第九圏 裏切の迷宮6 -神様-
ドアが開き、閉まる。
最後の玄室。
ついに俺たちは此処まで辿り着いた。
だが、どーにもならん。
どーにもならん事を知った。知ってしまった。
俺達を阻む最後の者は、最後の御方は、神様だった。
神様とはどんな御方か。
簡単に言えば、チョキでグーに勝つ存在だ。
ジャンケンに限らず、ゲームにはルールがある。
残念だがそのルール、神様には無効だ。
物理法則、因果律も無効。
論理を超えた存在、それが神様だ。
神様の前に立った時、俺はその事が分った。
否、その事を知ってしまった。
1斤のパンを食べると無くなる。
これがこの宇宙の法則、ルールだ。
数式で表せば、1-1=0。
だが残念、神様にそれは通用しない。
その昔、イエスは1斤のパンで群衆の腹を満たした。
神様にとって、1-1は1にも2にも出来るからだ。
どれほど強い怪物とも闘おう。
どれほど恐ろしい処へも往こう。
望みなど無くとも。
たとえ叶わなくとも。
でも、コレはダメ。
敵わなくとも、せめて攻撃すべき。そう思うだろうか?
よし分った。やってみるがヨイ。
でもそれは、神様の影を叩いているようなものだ。
俺たちの手は神様に届かない。
父と子と精霊。
俺の目には、神様はそのように、3通りに映る。
隠し絵というのを知ってるだろう。見方によって老婆に見えたり若い女の人に見えたりするヤツだ。
それと同じように、3通りの内、どれか1つの姿しか意識できない。
3つ同時には意識できないのだ。
だがその姿すら、神様が俺達の宇宙に落とした影に過ぎない。
例えば乾電池みたいな円筒形を考えて欲しい。
上から光を当てれば、影は円だ。
横から当てれば四角形、斜めから当てれば別の形になる。
おそらく神様の実体は高次元ーー俺達の宇宙である3次元+時間より多くの次元を持つ処に在る。
其処から俺達の意識に落とす影。それが父と子と精霊、神様の御姿だ。
さて、
ところでナツ、君はいったいナニをしておるのかね?
神様の御前に刀なんか突きつけちゃって。
俺が今まで説明してたの、関係ナシ?
「アタシは納得いかない!」
「神様アンタ、今まで何してたんだ」
ちょナツ、神様に向かってなんつーコトを。
「アタシはこの前、昔の、隠れキリシタンの事を調べた」
なぜキミは、この前まで調べようとしなかったのか。
「アンタは何故、あれを黙って観ていた!」
「あの拷問を、あの非道を、何故黙って観ていられた」
そう、神様は観ている。
そして、沈黙を破る事は無い。
「彼らはアンタを崇めてただけだ。ただ、それだけだった」
数千年間、その沈黙が破られることは無かった。400年前、キリシタン迫害の時も、沈黙は守られた。
「なら今更出て来んな。そんな口は永遠に閉ざしとけ!」
「コウ、トウ、彼処に出口が見える」
ナツの言葉に目を向けると、壁が--空間が歪み、其処から地獄門が、洞窟が、出口が見えていた。
「脱出しろ。隊長達を復活させてくれ」
そう言い残し、刀を手にナツは行く。
神様に向かって。
走るでもなく歩くでもなく、悠然と進んで行く。
俺は、その姿を、見ていることしか出来なかった。
ナツの姿が光に包まれーー
塵となって消えた。
消える瞬間、最期に俺の方を向いて何かを告げ、笑った。
畜生ーー
「待て、コウ!」
飛び出そうとした俺は、トウに肩を捕まれ、引き倒される。
「1人で3人は抱えきれん。お前はミズとタダを担げ」
否、俺は
俺は神の処へ、ナツの逝った処へーー
「無論、俺も行く」
なんですって?
「今朝、守須に聞いた」
准教授に?
「九州全土の火山が噴火する確率が、急速に高まっている。そうなれば、地球は寒冷化し、人類はほぼ絶滅する。生き延びれるのは数千人だろう」
私の娘や妻も死んでしまう、とトウは言う。
だが、ナツの後を追っても塵になるだけだ。
「あの輝きは見たことがある」
ナツを包み込んだ光か。
「"転移"発動時に現れる輝きに似ている」
「ナツは何処かへ転移された可能性がある」
其処には、この破局を止める何かがあるかも知れない。
ーー
ところでトウ。
「何だ」
破局を止めるなら、ナツ1人だけで良いんじゃ無いか?
もし、あの輝きが転移じゃなければ無駄死にだ。
「コウ」
何だ。
「転移先に破局を止める装置が有ったとして、ナツが操作出来ると思うか?」
マズい。急ごう。




