第八圏 悪意の迷宮2 -死亡-
本日は、日本側分隊で探索。
地下8階、第1玄室、阿諛追従の扉前。
「前進する」
隊長が囁き、扉を蹴る。
扉が開き、閉まる。
怪物との遭遇は無かった。
第2玄室は第1玄室と同じような広い領域で、向こう側の壁は見えない。
右手法で探索して行くと、また鍵穴付きの扉がある。
扉の上には"Simoniaci"--沽聖者の文字。
どゆ意味?
「坊主丸儲けって意味」
それは羨ましい。
隊長が蹴るが、やはりビクともしない。
第1玄室と同じ。ならば、中心部で戦闘し、箱を開けなくてはならない。
右手法を続け、第1玄室への扉に戻る。
「面積は、第1玄室とほぼ同じだ」
地図作成担当のトウが言う。
これも第1玄室と同じ。
「中央部に前進する」
暗闇に向け、歩んでいく。
見えるものは石造りの床と天井。
「そろそろ中央部だ」
トウの言葉と共に、床に蹲る影が見えた。
「箱だ」
「箱だな」
箱だね。
怪物ではなく、箱だけが置いてあった。
なにこの省力化。
いや別に、怪物と戦いたいワケじゃないけどさ。
解錠道具を取り出し、箱の前に座ろうとした俺に、天啓が閃く。
罠だ。
これは箱じゃない、ミミックだ。
解錠しようとする俺に襲い掛かる気だ。
「もし箱が動けば、すぐ攻撃してやるから心配するな」
ナツが刀を抜きながら言う。
「心配はいらん、早く開けろ」
開けなくばお前を斬る、とでも言いそうな冷たさである。
覚悟して針金を鍵穴に差し込む。
箱でした。
ミミックじゃなかった。
中には金貨と鍵が入っていた。
隊長の指示で、坊主丸儲けの扉に向かう。
鍵を使うと簡単に鍵は開いた。
扉が開き、閉まる。
怪物は出ない。
ミズが囁く。
「タダ、ナツに"回復"を」
「まだ大丈夫」
「僧侶系呪文が使えるかどうかの確認よ」
「ir-krassen」
何も起きない。
さてはタダ、丸儲けしたな。
「この玄室では、僧侶系呪文は使えないようね」
ということらしい。
「コウ、タダとミズに魔術師系巻物を」
俺だけ丸損である。
結局、この玄室でも怪物には遭遇せず、中央には箱だけ。
そして中身は鍵だけ。
なんか段々しょぼくなるな。
予算切れか?
次の玄室への扉の上には、"Maghi e indovini"--魔術師と書かれている。
おそらく、トウも呪文が使えなくなる。
怪物と遭遇した場合は、前衛3人の剣が頼りだ。
扉が開き、閉まる。
悪魔の群れが居た。
20名近くの群れ。但し手には得物を持たず、俺達を避けようとしている。
「攻撃開始」
隊長の声と共に俺達前衛が飛び出し、剣を振るう。
「lá-muur」
タダの詠唱と共に、防護魔法が俺達の身体を覆う。
この玄室では使えるようだ。
「ir-stem」
ミズの呪文が悪魔から声を奪う。
「i-ir」
トウの呪文は予想通り発動しなかった。役立たずである。
呪文が使えぬ悪魔など、ただの悪魔だ。いや、楽な獲物だ。
悪魔は、斬れば血が吹き出て、倒せば骸が残る。
スプラッタムービーの様な光景だが、戦闘自体は難易度が低い。
数分後、息をしてるのは俺達分隊員だけだった。
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その後、怪物とはほぼ遭遇しなくなった。
遭遇しても悪魔で、彼らは俺達を見ると即座に逃げて行く。
順調に探索は進み、変化が訪れたのは第7玄室だった。
玄室の中央部には、箱が置いてあった。
一応ナツと隊長が剣を構えていたが、ミミックじゃなかった。
ただ、罠だった。
箱を開けると、金貨でいっぱいだった。
この量なら、ひょっとしたらカツを復活させられるかも知れない。
後衛の3名にも手伝って貰い、皮袋に金貨を詰める。
あらかた金貨を取り出すと、箱の中に鍵と黒い小刀が見えた。
柄も鞘も、鍔さえも黒1色。というか色が無い。
全ての光を吸い込むような黒い小刀だった。
呪われてる感じはしなかったが、慎重に摘み、皮袋に落とす。
そして鍵。
それが罠だった。
ガブッ
鍵を掴んだ瞬間、箱の内側に彫られた蛇の彫刻が鎌首を持たげ、俺の手に噛み付いた。
その牙から毒が、俺の血の中に注がれるのを感じた。
心臓の鼓動が1つ打つ度、俺の身体に毒が回っていく。
ナツが蛇の頭を切り落とそうと、切先を突き出す。
だが蛇は素早く牙を抜くと箱の彫刻に戻り、ナツの一撃を弾き返す。
「ir-gif」
ミズの詠唱が聞こえ、魔法の輝きが俺の身体を包むが、毒は体内から消えない。
全身の筋肉が痙攣し、俺の意志通りに動かない。
俺は床に崩れ落ち、皆の蒼白な顔を見上げることしかできない。
視界に黒い斑点が浮かび、その数を増やしていく。
目の前にナツの顔が迫り、何かを叫んでいる。
ナツ、何を言っているか聞こえない。
聞こえないんだ。
痙攣のように息を吸う。
それが、俺の最後の呼吸になった。




