第九圏 裏切の迷宮2 -肉親-
すっかり人が少なくなった洞窟内。
誰が米軍で誰が陸自か、あまり気にしなくなっていたが、こういう光景を見ると改めて実感する。
俺たちが潜る時、ずっとラボに詰めてくれてた劉さんも、居なくなった。
最初に顔を見た時は、拝金主義の神父だと思ったんだよなー。
先頭を歩く隊長が振り向き、俺たちの一人ひとりを見る。
「状況を開始する」
この言葉を聞くのも、多分これが最後だ。
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「iki-saber-zái-ir」
地下1階でトウが新たな呪文を披露した。
一瞬で地下8階に、巨大悪魔3体と遭遇した場所に転移する俺たち。
これって、テレポーテーションってヤツじゃない?
すげー
「"極大消滅"の使用可能回数が減るから、あまり使えないんだがな」
なんで使っちゃうんだよ、ダメじゃん。
巨大悪魔の骸は何者かに片付けられていた。だが、飛び散った血の跡が死闘を物語っている。
地下9階への階段は、血の跡の中心部にある。
「降下する」
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地下5階までの石造り。
地下6階から8階までの、色彩豊かな彫刻に飾られた風景。
地下9階は、どちらとも違う風景だった。
「モダンだな」
「レトロフューチャーって感じ?」
床は銀色の金属状で、壁や天井は、それ自体が発光している未来的な空間だった。
そんな場所に、ファンタジーな衣装を纏った俺達が居るのは、ちょっと場違い。
ぶっちゃけ、コスプレ会場。
「前進する」
隊長の命令に従い進んでいくと、金属製のドアがあった。
いつもは扉を蹴り開けている。
だがこのドアは、ちょっと蹴り開けるのは憚られる。
ドアの右手に、"開けるときはコレ押してね"と言わんばかりのボタンがあったからだ。
「扉を開けるが全員この場で待機」
隊長がボタンを押す。と、凄い勢いで開くドア。
ドアの向こうは真っ暗闇。
バシュンッ!
あ、やっぱ閉まる時も、凄い勢いなんだね。
PL法対象だな。
「全員、防御姿勢を取ったまま、迅速に前進」
隊長が再びボタンを押す。
ドアが開き、閉じる。
壁と天井が次第に発光し、玄室の中央部の影を照らす。
影は3人の人型。
彼らが振り返った時、俺の身体は止まった。
居るはずの無い人が、そこに居た。
父さん、母さん、姉貴。
東京に居るはずの肉親が立ち上がり、俺に微笑む。
「なんで…どうして…」
「愛美…」
「母さん…」
3人はゆっくりと俺の方に近づき--
刀を抜いた。
姉貴が微笑みながら、刃を振り下ろす。
俺に向けて。
その光景を、俺は呆然と見つめていた。
「ir-leven-kiuɑ」
姉貴の体勢が崩れ、俺は突き飛ばされる。
俺は、俺を突き飛ばしたミズと、彼女に迫る刃を見る。
頭の片隅で、俺の一部が告げる。
偽者だ、と。
一瞬が引き伸ばされ、俺は加速状態に入った。
脚を広げ、倒れかかっていた身体を支える。
姿勢を低く、浮き上がりそうな身体を押さえ、姉貴に--姉の姿を真似た怪物へ突進する。
近づけば姉の貌には、皺もしみも黒子も無かった。
コレは作り物に間違いナイ!
はずだ。
貫手を彼女の横腹に叩き込む時、心の一部が少しだけ懊悩する。
だが今、俺の身体を動かしているのは、普段の俺じゃない。
とても論理的で冷徹な心の部分、それだけが俺を動かしている。
姉の姿が弾け飛ぶ姿を横目に、ナツに襲い掛かる母親の姿に向かった。
その後の光景は、あまり思い出したくない。
加速を解くと、3体の人型は土に還り、崩れ落ちた。
良かった。
怪物で、本当に良かった。
ただ念のために、今度姉貴に会った時には、皺、しみ、黒子を観察しておこう。




