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ハーフムーン 逆転世界  作者: 宮崎 亀雄
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消滅する宇宙 前編

消滅する宇宙 前編


 アニマが退院する日、手の空いている看護師達が集まって皆で見送くってくれた。事情を知らない人なのだろう、「次に来る時は、是非赤ちゃんを生む時にきてね」と、全快祝いの言葉を送ってくれたりもしたけれど、アニマは気にもとめない風に、「カオルの方が早いかもしれませんよ?」と、冗談で返す余裕を見せた。


 カオルの家に着くと。アニマは両親に温かく迎えられて自室を与えられ、父親の働きかけで、戸籍の無いアニマを養子にする事ができた。 

 カオルの両親の喜ぶさまは、まるで古い友人の来訪のように家庭を明るく変えて、特に母親はアニマを実の子供の様に慈しむのだった。


 学校も双子の兄妹としてカオルと同じ高校に入学することができた。アニマは編入試験を歴史社会を除けばほぼ完璧にこなしていた。ところが、問題はその後だ。





「月野アニマです。海外生活が長かったから、わからないことも多いので、皆さん色々と教えてください。よろしく」


 教室ではアニマの紹介が行われている。学校も気を使ったのだろう、アニマはカオルと同じクラスに編入していた。

『何あれ、ナルシスがひとり増えちゃったよ』クラスの女子達が噂する声が聞こえてくるようだ。

 まるで鏡を見るほどにそっくりな二人が同じクラスにいる。それも今度は女なのだ。クラスの生徒達の反応は様々だった。

 

 カオルは美少年ではあったが、その少女っぽい雰囲気が女子からは敬遠される原因だった。何しろカオルは、女の子以上に可愛らしかったから、女子としては女のプライドがじゃまをしていたし、男子は女子の目を気にしていた。カオルと仲良くしていると、すぐにホモセクシャルと噂されてしまう。だから、学校では幼馴染の涼太だけがカオルの味方だったのだ。


 そこへアニマが現れた。





「なんだよ、水くさいぞ! あんなかわいい妹を隠してたなんて!」と騒ぐ涼太に、「僕も最近知ったんだよ」と、カオルは答えるしかない。

「やっぱ、彼氏とかいるんだろうなぁ」涼太がしつこいので「遠距離の彼氏はいるみたいだよ」と、カオルが答えると、本気で残念がるものだから、「代わりに僕が女装してやろうか? 」とかいってからかうと「よせやい!」と涼太は不機嫌になってしまった。


 その上アニマときたら、学年主任の先生でさえも誘惑してしまうのだ。何しろ、アニマに上目遣いで見詰められてしまうと、たとえ強面こわもてな先生であっても「お前の妹可愛いよな、しかしいくら外国暮らしが長いから仕方ないとは言え、もう少し大人しくしてもらわないと、風紀が乱れるからな。お兄さんからよく注意しておきなさい」などと、カオルが注意されてしまう始末だった。


 生真面目なカオルは、アニマにこのことを問いただすのだけれど、「男を骨抜きにするくらいの訓練は受けているからね。必要なら先生を味方につけてあげてもいいよ?」などと、あっけらかんと答える。


 カオルはスパイって女の子を口説く訓練もするのかな? と、少し羨ましくも思った。





「アニマちゃん学校はどう? 少しは慣れたかしら?」カオルの母親が優しくアニマに声を掛ける。

「はい、クラスの人気者カオル君がよくしてくれるから、ね? 」アニマに煽てられ、話を振られたカオルは、途端に居心地が悪くなる。


「アニマは僕と違って出来る人だからさ、心配いらないよ」と、煽て返してカオルは、「でもさ、女子とはあまり話してないよね。男子が多いみたい」と言った。するとアニマは「それは仕方ないでしょう。だってあたしはモテるからよ」と返すのだった。


 事実、アニマは女子の輪に溶けこめていない。





 当番のアニマが「波多野さん、先生が二人でパソコンを教員室に運んでって」と声を掛け、備品を纏めて二人で古いパソコンを重そうに運んでいたとき。

 波多野が「男子に手伝わせればいいのに」と不満を漏らした。そして「それにしてもあなたたちって本当にそっくりよね。たまにどっちがどっちか混乱しちゃうわ」というので、アニマは「気持ち悪い! くらいに?」と笑って言い返した。


「あの時の事、言いふらしたのね!? 最低な奴!」波多野はカオルがアニマにフラれたときの事を喋ったと思い憤慨した。


「違うよ! あたし見てたんだから。カオルは確かに馬鹿だけど、フラれた腹いせに言いふらしたりするような奴じゃない。馬鹿がつくほどお人好しで、女を見る目が無いだけなの!」と、気の強いアニマも言い返すものだから険悪な雰囲気になった。





 普通の女子のケンカならこのままお互いを無視するものだけれど、勿論アニマは違っていた。不意に波多野にからだを密着させると、息がかかるほどまで顔を近づけて「波多野さんってさ、やっぱ可愛いよね。面食いのカオルが惚れるだけのことはあると思うよ」と言った。


 アニマの突拍子もない行動に、流石の波多野もあっけにとられてしまう。「でもね、あたしの方が波多野さんより断然可愛いんだからね!」

「なっ! 何を!」アニマの術中に嵌っている波多野は顔を上気させて、何も言い返せなくなっていた。


「悔しい? カオルにそっくりなあたしに言われてさ」そしてアニマは波多野の手を取り「でもね、あたし女の子なんだよ」アニマは艶かしい相貌をさらに近づけて、焦りと困惑の見える、見開かれた波多野の瞳をジッと見詰めながら、波多野のてのひらを自分の胸に押し当てた。呆然と立ち尽くしている波多野の唇に、少し爪先つまさき立ちなアニマの唇が重ねられる。

 驚きと恥ずかしさに正体をなくし、その場を逃げ出すことしか出来ない波多野の後姿を、アニマは見送りながらクスクスと笑っていた。





***


 「だってね、クラスの女子たちったら生意気なんだもの」ソファーに寝そべるアニマが意地悪そうに片方の口角を上げて微笑む。

「そんな事してるから女の子の友達が出来ないんだろう」アニマはカオルの心配など、どこ吹く風で「あたしにキスしてもいいよ。今なら波多野さんと間接キスだぞ!」クスクスッと笑っている。

「もう! そういうのやめてよ」カオルもアニマにはからかわれっ放しだった。 


「それよりさ、波多野さんカオルの事本当は嫌ってないと思うよ?」と言った。そして「えっ、それ、ほんと?」と喜んでいるカオルに「ホント、カオルは単純なんだから、そんなんだから彼女出来ないんだぞ」と嘆いてみせた。

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