第九圏 裏切の迷宮3 -祖国-
「危なかった…」
ナツが呟く。
「襲ってきた怪物が、母さんの顔をしていた」
どうやら全員、各々の肉親に見えたようだ。
俺には父、母、姉に。ナツは母親と多分父親。後は誰に見えたのか。
背格好も動きも、見慣れたままだった。全く違和感が無かった。
よくミズは怪物だって判ったな。
「亡くなった父に見えたのよ」
そうか、それで偽者と判ったのか。
さすがにミズの歳だと、そろそろ肉親が無くなってェェエッ!
また俺の心を読んだのか、凄い目で睨まれた。
怖い。
なのに、"花嫁姿を見ずに亡くなったのが心残りで、化けて出ちゃったのかなー"とか余計な事を考え、更に睨まれる。
皆が落ち着くまで、小休止を取ることになった。
トウは誰を見たんだ?
「妻と娘、後は母だ」
俺の事をジロリと睨む。
「お前が娘を手にかけた時、お前に向けて"極大消滅"を放とうかと思った」
濡れ衣だ。冤罪だ。再審を要求する。
タダも呟く。
「僕は父と母と…」
母と、誰?
「いやぁ」
なんか頬を赤らめるタダ。
よもや!
この前、俺が合鍵つくったあの娘じゃあるまいね。
あの娘はダメだよ。
肉親じゃナイからね。
「だってトウだって、奥さんが見えたじゃないですか」
俺、この探索が終わったら結婚するんだ。
そんな鉄板フラグを立てそうなタダである。
「準備開始。準備が整い次第、次の扉に向かう」
隊長の声に雑談を止め、装備の確認を行いだした。
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玄室のドアを開けると、また未来的な通路が延びていた。
「全員、防御姿勢を取ったまま、迅速に前進」
ドアが開き、閉まる。
突き当たりには、またドア。
そして中は暗闇。
「前進する」
皆、盾を構える。
ドアが開き、閉まる。
ブーン
何やらハム音が聞こえる。
ゴキュキュッ
重い金属同士がこすれ合う様な音が、一瞬だけ響く。
壁と天井が次第に発光し、玄室の中央部の影を照らす。
TVや映画で見なれた車両が、そこにあった。
戦車。いや大砲が無いから装甲車か?
車両の下には無限軌道があり、上には機関銃のようなものが見える。
「散開!」
隊長の指示とほぼ同時に機銃掃射が始まった。
中世のローマ軍と現代の機甲化部隊が戦ったら、どうなるか。
戦闘になんかならない。一方的な殺戮だ。
槍や刀で戦車の装甲が貫けるはずは無く、人が持てる盾で機関銃の弾丸が止められるはずは無い。
穴に落として脚を止める--ってそんなヒマあるか!
「kiuɑ-ðŋ-divergên...」
ガガガガガッ
トウの詠唱は、戦車が立てる騒音にかき消され、発動しない。
ミズ、タダも同じだろう。
一方俺たち前衛は、防戦一方--というより逃げ回るだけ。
俺は時折"加速"に成功し弾丸を避けるが、隊長とナツは何発か喰らい、血飛沫が上がる。
「コウ!そのまま陽動」
隊長の声が聞こえた。
「ナツ!機銃を斬れ、20秒後」
隊長、それは無茶だ。
機銃を斬る前に、機銃に撃たれてナツは死ぬ。
だが、それ以外に道は無い。
俺は機銃の射線に出て、陽動に専念する。
5秒後、隊長が装甲車に取り付く。
10秒後、ナツが装甲車に取り付く。
15秒後、隊長が装甲車の上に立ち、機銃に迫る。
機銃は狙いを俺から逸らし、隊長の身体から続けざまに血飛沫が上がる。
血まみれになりながら、隊長は機銃を押さえ込む。
ナツが機銃に辿り着き、刀を一閃する。
銃声が止み、装甲車は攻撃力を失う。
隊長の身体から力が抜け、装甲車から転げ落ちた。
ミズが駆け寄り、隊長を抱え起こす。タダと一緒に引きずり、ドアへ向かう。
ドアには既にトウが辿り着いていた。
「開けるぞ!」
トウの叫び声と共に、俺たちはドアの向こう側へ身体を投げ出した。
「ir-krassen-kiuɑ」
ミズの詠唱が響き、隊長の身体を光が包む。
だが、隊長は瞬きもしない。
「ir-krassen-...」
「ミズ、無駄だ。もう隊長は…」
再度、詠唱を始めるミズを、トウが止める。
隊長は既に、こと切れていた。




