第七圏 暴力の迷宮11 -断絶-
"めだい"、"踏み絵"、"鞭"、3つの遺物を持って、地下7階 第3環の最奥へ向かう。
結局、俺が持たされた。くすん。
「着いたな。コウ、大丈夫か」
大丈夫、問題無い。
発見した時と違い、"めだい"を持っていても、力が抜けたり血が滲み出したりはしない。
多分、セットで持っているからだ。
地下7階、第3環の最奥。
3つの壁画が俺たちの目の前にある。
1つ目の絵。神父から何かを授かっている2人の日本人の絵。
その1人の掌に、"めだい"を触れさせる。
と、俺の手の中の"めだい"が消え、絵に"めだい"が現れた。
「予想通りね。ここまでは」
とミズ。
"めだい"、"踏み絵"、"鞭"の3つの遺物。
影響を恐れて検査はできなかったが、ナノマシンの集合体だろうと想像は付いていた。
この絵に触れさせることで、何らかの影響を--おそらくは地下8階への扉を開くだろうと、予想されていた。
俺は懐から箱を出す。
ナツの親父さんから継いだ箱。ナツを、彼女の祖先を、代々縛っていた御前様だ。
箱の中に在ったのは、"めだい"だった。
先ほど絵の中に消えた物と瓜二つの。
ナツ、良いのか?
「悪いワケ無いっしょ。さっさとやれ」
親父さん、アンタ可哀想な父親だな。
絵の中のもう1人の日本人の掌。そこに触れさせた瞬間、御前様は消えた。
とても呆気なく。
そして、絵にもう1つ"めだい"が現れる。
「よくまぁ400年も、受け継いだものね」
ミズが感慨無量という感じで言う。
俺は少しの間、心の中で親父さんに謝った。
途絶えさせました。
もう続けることは、継ぐことは、誰にも出来ません。
2つ目の絵。何かを踏んでいるような男の絵。
ナツの親父さんは、追伸として、この絵について書いていた。
私なら踏ませない、と。
もし、この迷宮を造ったのが潜伏キリシタンなら、踏み絵を踏ませることなどあり得ない。
たとえ絵の中であっても、そんな事は出来ない。
神を汚すその痛み、脚の、心の痛みを、誰よりも知っている筈だから。
俺は親父さんの助言通り、"踏み絵"を絵の中の男、その胸に当てられた両手に触れさせる。
と、"踏み絵"が消え、絵の中の男が"踏み絵"を両の手で抱きしめた。
3つ目の絵。背中に傷が付いた男の絵。
その手に"鞭"を触れさせる前に、やる事がある。
ミズ、頼む。ナツも。
「あんな親父の事なんて、気にすること無いのに」
そう言いながらも、ナツは後ろを向き、耳栓をしてくれる。
「学者としては、非常に興味深い内容なんだけど」
と言いながら、ミズも同様にしてくれる。
「タダ、しっかり聴いて後で教えて。いいわね」
"鞭"は触れさせると消え、絵に現れ、そして"さん・じゅあん様の歌"が聞こえて来た。
"あー前はなぁ前は泉水やなぁ
後ろは高き岩なるやなぁ
前もな後ろも潮であかするやなぁ"
俺は、続けて唱える。
津本の親父だけが唱えることを許される祈祷文。
女性は唱えることも、聞くことも許されぬ祈り。
せめて、その伝統は守ってやろう。
最後まで。
あーこの春はな、この春はなぁ
桜な花かや、散るじるやなぁ
また来る春はなぁ、蕾、開くる花であるぞなやぁ
絵が消え、壁が消えた。
そして地下8階への階段が目の前に現れた。
よくもまぁ、400年も変えずに受け継いだなやぁ。
多分、全て、この時の為に。




