ぼっちとぼっちの出会い
もしこの世界にゲームのHPゲージがあったら何回俺は死んだことか。まず体育教師がよく言う「好きなやつと二人組になれ」だ。あれ何? 余る俺を笑うためにあんの? HPが100減ったとか余裕で出るレベル。でも陽キャは「何々君とペアになれたー」とか言ってちゃっかりHP回復してるしよ。理不尽だろ。
(ねぇねぇあいつまた先生とだ。)
(恥ずかしくないのかな。)
(さすが一流ぼっちの神崎だね。)
(友達1人もいないとか私だったら不登校になる。)
後ろで女子がペアからあぶれた俺を憐れんでるがそんなの気にしない。ていうかそこまで言うなら俺とペアになってくれ。まあ女子なんかとペアになったら自慢のコミュ障発動しちゃうけど。
「神崎相談があったら言うんだぞ。」
俺と毎回ペアの体育教師が小さな声で言って来た。
(いやあんたが原因作ってんだからな。)
俺にも一応居場所はある。それは顔も名前も明かさなくていいネットだが。ネットを居場所とする俺にはネットに何人もの友達がいるんだ。まだ負け組じゃないはず。
昨日のアニメを見逃した俺は急いでネットに載ってないかを探した。違法サイトに載っているを見つけたが流石にためらいがある…わけがない。即クリック。
ん? スマホが動かない? いやいや再起動すれば…
再起動もできねぇ。おい俺の唯一の居場所だぞ。
うんともすんとも言わないスマホを投げ捨て俺はベッドに入った。
「起きてください。大丈夫ですか?」
うるさいなぁ…
「大丈夫ですか?どうしよう死んじゃってるのかも」
おい人を勝手に殺すなよ。徐々に視界がぼやけなくなった俺の目の前には美少女が立っていた。
「死んでなかったんですね。」
「ああ。というかここはどこなんだ。」
俺の周りには全く俺の部屋の雰囲気がない。
「ここは英雄アカデミーの中ですよ。あなたは生徒さんではないのですか?」
「英雄アカデミー? は? ついに日本に頭のおかしい学校ができたのか。というかあんたは誰だ。」
「私にはニホンというのがよくわかりませんが。私の名前はレイ。レイ=アスティーです。ちなみに英雄アカデミーとはモンスターと戦う冒険者を育てる学校ですよ。知らない人がいないほどの有名学校ですけど」
一般人は理解に時間がかかったことだろう。だが友達がいない代わりにアニメばっか見てる俺にはわかる。
これは異世界というやつだ。これから俺は最強勇者としてハーレム人生を歩んでいくのだろう。意味不明な状況に混乱してたがよくよく見たらこの子すごい美人だな。あれなんで俺普通に喋れてるんだ。
「ところであなたの名前は?」
なんか意識した途端に喋りにくく。あれやばい家族以外とまともに会話したの何年ぶりだろう。
「神崎仁です。」
「珍しいお名前ですね。なんと呼べば?」
「仁でお願いします。」
さっきから俺はなんで敬語なんだ。
「分かりましたそんな固くならなくてもいいですよ。さっきみたいな口調でいいですから。」
「分かった。よ、よろしくレイ。」
美少女と喋れた俺は人生勝ち組でよろしいですか。
「すまないこの世界のことを少し教えてくれるか?」
「まあいいですけど。」
情報収集はゲームの基本だろう。今の俺には英雄アカデミーというネーミングセンスがあるとは言えない学校の存在しか知らないわけだしな。
「この世界には冒険者という職業があります。基本的には探索してモンスターの素材と換金するという職業なのですが。最近ではなぜか強いモンスターが溢れるようになりました。明らかな力不足を前に冒険者たちは次々に負け領土を捨て避難して来ました。そしてここレイクロードという田舎な街にまで避難して来たというわけです。」
壮大な話を始めたレイだがどちらかといえば俺がここにいる理由を聞きたいのだが…
