呑み会 二十四次会 -優劣-
悪い子はいねがー
俺はなまはげ様を憑依し、ナツに天誅を与えるべく会場の隅々に目を走らせる。
ちなみに俺、秋田県とは縁が無い。
ナツは見当たらない。
隠れてもムダだ。なまはげ様から逃げられると思うなよ。
「ナツは来てないわよ」
ミズが言う。
そう言えば、ラボで復活した時から姿は見てない。
「色々あってね」
なにその色々って。
「お前を劉の所に担ぎ込んで」
トウが話を引き継ぐ。
「復活させようとした」
グラスを傾ける。
「失敗して、お前は灰になった」
はい?
ちょっと劉さん、何やってんの。
つか灰になっちゃっても、元に戻せるのか?
「劉にも自信は無かった」
そんな無責任な!
「まぁ、結局戻せたわけだが」
俺自身が、生きた証拠である。
「少なくとも、持っていた金貨では足りなかった」
「米軍側の金貨を合わせても、未だシステムは動かなかった」
マッコイが補足する。
「だから、お前抜きで地下7階、8階に降りて金貨を収集した」
それは何と言うか、どうもありがとう。
でも俺抜きで、どうやって箱を開けたんだ?
「僧侶系に、罠の種類を調べる呪文があるの」
俺が居た時は使わなかった呪文だ。
「殺傷力が少ない罠に掛かりながら、箱を開けたわ」
主にナツが。
箱の罠が発動すると防御は難しい。
至近距離からの攻撃を、盾では防げない。
手や指、顔など、鎧の隙間を狙った罠も多い。
そこで求められるのは、防御力より罠をかわす速度だ。
分隊内では、隊長より身軽で後衛3人より動きが速いナツが、箱を開けた。
米軍は、陸自隊員を復活させるために危険を冒すことを、上部が認めなかった。
だから、米軍側にもナツが参加し、箱を開けた。
ナツに感謝だな。
「そのことは良いのよ」
問題は--
「お前より前に、カツの復活が出来るようになった」
「俺達が止めた」
マッコイが言うが、トウは首を横に振る。
「陸自も、カツよりお前の復活を優先した」
なぜなら--
「地下8階の探索には"盗賊"が必要だから」
直ぐに復活を試せるカツをそのままに、俺を復活させるため金貨を収集したのか。
後、どれだけ金貨が必要か判らない俺を、優先したのか。
「現在、金貨のストックは殆ど無い」
「そして、雲仙岳の噴火が激しさを増して来ている。退避命令が出るのも近い」
カツを復活させるだけの金貨は、もう収集できないかも知れない。
人の命に優劣は無い。はずだ。
だが時に、命には優劣が付けられてしまう。
--
俺が灰になってから復活するまで、2ヶ月以上経過していた。
俺が死んだのは1月末。
今は4月。
桜の花びらが舞うグラウンドを、俺は走っている。
何週か回る内、蝶々を追いかけるワガハイの姿を見かけた。
そのまた何週か後、ワガハイを抱き、俺の方を見ている背の高い姿を見つけた。
やぁ。
「久しぶり」
せ…
「ま…」
同時に話し出し、2人とも口ごもる。
ナツが手振りで、俺が先にと言う。
世話になった。ありがとう。
「気にしないで。民間人を助けるのが、アタシ達の任務」
再び、沈黙が訪れた。
身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえる
彼女等は、そう求められている。
だが、恋人の身をもつて国民の負託にこたえるのは、それを求めるのは、あんまりだ。
俺は、それ以上何も言えなかった。
ナツも、何も言わない。
風が吹き、桜の花びらが舞う。
ナツの頬に涙が1粒、流れた。
気付かない振りをしている俺の横で、ナツは暫くの間、立っていた。
やがてワガハイを下に置き営舎へ戻るナツに、俺はかける言葉を見つけられなかった。
「まだ--」
不意に歩みを止めてナツが言う。
「まだ今日のノルマを達成して無いだろ。後10週走るまで、帰って来ることは許さん」
鬼軍曹復活だ。
かなり無理をしているが。
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俺は知っている。
迷宮は、地下9階層までだ。
このペースで探索するなら、1ヶ月以内に探索は終わる。
1ヶ月間で、カツを復活させるだけの金貨は、多分収集できない。
俺は知っている。
普賢岳の活動は、日を追うごとに激しくなって来ている。
迷宮の探索が終わる前に、中止命令が出る可能性は、かなり高い。
俺は知っている。
ミズは"天国"で、カツに会った。
もしナツが迷宮で死ねば、カツの下に行くはずだ。
それが多分、ナツがカツに逢う、たった1つの方法だ。
だがそれは、ナツに知らせることは出来ない話だ。




