし嬢ちゃんが勇者でも、ウチがサポートしたるさかい安心しいや。取り敢えず、この状況を何とかしよな」
彼女の優しい言葉に、女子高生も少し落ち着きを取り戻す。
カイル王は、エギロトを下がらせた後、片膝をつけて詫びを入れた。
「若き娘よ、貴殿に恐怖心を植え付けてしまった事を許して欲しい。だが、貴殿が最後の希望なのだ!どうかアナライズボードに掌を添えてくれぬだろうか」
ライデン ツカサとカイル王の言葉に諭されたのか、女子高生は涙を拭い、アナライズボードに恐る恐る掌を差し出した。
やがて、空中に女子高生のステータスが投影された。
名前: アマクモ ナナセ
種族: 人族
職業: 勇者
称号: 勇しさと慈愛に満ちた乙女
HP:999/999
MP:999/999
STR:9
VIT:9
INT:9
DEX:9
AGI:9
LUK:9
スキル:翻訳Lv9、全属性魔法Lv9、雨雲流抜刀術Lv9、身体操作Lv9、裁縫Lv9
(凄いなこの数値!でも"裁縫"って勇者向けのスキルじゃないだろ。だとすると元々持ってた能力か?それなら俺の料理の能力は何故表示されなかったんだ!?)
「皆の者、今ここに勇者が降臨され、我等の希望も繋がった!ステータスは9オール!!この世界で最強の勇者であろう!!我々の勝利は決まった様なものだ!!」
女子高生のステータスを見たカイル王が歓喜の声を上げ、周りの兵士や術師達も安堵の表情を見せ始めた。
「なぁ、ステータスの平均値と上限ってなんぼや?」
ライデン ツカサが、側に居た兵士に尋ねた。
「えー、町民を例えとしますとHPが100、MPが50もあれば良い方で、魔法が使えない者もいますね。ステータスは1か2が普通で、9が上限値と言われていますが、8位上を持つ者は殆どいません。9オールなんて凄まじいステータスは、私も初めて見た位なので、勇者様は伝説級の強さかと……」
説明する兵士も、何故か興奮している様に見える。
「流石勇者のステータスや、チート仕様ってこういう事やねんな。ほんなら、あれは……おかしい……何でや?」
何故かライデン ツカサがぶつくさ言いながら、こっちをチラチラ見ている。
「私が、勇者……私が、魔王を討伐しなければ……」
アマクモ ナナセの顔が蒼白になっていき、体がグラグラ揺れ始めた。
(ヤバい!!倒れる!!)
俺がそう思うと同時に、ライデン ツカサも声を上げる。
「アカン!間に合うか!?」
走り出そうとするライデン ツカサ。だが、離れていた俺の方が早くアマクモ ナナセを支える事が出来た。
(咄嗟に飛び出したけど、間に合って良かった)
「誰か!この娘を!!」
俺が声を上げると、数人の兵士とメイドが彼女を部屋の端に運び、介抱し始めた。
「勇者は大丈夫なのか?」
カイル王が心配そうに俺に尋ねてきた。
「精神的ショックで気を失ったんだろう。少し休ませてあげれば大丈夫だと思う」
「わかった、こちらで手厚く看病しよう。して、貴殿等の待遇だが……」
カイル王の言葉を遮る様に、蹲っていた女性を介抱していたメイドの1人が叫んだ。
「大変です!カイル様!、ミウ様が意識を失いました!!」
「何!?ミウもか!」
カイル王が、慌ててメイド達の方に駆け寄ると同時に、エギロトが横から口を出す。
「メイド!言葉を慎め!!陛下を付けぬか無礼者!!衛兵、直ぐにミウ王女を寝室へお連れしろ。」
(また、このオヤジか!今はそれどころじゃないだろうに……)
「カイル陛下、失言申し訳ございませんでした……」
エギロトに叱られたメイドが、塞ぎ込む。
「よい、緊急ゆえに慣れぬ呼び方は、仕方のない事だろう、気を落とすな。エギロト、回復術師と薬師を早馬で手配しろ。俺も直ぐにミウの部屋に向う。」
カイル王は、手早く部下達に指示を出していく。見た目は若いが、指揮を取る者としての立ち振舞いは立派なものだ。
「異界の者よ、此方の都合で呼び出してしまい申し訳ない。貴殿達も夜道は危険ゆえ、今夜は城で食事を取り、疲れを癒すがよい。夜が明けたら大臣のエギロトに相談し、今後の方針を決めればよいだろう。少ないが、恩賞も用意しよう。すまぬが俺は、これで失礼する。」
カイル王は俺達に一礼をし、数人の兵士と共に足早に部屋を出て行った。
家臣達がカイル王を見送ると、俺達のところにメイドが数人やって来た。
「私共が御部屋に御案内致しますので、御一人様ずつこちらへどうぞ」
どうやら、個別に部屋が用意されている様だ。
「ウチはこの娘に付いてやらなあかんから、一緒の部屋でええ。」
ライデン ツカサはアマクモ ナナセの付き添いを申し出て、今夜は一緒にいてくれるらしい。
(この人喋りはキツいけど、姉御肌で面倒見良いんだな)
「カミシロさんだっけ?アンタには色々と聞きたい事あんねん、ほなまた後でな」
そう意味ありげな言葉を残し、メイド達と先に部屋を出て行った。
(さっきもチラチラ見られてたし、これって、もしかして恋愛フラグ?)
