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プロローグ~ヒアラの原点~

 ◆


 拝啓、親愛なる師匠へ、一番弟子より。


まず、私の置かれている状況から説明しなければなりません。


もうすでに耳に届いているかもしれませんが、私は7年前、事故で死にました。


とはいえ、私はどういうことか、生きています。


言葉は矛盾していますが、要するに、私は転生したのです。


そう、魂はそのまま、新しい命として、生まれ変わったのです。


ですが、これまた不可思議なことに、師匠と作った思い出、記憶、教わった技術、言葉、師匠と出会う前の出来事。それらすべてを思い出すことが出来るのです。


そして、どうやら転生したとは言っても私たちのいた現世ではなく、どうやらここは剣と魔法の世界らしいのです。


つまり、わたしは師匠の祖国である日本のライトノベルやアニメの主人公たちと同じく、異世界転生を果たしてしまったようなのです。


そして、この異世界に生れ落ちてからはや7年、前世とは違い、暖かい家庭の元に生まれ、平和な町に生まれた私は、夢であった学校に通い、授業を受けています。


授業…とはいっても、剣術の授業なのですが…。



前世でお世話になった師匠にこんな風に手紙を出せたらいいのにな、とヒアラは師匠の顔を懐かしそうに思い描く。


そして、彼女の下で突っ伏し赤面しているのは、剣術の授業をしている教師である。


「な、授業を始めて一ヶ月でこの馬鹿力かよ…」


「あの子、無属性って噂、本当だったのね」


騒いでいるのは上級生たち。それも無理はない、入学まもなくまともに剣を教わっていない新入生が、その道数十年の教師を圧倒的な差で打ち倒したのである。


「ま、とにかく、これであなたの授業を受ける義理はないわね」


ヒアラは木剣を腰に挿しながら言う。


実は、この勝負は、まともに授業を受けようとしないヒアラに業を煮やし、教師の方から申し込んだ決闘だったのである。


何も言い返せない教師を見下ろし、つまらなさそうに首をふり、ヒアラは身を翻し、赤いコートの裾を引き摺りながら、教室の方角へ向かう。そこへ、一匹のカラスがヒアラの肩に乗り、声を掛ける。


「おいおい、入学早々問題行動はよしときなよ、先生やら先輩やらに目をつけられると厄介なんじゃないの?」


「さあね、決闘はあっちから申し込んできたし、期待してたほど強くなかったもの、これでも手加減したのよ」



ヒアラは前世、怪盗だった。世界中、神出鬼没、大胆不敵に参上し、宝石や絵画などを掻っ攫っていく、漫画や、小説、アニメなどに出てくるような後世にも伝説として語り継がれる一流の怪盗。


 そんなヒアラだったが、事故で死んでしまったのは20のころ、別に盗みに入っていたわけではなく普通にコンビニで買い物をしていたとき、強盗に巻き込まれて死んでしまった。


 そう、怪盗としてはあまりに不名誉な死に方だった。


 一流の泥棒が、ド三流の単独の強盗犯にピストルに撃たれて死んだのである。


 そして、その無念のためか、はたまた天命に導かれてか、異世界に転生、見知らぬ女性に抱かれて産声を上げたのがこの世界での初めての記憶である。


 それからは、前世では経験できなかった両親の愛に恵まれ、大事に育てられた。


 ヒアラのこの世界での階級は上流貴族である。


 両親は、とある村の地主で、お金にも、自然にも、周囲の人々にも恵まれ、最高の環境で育ったヒアラだったが、ひとつだけ奇妙なことが起こった。


 ここは、剣と魔法の世界、この世界に生きる生物は、生まれつき魔力というものを持っており、ほとんどの人間が、魔法を習得できる。だが、まれに、魔力を一切持たずに生まれる生き物がいる。そう、彼女がそうであり、無属性と呼ばれるものたちである。


