呑み会 二十五次会 -覚悟-
隊長とタダは、あっさりと生き返った。
なのに何故、俺とカツの時だけ失敗しちゃったのかなー。
「知らん」
劉さんはケンもホロロである。
ラボの医務室で、俺は医学者やら生物学者やらに囲まれ、診察に次ぐ診察を受けていた。
やれ左腕を出せ。
お小水を取ってこい。
MRIに入れ。
もう、ウンザリである。
散々俺をいじくり回した後、学者達は喧々諤々と会議を始めた。
俺はほったらかしである。
ちょっと待ってろ、そう言われたが、全然ちょっとじゃないよ!
他の分隊員は、俺を置いて居酒屋に行ってしまった。
俺も早く行って、ビールちゃんと愛のひと時を過ごしたい。
「とりあえずお前、今日は検査入院」
なんですとー
ーー
こんなことなら、ラボでデモなんてやらなきゃ良かった。
手分けして隊長とタダを担ぎ、出口に戻って来た後。隊長とタダが復活した後のことだ。
俺はラボ内で"加速"しようとしていた。
幾度か失敗した後、ナツが任せろと言い出した。
俺の前で刀を青眼に構える鬼軍曹。
ちょっと待て、という俺の言葉もなんのその。凄い勢いで振り下ろしやがった。
もし加速に成功しなかったら、トンデモない事になっちゃってたよ!
「大丈夫、寸止めだ」
いや、アレは止まる雰囲気なかった。
刀の錆にする気満々だった。
ともあれ、何人もの科学者や何台ものカメラの前で加速した俺は、色々な機械を付けられたまま、病院棟のベッドに横たわっている。
今頃、居酒屋は盛り上がってるんだろーなー。
タダはきっと俺と同じで、天国に行ってないと思うんだけどなー。
カチャッ
ドアが開く音がして、ナタリーが入って来た。
両手で持ったお盆には、グラスが乗っている。
やったー陣中見舞いだ。
あれ、ナタリーの分のグラスは?
ハッ…
読めた。読めたよ!
ジュースを、1つのグラスから2つのストローで飲むんでしょ!
あの途中でハートマークとかなってるストローで!
「お薬のお時間よ」
ストローはあったけど、水だし1人で飲んだし。薬は苦かったし。
「大変だったみたいね」
まぁ色々と。
ナタリーの指が、俺の頬を撫でる。
「そこまで頑張ること無いのに」
それ言う?
それナタリーが言っちゃう?
麻薬を打ってまで頑張ったナタリーが言っちゃうの?
「私なら、途中で撤退したわ」
「逃げられたかどうかは判らない。でも試みた」
でも、そうしたらナツは、分隊の皆は、完全に死んでいた。
もしあの時に逃げたら、俺は自分を許せない。絶対に。
「そんな覚悟では、戦場で生き残れない」
「その状況になれば、味方を見捨てて逃げる。その覚悟が無ければ、戦場に立たない方が良いわ」
それは、覚悟なのか?
覚悟とは、死を恐れないことじゃないのか?
「私たちの覚悟は、生き延びることよ。それは時として、死より辛いけど」
「でも、その覚悟をする者が居なければ、全員が死んでしまう」
今回は全員が生き延びた。
「今回は。でも次は? その次は?」
「私は生き延びる。たとえ味方を見捨てても」
俺の顔を掴む手に力が篭る。
「生き延びる辛さを、私の後を歩む者には渡さない」
「貴方に生きて居て欲しい。貴方を見捨てて生き延びる辛さを、私には渡さないで欲しい」
俺の頬を、ナタリーの涙が伝った。
そのナタリーの願いに、俺は"諾"とは応えられなかった。
ナタリーが麻薬を使う件は「第六圏 異端の迷宮7 -唯人-」を参照
次回の投稿は、7/22頃の予定です




