表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/21

覇道ヶ七歩

 偶然知り合えた氏子のような例外を除き、筋骨隆々な巨躯により(ひそ)かな情報収集には向かぬ己は既に校内でも有名な評判の良い者しか探せぬ。なので希愛を紹介しようにもその者に既に好意を抱いておる相手がおる事も少なくない。女性側からの片思いであれば希愛の幸せのために涙を()んでもらう事も考えるが、男性側も少なからず好意を抱いておるのであればさすがにその仲を引き裂くような真似をするわけにはいかぬ。筋肉ゴリラの名折れとなる。

 そう考えれば意中の相手がおらぬと噂の宇佐美殿は珍しき方と言えよう。これを逃せば後は絶交覚悟で氏子を筋肉式強制連行する他なくなるので、当の氏子に助言を仰ぎつつ慎重に事を運ばねばなるまい。己のみならず氏子自身のためにも。

「む、あれに見えるは……」

 目に映るその姿に思わず眉をひそめてしまう。以前氏子に宿題で分からぬ点を教わっておった際に『それゴリラ顔が余計に(いか)つくなるから意識して止めた方がいいぞ。慣れたと思ったのにちょっとビビったし』と言われて以来気を付けておったにも関わらずである。通りすがりの男子生徒を怯えさせてしまった事は反省せねばならぬが、残念ながら今は表情が戻らぬので謝罪もできぬ。

 それほどまでに不快な者の姿が己の目に映っておる。名は覚える気にもなれぬので分からぬが『ラブコメ主人公もどき』という蔑称は知っておる。見目のみならず言動も凡庸であるにも関わらず一部の美少女らより好意を抱かれておるので一見すると少年誌の主人公のようではあるが、あの者はあくまで主人公もどきでしかない。その証拠と言っては何だが今あの者が(はべ)らせておる美少女の一人は先日悪漢共に絡まれておるところを己が阿修羅威圧相で助けるも気絶させてしまった相手である。ついでに言えば主人公もどきとやらは己が到着する前に悪漢の拳打一つで気絶させられその辺りに転がっておった男である。

 その程度の男に希愛は任せられぬ。意識の戻った二人の間でどのような事実誤認があったのか詳細は分からぬが、少なくともあの美少女はあの男に助けられたと勘違いしておるらしい。だが実際に助けたのは己の筋肉である。そしてあの男も自分が覚えておらぬだけで自分はあの美少女を救えたのだと勘違いしておるらしい。だが実際に救ったのは己の筋肉である。希愛を任せられるとすればあの事件のような事態が再び起ころうとも希愛を守り抜ける者でなければならぬ。故にあの男は論外と言えよう。

 無論いくら己とて希愛の相手として論外だから眉をひそめるほど毛嫌いしておるわけではない。原因はあ奴らの視線の先にある。

「おっ、ゴリラと小筋(こすじ)先輩じゃん」

「相変わらず美女と野獣だわ」

「あんなゴリラが幼馴染だなんて小筋先輩かわいそうです」

「その点私の幼馴染は……まあ、良い男よね」

「え、何だって?」

「何でもないわよこの鈍感!」

 虫酸が走る! あ奴らの言うゴリラは己ではない。野球部主将にして四番打者かつ正捕手の三年生、五里松(ごりまつ)千万(ちよろず)殿の事である。美人な幼馴染の小筋千代子殿がおるせいか二年生の中には妬み毛嫌いしておる者もおるようだが、同学年や野球部の者からの支持率は高い。身長一九六センチの筋肉質なゴリラ体型でなお人に好かれるその姿は己の目標である。

 希愛の相手どころか己が求愛したいくらいの素晴らしき御仁であるが、残念ながらと言うべきか当然の事と言うべきか、五里松殿と小筋殿は両思いの仲である。今は甲子園を目指し部活動に専念したいからと交際はしておらぬが夏が終われば……という話を五里松殿の事を調べておった際に己の筋肉を見て横恋慕を警戒した小筋殿より聞かされておる。五里松殿にも確認を取り断念したので間違いない。

 そして実際に話した印象より実にお似合いな二人であると理解した己にしてみれば、知る者は陰ながら応援しておる二人の仲をたかが見目の差で不釣り合いと断じる愚か者など評価する価値もない。五里松殿は人間としても異性としても己にとって理想の相手である。馬鹿にする事は許せぬ。

「でもあの二人って両思いって噂ありますよ?」

「はあ? んなアホな。だとしたらどんだけ男を見る目ないんだよ小筋先輩」

「そうですわ。噂は噂にすぎませんわ」

「もしかしたらあのゴリラが変な噂を流しているのかもしれないわね」

「何だと!? なら助けないと!」

 ……何やら愉快な話をしておるではないか。


「はいそこまで。余計な事を考える暇があるなら試験対策でも考えておけ」

 後頭部を軽く叩かれながら投げかけられた言葉により何とか落ち着きを取り戻す。

「すまぬな氏子よ。危うく阿修羅有情(ゆうじょう)拳を放つところであった」

慈愛掌(じあいしょう)ですらないのかよ。止めて正解だな」

 己の筋肉秘技の中では最弱である阿修羅慈愛掌であれば相手の身体を何メートルか先まで吹き飛ばす程度の威力しかないが、阿修羅有情拳であれば吹き飛ばしで破壊力を散らす事なく内臓に深刻なダメージを与える事ができる。故に有情拳以上の筋肉秘技は禁じ手としておる。しておるというのに……まだ筋肉が足らぬから自制心の鍛え方も足らなくなるのであろう。

「まあ気持ちは分かる。五里松先輩だけじゃなくて小筋先輩まで馬鹿にされたんだからな。敬愛する先輩が二人同時にとなったら無理もないだろう」

「その通りだが、それで済ませてはならぬであろう」

「そうやって反省できるなら大丈夫だろう。ほら行くぞ。あんな連中に関わってもろくな事になるわけがないんだから」

「であろうな」

 願わくばあ奴らと希愛が関わる事のないよう。

むしろ五里松先輩の方がラブコメ主人公感あるという。

そしてスポーツ物の主人公感もあるという。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