「じゃあ、俺も休むとするか……色々ありすぎて、少し疲れたな……」
そう呟いて、部屋を出ようとする俺に、エギロトが何か文句でもありそうに声をかけて来た。
「カミシロとやら貴様に少し話しがある。」
(今度は何だよ!?)
「陛下は貴様にも、食事と寝床と恩賞を提供されると言ったゆえ、今夜は城に留まる事を許すが、いくら異界人とは言え、貴様の様な使えぬ者に、我が国の金を使うのは勿体ない。明日、日が昇ったら速やかに王都から立ち去るが良かろう。せめてもの情けで、リーニスの街迄の地図くらいは用意してやろう、有り難いと思え。わかったら、さっさと謁見の間から立ち去れい」
これまで、仕事で客と揉める事もあったが、相手は酔っ払いだと思えば我慢も出来た。けれど、今回は違う。流石に普段温厚な俺も、この一言で頭来た。
「あ?ふざけんなよ!こっちが下手に出りゃ、調子こきやがって!アンタがこの国でどれだけ偉いか知らねぇけど、何様のつもりだ?」
そう言ってエギロトを睨みつけてやった。
「ふん、貴様の様なゴミステータスなんぞ、幾ら吠えても怖くないわい」
テレレーン♪
突然、頭の中に変な音が響く……
すると、さっきまで気丈に話していたエギロトが、何故か急に狼狽し始めた。
「な、何じゃその反抗的な目つきは……」
テレレーン♪テレレーン♪テレレーン♪
「まただ、何の音だ?この音は、お前の仕業か?」
エギロトを更に睨みつける。
「し、知らん……何の事を言っているのか……」
今度は俺を化物でも見るかの様に怯えて、ガタガタ震えて腰を抜かして座り込んでしまった。
「わ、儂は貴様に伝えたからな!明日になったら王都を出て行けよ。ひぃぃ、衛兵、て、手を貸せ、早く儂を運べ!!」
そう言うと、エギロトは這いつくばう様にして謁見の間から逃げ出す様に出て行った。兵士達は、エギロトに助けを求められたが、誰一人手を貸そうとしなかったのが笑えた。
「何だアイツ?」
エギロトの姿が見えなくなったせいなのか、不思議と俺の怒りも収まった。そして、俺とエギロトのやり取りを離れて見ていたメイドが不安そうに声をかけて来た。
「カミシロ様……だいぶ御立腹の様でしたが、大丈夫でしょうか?……」
「あ、ごめんな。何かみっともないとこ見せてしまったね……」
(異世界に来てブチ切れるとは情けない、反省せねば……)
普通の口調で話す俺に安心したのか、メイドも微笑んでくれ、
「いえ、私も大臣の情けない姿見れて、胸がスッとしましたよ。」
と小声で耳打ちしてくれた。
(あのオッさん相当嫌われてるんだな……)
「では、改めまして、御部屋に御案内致しますね」
そう言って、メイドは謁見の間のドアを開けてくれ、俺も部屋を出た。廊下は薄暗く、明かり取り用の窓穴からは、秋風の様な心地よい空気が入り込み、俺の頬を優しく撫でていった。
To Be Continued