第八圏 悪意の迷宮1 -目的-
地下8階。
階段を下りると少しばかりの通路があり、すぐに扉が行く手を塞いだ。
扉の上には、"Ruffiani e seduttori"と書いてあった。
どゆ意味?
「女たらしという意味」
それは大罪だ。
地獄に堕ちるがヨイ。
翻訳してくれたのはマーク。
前回、見送りにも来なかったので心配してたが、無事復帰したようだ。
よかったよかった。
カークが手振りで、扉を開けることを知らせる。
扉が開き、閉まる。
怪物は現れなかった。
玄室というには広過ぎる領域だった。光が届かず、向こう側の壁が見えない。
左手法で周ってると扉があった。
鍵穴がある扉で、試しにカークが蹴っ飛ばしてもビクともしない。
扉の上には、"Adulatori e lusingatori"と書かれている。
どゆ意味?
「阿諛追従という意味」
おべっか使っただけで地獄に堕とされるとは、なんと不憫な。
そのまま進み、暫く歩くと入ってきた扉に戻った。
「面積は、階層全体の1/10程度」
地図作成も担当しているマークが言う。
『神曲』では、第八圏に10の嚢が書かれている。
それに倣い、地下8階には10の玄室が有ると予想されていた。面積が1/10ということは、その傍証となる。
つまり、この迷宮が地下9階までである可能性が、更に高くなったという事だ。
「この領域を探索後、扉の解錠を試みる」
そうなれば俺の出番か。
その前に、カークの指示通り玄室の中央部を探索する。
中央へ歩いて行くと、次第に背後の壁が遠くなり、やがて見えなくなった。
四方八方壁が見えず、真っ直ぐ歩いてるか曲がってるかも判らない。
時折マークが"座標感知"を使ってるから、大丈夫なんだろうけど。
「そろそろ領域の中心」
マークが囁く。
途端、気温が下がってきた。
吐く息が白くなり、空気中の水分まで凍って視界が白く濁る。
その白いモヤが集まり、何体かの巨大な人型を形作る。
「lá-muur-ɔː」
すかさずキャリーが防御呪文を唱え、前衛3人が突進した。
キィイィイイッ
黒板を爪で引っかくような音が響く。
やめてー
俺、その音嫌い。文字通り総毛立つ。
怪物は大理石のような肌を持つ2体の巨人で、恐ろしい程の冷気を纏っていた。
そして3人の"フードプロセッサー"では、黒板を爪で引っかいたくらいの傷しか、肌についてない。
むしろその音で、俺がダメージ喰らった気がする。
一方、怪物の豪腕は一撃必殺な勢いだ。
「kiuɑ-hi-concentração」
マークの詠唱が終わり、怪物の間で青白い焔が爆発する。
3,000℃を超える高熱、のハズなのに怪物は何ともない。
むしろその熱で、俺の髪が焦げそうである。
カークが吹っ飛ばされ、俺が前衛に出る。
でもコレ、どうすりゃいいのよ。
俺の小剣じゃ、かすり傷も付きそうに無い。
持ってる巻物も、マークの"火海"よりずっと弱い。
そして、振り回される豪腕は強烈。
コレは当たったらダメなやつだ。
盾越しだろうが、革鎧を着てようが、俺は天国に召されてしまう。
紙一重の状態で拳をかわす、だが、これは長くは保たない。
「ir-leven-kiuɑ」
キャリーの奥の手も効かない。
これは逃げるしかナイか。
「kiuɑ-ðŋ-divergência」
聞いたことが無い呪文が響くと、怪物達が巨大な球体に包まれる。
その球体の表面は鏡のように、周りの全てを反射している。
ゾゴッ!
球体の中で重い音が響く。
球体が塵のように消え、中から現れた怪物達は消し炭のような姿を一瞬止めると
次の瞬間、土に還り崩れ去った。
「Oh...」
呆然、という感じでスコットが呟く。
マッコイも目を丸くしている。
かく申す俺の口も丸くなっている。
「ラボで発見した、新しい攻撃魔法だ」
実は、どんな効果があるか判らなかったらしい。
文脈からすると、かなり破壊力が高く、ラボで発動させるのは危険だったとのこと。
でもコレがあれば、大概の怪物は大丈夫じゃないか?
「ただ、1日2度しか唱えられない」
後1回はイケるってことか。
「コウ、そろそろ仕事だ」
あら、箱が出てた。
サクサク開ける。
中からは、大量の金貨に武具。
「そして、これか」
鍵だ。
阿諛追従の扉に戻る。
鍵を使うと、重い音が響き、解錠されたっぽい。
試しにカークが扉を蹴ると開き、暫く後に凄い勢いで閉まる。
「本日はここまで、出口まで退却だ」
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ラボで、学者達に鍵を見せる。
「この鍵は、これまでに無い特徴を持っている」
俺しか扱えないのだ。
"戦士"も"僧侶"も、もちろん"魔術師"も持ち上げるだけで相当な力がいる。落とせばまず拾い上げられない。
ナツを呼んで試したが、"侍"もダメだった。
「"盗賊"専用の鍵か」
そう言われると何かヤバい道具に聞こえる。
「コウが居なければ、ここで詰んでたわけだな」
マッコイが言う。
うム、その通り。
褒めて。もっと俺を褒めて。できれば美女から褒められたい。
「何故、こんな回りくどいことをするんだろう」
マークが言う。
回りくどいって何が?
「もし我々を先に進ませたければ、鍵など掛けなければ良い。進ませたくないなら、鍵を隠しておけば良い」
そりゃまそーだ。
「この迷宮を造った者の目的が判らない」
先に進むためには、2つの条件を満たす必要がある。
1.パーティ内に"盗賊"が居ること
2.あの怪物を倒すこと
つまり迷宮を造った者は、「"盗賊"を連れて怪物を倒せ」と言ってるわけだ。
でも、何のために?




