呑み会 二十七次会 -別離-
「私達に避難命令が出たのは、知ってるわね」
俺は無言で頷く。
「今夜、23:00発が最後の部隊。海自の大村基地経由で那覇へ行くわ」
ナタリーに呼び出された米軍施設内の空き部屋。
いや、昨日までは誰かの執務室だったようだ。
今は全ての設備が運び出され、ガランとしている。
命令が出てから1日で全員退去ってのは、早いな
「そんなことより」
ナタリーは俺の腕を掴み、視線を合わせる。
「脱出するなら、今の内よ」
今ここで脱出するくらいなら、とっくに逃げ出してる。
多分、逃げ出すだけなら、なんとかなった。
「貴方の身柄は米軍が保証する」
それでも、逃げる気にはなれない。
なぜか、そんな気にはなれないんだ。
だって、ここまで来たら、最後まで見てみたいじゃないか。
分隊要員や陸自の面々、米軍パーティにナツの親父さん。
色々な人の協力があって、地下9階まで来れた。
あの奥には、誰も見たことのない何かが待ってるはずだ。
「その"何か"には、命を賭ける価値があるの?」
正直、日本が破滅する、と言われてもピンと来ない。
でも、その"何か"には興味がある。
好奇心は大事だよ。
9つの命を持つ猫すら殺すと言うじゃないか。
「貴方にとってそれは、私よりも魅力的なの?」
ド直球を喰らった。
ナタリーより魅力的か、というとそんな事はナイ。
だって、胸のサイズが全然違--いやそうじゃない。
ドンッ。
その魅力的な膨らみが俺に押し当てられ、ナタリーの瞳が至近距離に迫る。
その瞳はいつもの超然としたナタリーじゃなく、唯人のナタリーの瞳。
多分、俺しか知らない瞳だ。
「貴方に生きていて欲しいの。私に、貴方を見捨てる辛さを引き継がないで欲しい」
押し殺した感情が、胸の奥底で叫び声を上げている。
そんな目をしていた。
でも、承っちゃったんだよ。
逃げ出さない。その理由の中心に、地下8階での死を覚悟したナツの微笑みがある。
そのことは、俺だけの秘密だ。
俺に、あの微笑を捨てて生きる覚悟は無い。
ふぅ。
ナタリーはため息をつく。
「気絶させて拉致しちゃっても良いのだけど」
それは情けないから止めてくれ。
胸元から名刺を取り出し、裏面にキス。
それを俺に渡す。
「もし生きて還ってきたら、連絡して」
うん。する!
微笑みも大事だけど、美人さんとのご縁は大切にしないとね。
ナタリーに手を振り、部屋を出る。
扉が閉まる音を背に、営舎に戻ろうと片足を上げた状態で凍りつく。
廊下に、ずらりと並んだ米軍パーティの面々。そしてトウにナツ。
皆を代表してトウが言う。
「ヘタレ」
キミタチ、どんだけヒマなんだよ。
それに俺はヘタレじゃないから。
そりゃ覚悟はナイけど、ヘタレじゃないよ。
むしろ、俺ほど勇敢な男は居ないんじゃないかな。うん。




