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覇道ヶ五歩

五話かつ一万字超えなので、

そろそろタイトル要素を回収せねば。

 己の通学は徒歩である。徒歩圏内の高校を選択したのは希愛に万が一の事があった場合を考慮しての事だが、自転車を使わぬ理由は鍛練となるような急勾配(こうばい)の坂道などが無いためである。老若男女問わず利用する道である事を思えば良き事なのだろうが、己の筋肉には物足りぬ事に変わりはない。元より鍛練も兼ねて急用でもない限りは自転車に乗らぬ己ではあるが、これではせっかくの己の筋力に耐え得る強度を誇るそれなりに高価な自転車が置物も同然である。暇を見つけて整備はしておるが、最後に乗ったのはいつの事だったか。

 とにかく己の通学は徒歩である。鍛練としての効果を考えれば全力疾走をしても良いのだが、その結果中学時代に『ゴリランナー』という都市伝説の怪物として語られた事があるのでやはり急用でもない限りは負荷を意識しながら歩いておる。ただの歩行とて全身の動作や筋肉の負荷を意識すれば立派な鍛練となる。筋肉はただ膨らませれば良いというものではない。筋力を十全(じゅうぜん)に発揮できねば筋肉を極めたとは言えぬ。希愛を守るためという初心(しょしん)を忘れる事はないが、今や強く美しき筋肉の極みを追求する事は己の日課である。筋肉の魔性、恐るべし!


 そして徒歩通学であればこそ、不測の事態に対する反応も早い。

「やめてよ! 返してよ!」

「うっせこのザコが! 悔しかったら取り返してみせろやこのボケ!」

「そうだそうだ!」

「まあオメーみたいなザコじゃ一生かかってもムリか」

「それ言えてる~ぅ」

「ギャハハハハハハハハ!」

 全員が真新しいランドセルを背負っておる事から察するに、この春小学校に入学したばかりなのだろう。ガキ大将らしき図体は大きいが器は小さな小童(こわっぱ)が手にしておるのは、あの見るからに気弱そうな(わらし)の体操服袋であろうか。取り戻そうと童が近付いては取り巻きらしき小童に突き飛ばされる。その繰り返し。

 暴力に物を言わせた横暴。己には何が楽しいのかまるで分からぬ。己の筋肉であれば高校を暴力による恐怖政治で支配する事もできるであろう。それほど筋肉を鍛え上げてきた自負はある。だからこそ、魅力ではなく暴力でしか繋がれぬような底の浅い人間関係に何の楽しみがあると言うのか、己にはまるで分からぬ。

 なので素直に問う事とした。

「小童共よ。お主らは何が楽しいというのだ?」

「あん? 何だオレ様に説教しようって――うわキモっ!?」

「誰この変態ゴリマッチョ!?」

「ビエェ~ン! 助けてママァ~!」

「今の隙に取り戻せ……ないか」

 ゴリマッチョは良いが変態とは人聞きの悪い。それにしても、己の巨躯を前に一番冷静なのがあの見るからに気弱そうな童とは意外である。何故この程度の小童共に嫌がらせを受けておるのか。解せぬ。

「お、おおをお落ちちゅけお前ら! 大人が子供に手を出したらいけないんだ! このオッサンはオレ様達に手を出せねえ!」

「そ、そうか! そこに気付くなんてさすがだぜ!」

「ママ~、ママァ~ン!」

「だから落ち着け!」

 ……ほう。よもや己をオッサン呼ばわりしようとはな。下校中故に制服姿である己を見て。暴力に物を言わせた横暴に始まり、己の唐突な問いかけに答えぬのはまだ良いとして、人聞きの悪い変態呼ばわりが加わり、強者ぶっておきながら子供という弱者としての立場を盾にしようとは、見下げ果てた性根である。

 無論いくら己とてこの状況で暴力に訴えるほど大人気なくはない。だが残念な事に己はまだ高校生、未成年である。相手が小童とはいえ理不尽に変態呼ばわりされてなお怒気を抑えきれるほど大人ではない。何よりこの程度の小童共が相手であれば元より直接手を出す必要など無い。

「己はまだ高校生だ!」

 阿修羅(あしゅら)威圧(いあつ)(そう)。本来は暴力に頼らずに悪漢共を追い払うための己の筋肉秘技の一つである。そう、本来は断じて小童を威圧するためのものではない。筋肉を隆起(りゅうき)させつつ覇気や闘志を解き放つ事で相手を威圧するだけの技なので身体的な危険は無いが、残念な事に平時の己の巨躯にも恐れをなす程度の小童共の精神的な安全までは保証できぬ。いやはや実に残念である。

「ヒッ、ヒギャアアアアアア!!」

「あばばばばばば!?」

「マンマ。マンマ、アァ~」

「あ、落とした。今なら取り戻せる!」

 失禁しておる者や半ば幼児退行しておる者もおる惨状で一人冷静に体操服袋を取り戻し、己を盾にするように陰に隠れる童。本当に何故この程度の小童共に嫌がらせを受けておるのか分からぬ童である。だが今となっては長居は無用。指一本触れておらぬとはいえ高校生が小学生を泣かせたという状況はよろしくない。早くこの場より立ち去らねば。

 そう判断し『ゴリランナー』伝説を復活させんばかりに疾走しようとしておった己の背に幼き声が届いた。


「ありがとう、ムキムキな()()()()()!」


「うむ。お主も筋肉を鍛えるがよい」

 ……別に助けようと正義感を発揮させたわけでもないのに礼を言われようとは。何ともこそばゆいものである。思わず半ば照れ隠しに筋肉の素晴らしさを説いてしまった。

 とにかく早くこの場より立ち去らねば。制服のスカートのはためきにも気を付けながら。何せ筋肉ゴリラといえど、己は歴とした現役女子高生なのだから。

『霊長類最強』で検索したらあの方が

出てきますよね。そういう事です。

ちなみに本作の背景色は『撫子色』です。

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