「そしてモンスターへの対抗手段として若い人材の育成に力を入れだし、最強の冒険者を作る英雄アカデミーが創立しました。」
冒険者アカデミーという名前ではなく英雄アカデミーという名前になっているのは謎だが、そんなのはどうでもいい俺はなぜここにいるのかが知りたい。
「なあレイ。俺はもしかしてモンスターを倒すための勇者として異世界に召喚されたのか?」
「何を言っているんですか?勇者は私ですし異世界とかもさっぱりわかりません。」
今この美少女は聞き捨てならないことを言った。レイが勇者だと、しかも異世界なども知らないだと。
「君は本当に勇者なのか?、正直あまり強そうに見えないのだが。」
「その子のことは嘘だから信じなくていいわよ。」
いきなり隣から話しかけられてビビってしまった。こういうとこが陰キャ感を出しているのだろう。
「この子はね自分は勇者だ勇者だってうるさい子なのよ。誰にも相手にされないのにそればっか。本当に現実と向き合えない頭のおかしい子なのよ。」
いきなり現れた女は多分レイと仲があまり良くないのだろう。
「本当のことですサナ。私は勇者なんです。冒険者最強の勇者なんです。」
「しつこいわね。属性を一つも持たない落ちこぼれのあなたが勇者な訳ないでしょ。」
「今はまだ力がありませんがすぐにあなたよりも誰よりも強くなります。」
何か喧嘩しだしたがサッパリ分からん。属性って何?ボクっ娘属性とかの属性か?
「なら私と今勝負してみる?」
「や、やめときます。」
「「え?」」
ついついサナという名の女の子とはもってしまった。ていうか普通ここは戦って実は戦いだけに特化した冒険者ってとこを見せるとかだろ。
「今日のあなたの服はとても綺麗ですからね。戦って傷をつけるのはかわいそうかと。」
おいおいもっとマシな言い訳あるだろ。ていうか勇者とか言ってる痛い子にしか見えないのだが。
「あ、ありがとう。別に嬉しくなんかないけど。礼だけ言っておくわ。」
おい、サナさんちょろすぎだろ。あんたもっといじめっ子感だせよ。ツンデレか。
「まあいいわ。今日のところはこの辺で勘弁してあげる。じゃあね自称勇者さん。」
セリフは罵倒しようとしているのだろうが服のことを褒められて笑みが溢れてるし威圧感が全くない。
ていうかツンデレとか少しかわいいな。
「やっと行ってくれましたか。彼女はサナいつも私に自称勇者だのおかしなことを言ってくるのです。自称ではないのに。」
「なあ自称勇者おかしなとこなどないのだが。」
「だから自称じゃないんです!今はまだ属性を持っていませんがそのうち五属性を持つ最強の冒険者になります。」
もう厨二病という属性を持っていると思うのだが。
「なあさっきから属性って言ってるけど何それ?」
「仁は何も知らないんですね。属性とは魔力相性のことを言います。火、水、土、風、雷の五つの属性があり属性にあった魔法が使えると言われています。」
じゃあレイは何の魔法も使えないってわけか。
言ったら泣くからやめとこ。
「仁も属性を測ってみますか?」
「測れるのか?ぜひ頼む!」
ついに異世界イベントだ。これで五属性あるとバレるのか。そして最強ハーレムコースに突入だ。
「目を閉じてそしてこの石を握ってください。」
「それだけでいいのか?」
「はい、では行きますよ。」
さあどんな結果が出るのか。
「こ、これは目を開けていいですよ。あなたの結果は無属性です。」
なんかレイが少し残念そうにしている。ごめんレイお前よりも強くて。
「なあ、その無属性ってなんだ?」
無属性というのは特殊な属性なんだろう。ゲームの定番だ。
「属性がないということです。」
「え?今なんて?」
「属性がないということです。」
こうして俺の充実しているとは言えない異世界ライフが始まった。