「なろう」のホーム画面の赤文字のなんと素晴らしきことか (仮)
見つけでくださりありがとうございます。
初めて書くコメディ作品です。(これはコメディなのか?)
広い心と優しい目で読んでいただけると嬉しいです(笑)
俺の名前は匿名希望。大学三年の二十一歳だ。趣味でしがない物書きをやっていて、某サイトに投稿して色んな人たちに俺の作った妄想ストーリーを読んでもらっている。
そんな俺は今日大学のサークルの飲み会に参加している。俺と同じ趣味を持つ人たちが集まるサークルで、他大学との交流もあるいわゆるインカレサークルだ。今日の飲み会にも会ったことがない他大学生が何人もいる。
「赤文字が突然ぱっと出てきた瞬間って激熱だと思わない?」
向いの席に座る男が唐突に話しかけてきた。俺は黄金に輝く液体と白く滑らかな泡が溢れんばかりに注がれたジョッキを呷る。ふっ、不味い。だが、二十歳を超えし俺はこれを旨そうに飲みこなさなければならない。それが大人というものだ。
口の中でぴちゃぴちゃと唾液を分泌させ、苦味を逃がす作業も得意になったものだ。因みにジョッキのビールはまだ大方残っている。
向かいの男の質問がなんの事かと思案したがすぐに、なるほどな。と思う。
「ふっ、ああ、よくわかるよ。俺はどんなに疲れ果てて身も心もボロボロだとしても、その赤文字がぱっと目に入った瞬間活力を取り戻す」
「やはり、君ならそう言ってくれると思ったよ。なぜなら君からは僕と同じ臭いがするからね。だけど過度の期待は禁物だよ? あれは絶対にいいものとは限らないんだから」
俺は重たいジョッキをテーブルの上に置き、にやりと口元を歪ませる。
「もちろん心得ているさ。だけどね、俺は画面にその赤い文字が出てきただけで、心躍るんだよ。例え辛いことが待ち受けてるのだとしても、兎に角その文字を目にした瞬間は胸が高鳴るのさ。なんていったって、赤文字は目にするのも稀だからな」
「その点には激しく同意するよ。ほとんどを何事もない時を過ごすのがデフォルトの我々にとって、赤文字の瞬間は結果を目にするまでは胸のドキドキが止まらない、熱くなれる時間だ。君とはいい友達になれそうだな」
「同感だ」
時間が経ち泡が割れた分だけ量を減らしたビールを手にし、俺はそれを掲げた。向かいの男も応じ白く濁った液体、確かカルーアミルクとか言っていたな。大人の飲み物だ。を掲げ「出会いに乾杯」と、二人同時に出会いを静かに喜ぶ。
「さあ、熱く語り合おうじゃないか、匿名くん」
「ふっ、とことんな。じゃあ先ずは俺の赤文字の楽しみ方を披露しようか」
「へぇ、面白そうだね。ん? スマホを取り出してどうするんだい?」
訝しむカルーアミルクくんを鼻で笑う。
「おいおい、このくらいは当たり前にやっていると思ったんだがな。こうやって画面を掌で隠すんだ」
「なるほどね、スマホの画面を液晶に置き換えてるわけだ」
液晶? ああ、パソコン画面のことか。
「まあ、俺は常にこれなんでね。とにかくこうして隠し、右側からチラッと覗くんだよ。するとどうだ? いつも変わり映えしない画面に稀に変化があるじゃないか?」
「ははっ! 君もなかなかの変人。いや失礼、コアなやり手だね。変わり映えしないって通常時からそうやってるのかい?」
「無論。常時見る時はいつもこうさ。その変化、いつも現れる広告バーの下に謎の空白が……くぅっ、この時点で脳内には脳汁が溢れ、テンションは最高潮に上がる」
目を細め妄想に耽りながら、ちびりと泡なしビールを舐める。ふっ、不味い。
「君はマニアックだなぁ、一つの機種の話をそんなふうに掘り下げるなんて。赤文字の話から外れてるじゃないか?」
「外れていないさ。その空白だけで、もうそこに赤文字があるのは確定してるんだからね。書かれている内容は違えど、何が来ても嬉しいものさ」
「随分赤文字に信頼があるようだね。赤文字は意外と外すだろう? それだったらレインボーや麒麟柄が出た方が激熱じゃないか」
俺はぐいっと呷ったジョッキをテーブルの上に叩き付けるように置いた。中身が殆ど減っていないせいで、零れたビールが腕にかかる。このカルーアミルクめ、俺の買い被りだったか? 赤文字を馬鹿にするとは許せんな。レインボーに麒麟柄? 邪道を征く者か? ここは冷静に、しかし熱く説教せねばなるまい。
「ふぅ、君の言いたいことはわかった。俺たちはいい友達になれると思ったが、君がそんな風に馬鹿にした態度を取るのならそれは無理かもな。いいか、仮にレインボーや麒麟柄だったとしよう。確かにその方が派手じゃないか! 目を引くじゃないか! それはまあ、わかる。だけどね、詰るところ色じゃないんだよ。あの赤色が例え、黒だったり白だったり青だったり黄色だったとしてもそこに存在することが無上の喜びなんだ! 大事なのは中身であって、通知を示唆する文字の色が重要ではないだろう?」
カルーアミルクくんは気圧されたように上半身を引いていた。ふぅ、飲みすぎたか。酔っぱらって思った以上に熱くなっちまったな。
「うっ、確かに。色はあくまで安心感を与えるもので、それそのものが重要じゃない。例え文字が白かったとしても当たるときは当たる。そう! 当たることこそが重要なんだ!」
「そうだっ! 仮に文字が白くても活動報告にコメントがあります! 感想が書かれました! レビュー……は書かれたことがないから何て表示されるかわからないが、それらが表示されること、更に言えば書いてくださった方がいるという事が重要なんだ! ん?」
カルーアミルクくんの顔が何を言っているの? と言わんばかりに呆けている。いや、俺も君の発言に思うことはあったよ?
「君は何の話をしているの?」
ハモったカルーアミルクくんと俺。
「スロット」
「小説家になろう」
「何だよ! 僕、小説なんて書かないよ!」
「何だよ! 俺、スロット知らねえし!」
馬鹿馬鹿しい! 俺は何の為にこんなに熱くなったんだ? 全く、おれの熱意を返せ!
俺の後ろの席から「赤文字嬉しいよね!」という声が聞こえた。今度こそ『なろう』だ!
「じゃあな、カルーアミルク」
俺は半分ほど入ったジョッキを持ち、後ろの席へ紛れ込んだ。
今度こそ赤文字の素晴らしさを共有するんだという、野望を抱いて。
お読み下さりありがとうございました!