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第3話 アスティ令嬢を攻略せよ

 うはぁ~。なんて豪邸なんだ。う、羨ましい。


 俺は緊張しながらも玄関口を掴み叩いた。


「はい。どちら様でしょうか」


 しばらくするとメイドが出てきた。


 ってしまった! 挨拶を考えていなかった!


「あの? どちら様でしょうか」


 えーと――


「あの! アレスって言います! アスティ様に用事があります!」


 だ、駄目だ。これじゃあ完全に知り合いって感じがしない。く。どうなる?


「はぁ?」


 はは。こうなるよね。絶対に。


「済みませんがアスティ様はこの後に用事がありますので――」


 あわわ!? このままだと押し切られる!? ここは――


「待って! ぐ――」


 ぐ。つい足が出てしまった。玄関が閉まらない。こ、これは最終手段だ。


「アスティ! いるんだろ! 俺だよ! 俺! アレスだ! いたら! 出てきてくれよ! なぁ?」


 もう。これしかない。大袈裟だがこれなら確実だろう。ただし近場にいれば……だけどな。


「な!? 足を退けて下さい! 通報しますよ? 貴方!」


 ぐ。通報されては不味い。く。ここは俺の負けか。そう。俺が諦めかけたその時だった。


「その声は……アレス? アレスなの?」


 ふはぁ? どこからか甘い蜜を溜め込んでいる花のような雰囲気の声がした。間違いない。この声はアスティだろう。


「アスティ。いや。アスティ様! どうか! 時間を! 時間を割いて下さい! お願いしますから!」


 アスティ! 早く! じゃないと俺の足がぁああ――


「そこのメイド! もういいわ! アレスに敷居を跨らせてあげて」


 く。俺にも地位という物があったらな。こんなことにならなかったのにな。はぁ。ようやくメイドが降参してくれたな。


「うう。有難う! アスティ様!」


 俺はアスティに感謝しつつも上がることにした。くはぁ。平民が上がるなんて前代未聞じゃないのか。これは。



 凄い。大接間という奴かな。


 なんていうブランドのソファなんだ。


 凄くフカフカしていて気持ちいい。


 しかもお茶まで出してくれた。さっきまでとは大違いだな。


「それで? アレス? どうしたの? 急にきて」


 うん。聞いたとおりに凄く可愛い女の子だ。


 このお方が俺の幼馴染のアスティか。


 憶えておかなければ……だな。とここは――


「話は単刀直入に言うよ。どうか俺を魔法学校まで連れていってほしい!」


 うわぁ~。いくらなんでも猛進し過ぎたかな。で、でもこれが事実だしな。


「え? 魔法学校って……アシュガルドのことかしら」


 うん? どこだ? そこは? あーでもアスティが行くところなのか。そこは。ならここは合わせておこうかな。


「そ、そうだ! そこだよ! どうかこのとおりだ! 推薦状を書いてくれないか!」


 俺は両膝の上に両手を置いて頭を下げた。もう俺には四の五の言っている余裕がない。もうこれくらいの気持ちがないと無理だろう。


「……私はいいのだけどお父様がなんていうか。それに――」


 うん? なんだか雲行きが怪しいぞ。これは難しい感じか。確かに相手が相手だけに渋るのも分かる。


「私の婚約者でもあるセルフィがなんていうか」


 なんだって!? もうこの歳で婚約者がいるのか! なんてことだ。ってそれよりも――


「そんなに周りの意見が大事かな」


 さりげなく言ってみた。本当にさりげなくだから無事に終わればいいけど――


「え? あ! いや! 聞かないと後でなにをされるか。分かんないよ?」


 こわ。うーん。これは一点突破は無理そうだな。


「あのね。アレス。お父様もセルフィも既得権益者なの。私なんて足元に及ばないわ」


 そこまでの権力者なのか。それにしてもセルフィが一番気になるな。一体だれなんだ? ここは聞いてみるか。


「なぁ? アスティ。アスティ様。そのセルフィってだれなんだ?」


 うん? アスティが驚きを隠せないような表情をしている。なんだ? なんだ? 俺がなんか変なことを言ったか。