 無属性の生き物たちは魔法を一切行使できない代償に、並ならぬ身体能力と、とある固有能力を持つ。


 ヒアラは、齢3にして自分がそれであることを両親から聞かされ、こう叫んだ。


「剣と魔法の世界で魔法使えないとか、クソすぎだろ!」


 これにはその場にいた両親や下男下女たちも驚いたが、このような言動はそれ以前にもあったため、あまり気にされることはなかった。


 ◆


 決闘のあと、教室で、ヒアラは帰るためバッグに荷物を詰めていると、気の弱そうな少年が駆け寄ってくる。


「うわあ、ヒアラちゃんすごいね、あの先生の授業をサボるってだけでも度胸あるのに、おまけにのしちゃうなんて」


「まあな、うちのヒアラは喧嘩や体を使うことで負けたことないんだぜ!」


 カラスのモリーは自分がほめられたように胸を張る。


「あんたいつまで肩に乗ってんのよ、さっさと降りてくれない?」


「つれねえな、ヒアラはいつも。ところでレンよう、こないだの休み、村に帰ったんだろ?村のみんなは元気にしてたか?」


 このレンと呼ばれた少年は、モリーとヒアラと同じ村の出身で、幼馴染である。


「そりゃもう、来週の休みにはお祭りだもんね。みんな、男衆は特にムキムキしてたよ」


 それを聞いてモリーはうれしそうにヒアラの表情を伺うが、ヒアラは無表情のままである。


「私は祭りは嫌いなのよ」


「まあ、どっちにしろ祭りの時は顔を出す約束だろう?てかおめえはガキなんだからもっとガキらしくはしゃげよ」


「まあ、どうせまんざらでもないんだからほっときなよモリー」


 モリーとレンのやりとりにヒアラはため息をつく。


 しばらく二人と一匹でやり取りを続けていると、勢いよく教室の扉が開かれる。


「ヒアラ!ヒアラ・ポリスはいるか!」


 扉から勢いよく入ってきたのは先ほどの決闘で負けた赤面教師である


「げ、あのやろう、まーたヒアラに決闘か?」


「いや、説教じゃない?」


「どっちも勘弁してほしいわね…はい!ヒアラ・ポリスはここにいます」


 教師は鬼のような形相でこちらを確認すると、ずかずかとヒアラに近寄る。


「お前に面会の申し出がある」


「え?誰からですか?」


「知らん。ただ、かなりの上流貴族のようだ。失礼のないように」


 ヒアラは立ち上がり、面会室へ向おうとすると、教師はまた呼び止める。


「先ほどの決闘は手を抜いてやった、だが、実力は認めよう。鍛錬を怠らないように」


 ヒアラは笑いをこらえながら、教師に向かい礼をし、教室をあとにする。


 しばらく廊下を歩き、面会室に入ると、そこにはフードを深くかぶった老人が、杖に寄りかかる形で座っており、護衛と見られる先ほどの教師とは別の教員が立っていた。


 顔が分からないので家柄までは分からないが、カフスにある紋章で、どうやらヒアラの家であるポリス家よりも上位の貴族であることは察せられた。


 教員と目礼を交わし、少し表情を堅くし、幼いころから両親によりしつけられてきた社交界用の礼節を意識しながら老人の正面の椅子に座ると、その老人はゆっくりと口を開いた。


「ヒアラといったな。そう堅くなる必要はない。それと護衛ももう必要ない。少しだけ内密な話をしたいのだ」


 やさしく、それでいて威厳のある声だった。後ろに立っていた教員はその言葉に従い、面会室を出る。


「内密な話とは何でしょう?」


「じつはおぬしにひとつ提案があっての、この学校を卒業してからでいい、ひとつ旅に出てみないか?」


 ヒアラは老人の意図を探った。先ほど彼は内密な話と言ったからには彼の言う旅はかなり重要なものだろう、ヒアラはもともと、卒業後、村にとどまっておくつもりはなかった。だが、これといった目的もなかったので、彼の提案は乗じてもいいものなのだが、そもそもなぜこんな話を自分に持ち込むのか、ヒアラは前世で師匠がいつも読み漁っていたラノベで、異世界転生した主人公が魔王を倒すため、旅に出る話を思い出した。


「ふ、話の通り年相応とは言い切れぬ佇まいだな、内密な話といいながら顔を明かさない私のことを信用しきれないのだろう?」


 そういって老人はフードに手を掛け、ゆっくりと顔をさらしていく。


「え…」


 ヒアラはあまりに驚愕する。なぜならこの世界にいるはずのない人間がこの場にいるのだから。


「師匠…」

 あらすじで書いてある通りお試し投稿です。

 もし、仮にも、奇跡的に続きが読みたい方がいらっしゃったり、伸びた場合には、一応結末は用意してあるので続きを書くことはできます。

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