第1話 烙印光の天才少年アレス
ふと目が覚めるとそこは自室と思われる部屋にいた。もっと冷静になれば俺は今だれかのベッドの上で仰向けにいた。
「うん? ここは?」
訳が分からないがとりあえず起き上がってそう言ってみた。うん? 俺は……は! そうか! 確か転生したんだった。
俺は冷静になり自分自身の体を確認してみた。……うん。まさしく俺は少年になったようだ。それも男の方の。
途中で俺は自分自身を見ることをやめて部屋を見渡してみた。
「うん? あれは――」
俺が見つけたのは鏡だった。なんの変哲もない鏡だった。だが今の俺は転生していた。自分の姿が気になった。
折角だ。自分がどんな姿に転生したのかを確認しよう。そうだ。そうしよう。俺は急がしそうにベッドから出た。
布団はグチャグチャだがそんなのは気にしない。今はとにかく鏡に映る自分が気になる。さてさて。どんな姿なんだ。
そう。思いながら鏡の前に立った次の瞬間――
「ウギャアアアア!?」
俺は悲鳴をあげた。しかもそれだけに留まらず俺は尻餅を付いた。それはまるで幽霊でも見たかのようだ。だが実際は違う。
なんなんだ! この鏡は! 魔道具の鏡じゃないか! だれがこんな物を――
それにしても……なんなんだ。このモヤモヤとした光は!? 俺が尻餅をついた時の音よりも激しい音がどんどん近付いてきた。そして――
「どうしたの!? アレス!?」
うん? アレス? というか。だれ?
「どうしたの? アレス? 魔鏡の前で」
うん? ああ。アレスって俺のことか。ということは今の感じからしてこの人は俺のお母さん? あ! それにしても――
「お母さん。気付かないの? 俺のオーラに」
多分だがこの魔鏡は人間が発するオーラを映せるのだろう。ということは今の俺は間違いなく英雄光だ。やった! 大成功だ!
「え? オーラ? そうね。私に似て平凡かしらね」
「え?」
なんだって!? ううん? なんだか。今……聞き捨てならないようなことを言われたような――
「そうね。アレスはオーラで勝負するよりも手先の器用さで勝負しなさいよ」
うん? 馬鹿な。……は!? ま、まさか! 俺は慌てて立ち上がった。そして――
「お母さんには分からないの? 俺……英雄光だよ?」
「はぁ!? アレス! 不吉なことは言わないの! あんたは平凡なオーラでいいの! 分かった?」
なんだ? このギャップは。ただいえることは……お母さんの魔力感知はたかが知れているということだ。ということはお父さんが偉いのか。
「アレス! いい? あんたはね。魔道具作りの職人になるのが夢なんでしょ? だからお母さん……許したんですからね!」
そうか。そうなのか。俺はアレスに転生したのか。そしてアレスにはそんな夢が。うん? 一体。なにを許したんだ?
「まぁ。とにかく無事でなによりね。さぁ。アレス。下でお父さんが待ってるわよ」
「あ! 待って! お母さん! 一体。なにを許したの?」
今にも下の階に行きそうなお母さんを俺は止めた。一体。なにを許されたんだ。俺は。
「え? もう忘れたの? それは決まってるでしょう? 貴方の入学先よう!」
入学先? ってなんだ? ……って! ま、まさか!
「入学先って! 魔道具関連じゃないよね!?」
問題だ。ここで問題が現れた。今の俺は魔道具関連の学校だとしよう。だが転生後の俺はそんなところはごめんだ。もし魔道具関連なら即行で断ろう。俺は当然……魔法師で勇者を目指す。
「ううん? それじゃ駄目なの?」
あ。これはマジパターンだ。だからここは――
「駄目だよ! 俺は! 魔法学校に通いたい!」
「いい! アレス! あんたは確かにお父さんにそっくりで優秀だけど……こんな平和の時代に魔法師は必要ないの!」
「なんで平和って分かるんだよ!」
「だってもう魔王は何十年も前に討伐されたのよ!」
「え?」
な、なんだと!?
「いい? 憧れは持つのは勝手だけど……烙印光だけはやめときなさい」
「え?」
烙印光?
「あんたに言うのはこれが初めてね。そう。あんたが憧れている英雄光は今や烙印光と言われてるのよ」
「そ、そんな。どうして?」
俺の残念そうな表情にお母さんは気を遣ってくれていた。それが如実に伝わってきた。だが現実が受け入れられなかった。
「いい? これも初めて言うけれど……英雄光も世間からすれば脅威の種なのよ。人族は皆。魔王の復活を恐れている。そう。英雄という名の魔王をね」
「そんなの! 英雄が可哀想だよ!」
「あんたには分からないのよ! 世間から裏切られた私達。家族のことなんか!」
「え?」
世間から裏切られた? 家族?
「もういいわ。全て言ってあげる。いい。あんたのお父さんは元英雄なのよ」
「お父さんが……英雄?」
凄い。だから俺にもその遺伝子が。
「あんた。本当に大丈夫? 感がいいと思ってたけどなんかの間違いね。とにかく母さんはね。反対ですからね。魔法師なんて」
「あ! 待って! お母さん!」
く。魔法学校に入れそうにない。きっと英雄光が邪魔をしているのだろう。まさかな。百年後の未来がこうだとは思わなかったな。
はぁ。これは何度も挑戦しないと駄目だな。あのお母さんのことだ。きっとそんな簡単に許してはくれないだろう。早速。第一関門か。
ぐは。だが俺はなんとしてでも魔法学校に入るんだ。そして魔法師になってなんとしてでも英雄光の汚名を晴らしてやるんだ。
そう。思った俺は早速。お母さんの後を追いかけることにしたのだった。