全ての重力の向かう先2 -益田-
『ようこそ』
男の声が響いた。
『ふふふ。現世の者と話すのは、久しぶりだ』
ナツの声では無い。彼女は、目も口も閉ざし、光に取り囲まれ宙に浮いている。
俺たちはカプセルに近づき、その者を覗き込んだ。
木乃伊のような姿。
頭髪は無く、額に3箇所、ケロイドのような痕が見える。
白濁した目。
開かぬ口。なのに声は響く。
手足は無く、身体中に管が繋がっている。
だが、確かに人間だ。
彼は盲いた目を俺たちに向け、唇の端を吊り上げ、笑った。
『自己紹介が未だだったね。私は益田、益田四郎という』
益田?
俺と同じ苗字だ。
『君の先祖に当たる』
なんですと?
親戚の集まりでも、こんな爺ちゃんには会ったことが無いぞ。
白濁した目が、俺を捕らえていた。
『君を此処へ呼んだのは、私だ』
いや呼ばれてナイ。
俺は呼ばれたりしてナイからね。
『他の者も、私の我侭で試してしまった。申し訳ない』
微かに頷いたように見えたのは、お詫びのつもりだったのか。
ところでナツはどうなったんだ。
何かまるで反応が無い。
『安心したまえ。彼女は今、天国に往っているだけだ』
それは、還って来れるのか?
『然り』
その言葉で気付いた。
先ほど、ナツを操っていた者の言葉だ。
お前がナツを
『そう。操っていた』
では、とトウが言う。
「我々は辿り着いた。火山を噴火させるのは止めて貰おう」
『随分、直接的な物言いだ』
その声に悪意は感じられない。
『その件も謝らなくてはならない。元々、私に破局噴火を起こすつもりは無い』
『あの言葉は、君達に此処を目指して欲しかったが故の言葉だ』
じゃぁ大噴火は?
『むしろ、それを防いでいる』
なんとなく、その言葉に嘘は無いと思った。
『危険域に達したマグマ溜りから、マグマを雲仙岳下に移動させ、制御しながら放出している』
それを聞いたトウは、"これで私の仕事は終わり"と言わんばかりに口を閉ざした。
誰も何も言わない。
じゃ、俺聞いちゃう!
だが、俺が口を開く前にミズが問うた。
「貴方は、誰?」
益田四郎さん。俺のご先祖様。
まぁ、そういう意味で無いことは俺にも判る。
いくら俺ほどの男でも、こんな科学技術を持つご先祖様は居ないだろう。
「そして、貴方の父親は誰?」
益田三郎さんかな?
『父の名は好次。他の男の話は父からも母からも聞いとらんよ』
彼の盲いた目がミズを捉え
『そして私は--多分、君は正解に辿り着いている』
「ありえない。400年、生き続けたとでも言うの?」
然り。そう彼は言う。
『老化は、主に遺伝情報の複製誤りにより生じる』
細胞分裂の際、テロメアは短縮される。だが、それが老化の直接の原因では無い。
テロメアが短縮されることで、分裂時の複製誤りが多くなる。そこが原因だ。
サーチュイン遺伝子が複製誤りを修正するが、その修正も完璧ではない。
遺伝情報の複製誤りをナノマシンが修復することで、加齢を防止できる。らしい。
ある程度は。
『だが400年は長い期間だ。私の手足は朽ち、目は見えず、耳も聞こえず、身体の自由も利かぬ』
で、誰なのよ。
俺にも判るように教えてプリーズ。
「江戸時代初期のキリシタン」
ミズが呟く。
「豊臣秀頼の落胤という説もある、島原の乱の最高指導者」
ちょっとミズ、最後のそれは。
「天草四郎時貞」
『ご名答』
彼が微笑み、そう声が聞こえた。