「アレス。いくらなんでもそれは酷いよ。確かにアレスにとってセルフィは敵かも知れないけど同じ幼馴染じゃない」


 うは。マジか。


「この辺ではね。御三家と呼ばれたくらいの仲らしいの。だからね。本当は仲良くしたいのよ。だけど――」


 なるほど。ここにも魔の手が忍び寄っているという訳か。だがそこをなんとかして俺に推薦状を出してほしい。


「もういい。アスティ。茶番はそこまでだ」


「ん?」


 だれだ? 急に割り込んできて。思わず声を出してしまった。一方のアスティは心当たりがあるようだった。


「その声はセルフィね。……時間通りね。相変わらず」


 アスティが沈黙の際に時計に目をやった。確認し終わると微笑ましい感じで言い始めた。


「ああ。俺は時間厳守なんだ。どこぞのだれかさんと違って割り込むこともない」


 ぐ。悪かったな。俺が必死で。


「うん?」


 セルフィが俺の側まできて立ち止まった。なんだか嫌な雰囲気の人だな。俺を下げて見ているような気がする。


「さぁ。用件は終わったのだろう? そろそろ帰ってくれないか。負け犬君」


 流石の俺もカチンときた。なんで俺がそこまで言われないと駄目なんだ。俺は負けじと睨み返した。


「ちょっとぉ! 喧嘩するなら二人とも帰すよ? お父様に言いつけるからね?」


 アスティはなにも悪くない。俺ははっきり言ってセルフィが嫌いだ。なんで俺がこんな目に遭わなくてはいけないんだ。


「全く。睨み返すなんて信じられないな。君という奴は」


「なに?」


 ああ。駄目だ。セルフィの性格と一緒になるとこっちも喧嘩腰になる。


「忘れたとは言わせないよ。あの時の約束を。なのに君という奴はアスティを捨てたんだ」


 え? アスティを俺が捨てた?


「違うわ! セルフィ! それは――」


 なんだ? なんだ? 急にアスティが立ち上がっては大声を出し始めた。


「一緒だろ! それにこいつは俺との約束を破ったんだ! それなのによくノコノコ顔を出せたな! この! 負け犬が!」


 一体。なんの話をしているんだ。セルフィは。


「仕方がなかったのよ! アレスだって! 前を向く権利があってもいい筈よ!」


 二人ともなにを言っているんだ? 駄目だ。ついていけない。前の俺はなにを仕出かしたんだ。


「それでも俺はこいつを許さない。だってこいつは……こいつは……アスティの元婚約者だぞ」


 嘘だろ。俺が。アスティの元婚約者?


「そ、そんな――」


 なるほど。だからか。二人がこんなにももめているのは。納得がいったぞ。


「なんだよ? その態度は? 約束の時と比べたらお前は随分と小さい男になったよな? なぁ? アレス?」


 未だにセルフィとの約束が明確にされていないが大筋はこうだろう。多分だが最初は俺とアスティの婚約をセルフィは歓迎したのだろう。


 だが俺が貴族から平民に降ろされてからは立場が逆転したという訳だな。これは。全く。どこの世界も既得権益ばかりでアスティが可哀想だ。


「なんとか言えよ。アレス。……そうだ。アレス。お前。俺と決闘しないか」


「な、なんだって!? そ、そんな無茶な!」


「もしお前が勝ったらなんでも言うことを聞いてやる。ただしお前が負けたらもう二度と俺達の前に姿を現さないでくれ」


「え? なんでも?」


 なんでもっていうことは……俺のほしかった魔法学校への推薦状が手に入るってことか。く。乗りたい。


「駄目よ! 二人とも! いい加減して!」


 アスティ。ごめん。


「分かった。その話に乗ることにした。もし俺が勝ったら魔法学校への推薦状を書いて貰うからな。憶えておけよ」


 もう。これしかないんだ。俺には。こんなチャンスは二度とこない。


「ああ。男に二言はない。もし俺が負けたりしたらアスティのお父様に頭を下げてでも推薦状を手に入れよう。約束だ」


 こいつ。本物だ。男の中の男だ。果たして俺はセルフィに勝つことが出来るのだろうか。

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