覇道ヶ四歩
予約掲載したはずなのにミスっていたみたいですね。
今朝更新するはずだったのに……
「どうだ氏子よ。なかなかの出来だとは思わぬか?」
「なかなか酷い出来の脅迫状だとは思うぞ?」
「人聞きの悪い言い方をするでない。己とてお主の指摘により日々成長しておるのだ。この文に脅迫状と誤解されるような点などあるはずなかろう」
「それこそ誤解だぞ仁王。強いて言うなら脅迫状ってだけで、単なる呼び出しとしてはもちろん、脅迫状としても出来損ないだからな」
「なお悪いではないか」
己が連休中に知恵と筋肉を振り絞り書き上げた文だと言うのに、果たし状や脅迫状呼ばわりどころか、その脅迫状としても出来損ないと評されるとは。進歩しておるのかどうかもよく分からぬ評価ではないか。文として退化しておると言われた日には筋肉式鼓舞術の出番となる。
「俺としては連休明けて久々に顔を合わせた友人にこんな怪文書を読ませた事を悪く思って欲しいくらいだよ。何でお前は毎回俺が指摘した内容を一つずつしか改善していけないんだ? わざとか冗談の方がまだ理解できるぞ?」
「何を馬鹿な事を。脳筋の称号を持つ己と言えど、そこまで要領が悪くては人並みの学力を維持できるはずなかろう」
「だからわざとか冗談の方がまだ理解できるんだよ。何なのお前の脳?」
少なくとも筋肉ではない事は確かである。誠に残念ではあるが。
「して氏子よ。この文のどこに問題があるというのだ?」
己としてはこの文を後日定期試験前の部活動停止期間に下駄箱へ入れておくつもりであったのだが、氏子が問題ありと判断したのであればこのままではまた失敗してしまうとみて間違いあるまい。先ほどは思わず反論してしまったが、今までの指摘を思えば氏子の言の方が信頼できるというもの。だが心では理解できるが頭では理解がまるで追い付かぬ。果たしてどこに問題があるというのか。
添削のために氏子に渡した文に目を向ける。連休中に書き上げた自信作なだけあり己の目には何の問題も思えるが、氏子曰く以前指摘した問題点が残されておるとの事である。であれば己に分からぬはずはないという事。……だがどこに問題があるのかまるで分からぬ。己に分かるとすれば氏子がさりげなく他の者から文が見えぬよう位置と角度を調整しておる事くらいである。
やはり己には分からぬ。もしや氏子の勘違いという事はあるまいか。確かに己より氏子の判断の方が信頼できるが氏子とて人の子。何か勘違いしておるとしてもおかしな事はない。むしろ信頼と称して思考停止しては、氏子に責任を押し付けるに等しき所業ではあるまいか。
「……絶対に変な勘違いしているよな……?」
はて、どこかで聞いたような。
「とりあえず前から指摘し続けている内容を繰り返すけど、筆で書くなよ漫画の果たし状じゃあるまいし。お前の妙な口語と合わせて無駄に相手の不信感を煽るだけだからな?」
……これもどこかで聞いたような。
「他にも地学室に呼び出す意味が分からん。化学室よりはマシかもしれないけど、人気の無いところに筋肉ゴリラが待ち構えているとか俺でも逃げるわ」
「だが校舎裏や体育館裏ではそれこそお主の言う脅迫状のようではないか」
「大差ねえよ。むしろ下手したら校舎裏の方が上の階から様子を窺える分まだ可能性あるかもしれないくらいだぞ?」
「氏子よ、それはさすがに言い過ぎではなかろうか?」
「俺もそうであって欲しいよ。あと他にも――」
「――っと、もう予鈴か。なら細かい話はこれくらいでいいか」
よもや己が連休中に知恵と筋肉を振り絞り書き上げた自慢の文に大小合わせてあれほどの、否、氏子の言から察するにさほど重要ではなかろうが、まだ細かい指摘を残すほど問題があろうとは。さすがは氏子。それでこそ己が認めし男というものである。
「己はやはり現状お主こそが最も希愛に相応しき相手だと思うのだか」
「またその話か。俺には荷が重いって何度言えば分かるんだ?」
「そうは思えぬからな。何度言われようと分かりはせぬ」
「面倒な奴め」
「お主こそ妙に頑なではないか」
己の返しに氏子はほんの一瞬だけ表情を曇らせる。眼筋をも鍛え上げし己でなければ見落としてしまうであろう、時間も表情筋の動きも僅かな変化。希愛に相応しき相手として氏子を推しておる己だが、同時に己らと同様に何か隠しておる過去があるであろう氏子の幸せのために希愛を推しておる部分もある。この友はどこか危うい。楔となる何かがなければどこぞへ消えかねんほどに。
「そりゃ友人の大事な大事な幼馴染で親友が相手ともなれば、そう気軽に引き受けられないっての」
「そのように答えられるお主であればこそ、己も安心できるのだがな」
言っては何だが見目で苦労した希愛の相手であれば、己より見目を伝え聞いたとて簡単に釣られるような相手では困る。己の見目を気にせぬ点も含め、現状では氏子以外条件を満たす者などおらぬ。まず呼び出しに応じてもらえぬため。
やはりいざという時は最終手段、筋肉式強制連行しかあるまい。身の丈が一六〇に満たぬ小柄な氏子など己の筋肉の前では鍛練用の重量物に過ぎぬ!
「何か不穏な気配がしたけど、力ずくとかしたら絶交だからな」
……そう、あくまで最終手段であるが!