最強騎士への悪あがき 3
観客の声がうるさいほど鳴り響く。
その声のうち俺を応援している声は少なくて心が落ち込む。いやゼロじゃないのがこの異世界に来た俺の成果なのだろう。どこかでは俺を応援している小さな声が聞こえるのかもしれない。なら俺はその人のために戦う。何があっても諦めてはいけない。
多分試合が始まってすぐガナルはソードリアルで切りつけてくるだろう。ポーションがあるとはいえその効果はダメージ減少ではない。なら少しかするくらいで済ませなければならない。
「さあ行くぞ、落ちこぼれ。」
早く来い。一緒の痛みを共有しようじゃないか。
ガナルの剣は俺の頭の右上から降りかかってきた。
この速度なら見切れる。
躱すべきか、剣で受け止めるべきか。
流石に迷ってる時間はない。剣の強度を信じるしかない。
よしこのままなら剣で受け流せる!
自分の折れた剣が目の前に見えたと共に激痛が走った。剣が折れたっていうのか⁈
ていうか何だこの痛みは、痛いってもんじゃない。
切りつけられたのは右肩なのだろうが目立った傷はない。少し切り傷があるくらいだ。
これがソードリアルか。痛みが半端じゃない。
やばい痛すぎる。このままじゃ気を失う。
こんな攻撃をまた受けたら死ぬ。絶対死ぬ。
もう諦めてもいいじゃないか。
「うあぁー、痛…痛い。なんで俺が。痛い…」
このポーション効き目はあったみたいだな。
俺でさえ痛すぎる痛みに耐えて声あげてないんだぞ。
騎士なんだろ、お前が声あげてんじゃねぇよ。
確かに痛い、痛すぎる。だが騎士相手にこれほど闘えたのは誰のおかげだ。ポーションをくれたのは誰だ、剣術を教えてくれたのは誰だ。この試合全てが人に仲間に支えられてるじゃないか。なのに諦めるのか、人の恩を受けているとわかっているのにそれを投げ捨てるのか。そんなに無責任に諦めていいものか。
俺一人が痛いからといって諦めていいものか。
「おい最強騎士、痛いか痛いよな。俺とお前が感じてる痛みは同じだからよ、わかんだよ。」
「お前何をした!う、痛…」
「俺はこの痛みに耐えてるのに惨めなものだな。
悪いがこの試合勝たせてもらうぞ。最弱の悪あがきを身に刻め。」
俺の今の武器は折れた武器だけだ。だがそれでもこいつの足を刺すには十分だ。ポーションの効果は痛みの共有だけ。そしてそれは俺が受けた痛みだけ、だから俺がガナルに痛みを与えようと返ってくることはない。
「くらえ最強。これが最弱底辺の戦い方だ。」
俺の折れた剣がガナルの足に刺さる直前、
「参った!やめてくれぇ頼む!」
ガナルの降参で俺の勝ちだろう。
会場がざわめいているのがわかる。最弱が勝ったんだ。
「しょ、勝者D組神崎仁。」
歓声が鳴り響くものかと思ったが会場は静かな沈黙に満ちていた。
「仁やりましたね。おめでとうございます!」
いや今は小さな声でもその沈黙を破ってくれる人がいる。俺はそれだけで十分だ。
「ああやった…ぞ…」
廻る視界の中俺は地面に倒れこんだ。