獣人令嬢ウサミン
「あっちに行ったぞ!」
「速い!」
「追えっ! 逃すな」
兵士達が槍や剣を手に、私達を追い立てます。
どうして、こうなったのでしょうか。
私は隣国の令嬢、ウサミンです。
ゴリラの獣人令嬢です。
名前が違うですって? 可笑しなことを。みんなに同じ名前を付けたら、誰が誰だか分からないじゃないですか。それも違う?
――人間との文化の違いは、これから少しずつ理解を深めていかなければならない。そういう事ですね。
人に獣の耳や尻尾が生えているような姿を想像される方も多いようですが、単にその獣が服を着て二本足で歩いている、そんな姿をしています。でもその "二本足で歩く" 。ここが重要で、獣とは全く違った進化を見せたのです。見た目は大体一緒ですが。
様々な特性を持った獣人ですが、その中でもゴリラは人気がありますわ。見ただけで、コイツは力があると分かりますもの。
その点、ウサギは不利ですね。兎の得意な事って分かりますか? 個人では特技があっても、種族としては分かりにくいですよね。
フンを食べるくらいでしょうか。一応ウサギの獣人は、これを否定していますけれども。
でもそんなウサギも、ライオンやトラなど、肉食系から人気があります。やはり特性を受け継いでいるので、本能に訴えかけるようです。
大丈夫ですよ。獣では無いんですから。甘噛みがちょっと強くなるくらいです。高確率で血が滴る程度の甘噛みです、甘 噛 み。愛情表現です。
肉食系のみの人気なので、その分ほんのり愛が重いのかもしれませんね。
さて、長々と獣人の説明をしてしまいましたが、私が追われているのには勿論理由があります。
人間の王子と逃避行中だからです。
人間の国に興味があって、書き置きをしてから樹を伝ってやって来たのです。三時間で来ちゃいました。結構近かったです。
大きな街に着いてみると、お祭りの真っ最中でした。旗が飾られ色とりどりの紙吹雪が舞い、着飾った街の人達が楽しそうに笑ったり、踊ったりしているのです。
ワクワクしながら木の上から見ていると、一際大きな歓声が上がりました。
声の方を見てみると、遠くに華やかな衣装を着た人々が見えます。
この程度の距離、獣人令嬢なら余裕で細部もみえちゃいますよ。
どうやら王族が来たようですね。耳だって良い私は、街の声を拾います。
ふむふむ、これが王様ね。骨が脆そうだわ。こちらが王妃様。あんなにひっつめては毛繕いしにくいではないの。そしてこっちの………。
素敵素敵! 王子様!
私の腕の中にスッポリ収まりそうな体も、キラキラ光る髪も、笑顔も素敵!!
ご挨拶に伺わねば!
街路樹を利用して距離を稼ぎ、あっという間に王子様の目の前へ。
周りの喧噪ももう聞こえないわ。王子様も私から目が離せない見たい。これは落ちてしまったわね。フォーリンラブで間違いないわ。お連れ致します、愛の巣へ!
王子様を大事に小脇に抱えます。アハン、触っちゃった♡
「ドレスを着たゴリラに王子が拐われるぞ」
「取り戻すんだ」
聞き捨てなりません。
「服を着てるんですもの、獣人に決まってるでしょう!」
怒りのドラミングです。おっとっと。王子様を落とすところでした。
「そう言うと、服を着てなかったら只のゴリラみたいだよ」
王子様が初めて声を聞かせてくれました。ウホ〜ん、ジ〜ンときちゃう♡
お待たせしちゃいけないわね。早く答えなきゃ。
「服を着ていなかったら、只のゴリラですよね?」
「え? そうなの?」
「違うのですか? 四つん這いになった時、区別がつかないじゃないですか」
なんと、人間との認識の違いがこんなところにも。あら、という事は
「もしかして、こちらで見た紐で繋がれた服を着た犬は、奴隷では無いのですか?」
「ペットだね」
酷い扱いをされている獣人では無く、良い扱いをされている獣でしたか。
「相互理解の為にも、早く結婚しま……」
縄が飛んで来ました。王子様が何か言いかけましたが、素早く抱え直し身をかわします。いつのまにか、兵に囲まれていました。
「ウホッ? 何ですの。恋人同士の逢瀬を邪魔しようなんて不粋ですわ」
「ゴリラが何を言うんだ! 大人しく王子を離せ」
「後ろに "獣人" を付けてくださいませ。長ければ "ゴリ獣" でも結構ですわ」
「それだと獣が強調されただけだね」
「じゃあゴリ人。……なんか違う」
王子様のご指摘は嬉しいですが、今はそれどころでは無いようです。
包囲が狭まってきています。
勿論手近な木に捕まって逃げますよ! 逃走経路の確保は、獣人令嬢の常識です。
そして逃走劇が始まったのです。けど結構すぐに終わりましたわ。
獣人の国から使者が来たようです。
使者はライオンやヒョウ、ゾウの獣人達で構成されています。外交で舐められ無いようにです。でも彼等はちょっと舐めてきちゃう事もあるようですね物理的に。
人気のある、愛されゴリラの獣人令嬢ですから、恋の応援をしにきてくれたのですね。高位貴族の令嬢でもありますけども。
国同士の理解を深める為に、私達の結婚が認められました。人間の王様も、震える程喜んでくれたようです。感激屋さんで、ちょっぴり涙も見えてましたよ。王様といえど親ですね。息子が一人前になるんですもの、感動しますよね。
王子様が獣人の国へきてくれました。
今はラブラブ新婚生活です。
なんと彼の方は一目惚れでは無かったそうです。なんて事!
でも抱えられているうちに、ゴリラ獣人令嬢の包容力にやられたそうです。嬉しい!
時々ウサギやネコの獣人を撫で回すいやらしいところがある事がわかりましたが、性的な意味では無いと言うので、只の猫や兎を飼う事にしました。
このように、昼夜問わず相互理解に努めておりますわ。
間もなく理解しあった証が生まれる予定です。




