第七圏 暴力の迷宮8 -壁画-
今日は米軍として探索。
いつもいるマークは居らず、替わりにナタリーが入ってる。
彼は見送りにも来てなかった。
マークはどした。
「ちょっと怖がっちゃって」
何を?
「ちょっとね」
口の固いナタリーである。
ともあれ第3環、男色の環リターンである。戻りたくない、正直なところ。
第3環は基本的に一本道であり、迷う恐れはない。
前回、悪魔の群れと遭遇した玄室前までたどり着く。
扉が開き、閉まる。
悪魔の群れが現れた。
ただし戦闘に入ろうとはせず、俺達を遠巻きにしている。
米軍は彼らを刺激せず、通り過ぎる。
ホッとした。
悪魔と戦闘するのは、ちょっとヤダ。
「コウは悪魔にも人権を認める派?」
ナタリーが囁く。
いや、そういうワケじゃないけど、悪魔は血が出るし屍骸が残るから気持ち悪い。
「じゃぁ、倒すこと自体は抵抗ないの?」
まぁ、人間じゃないからな。
扉が開き、閉まる。
前回、龍と遭遇した場所だ。今回は何も居ない。
この前、龍と戦った時の、あの時間が引き延ばされる感覚は何だったんだろう。
ラボで聞いてみたが原因不明。というか気のせい。死の瀬戸際によくある話だと言われた。
でも確かに、あの時の中を動き回れたんだ。
ひょっとして奥歯にスイッチが有ったりして!
鏡で調べたが、そんなモノは無かった。
ちょっと残念。
でも、死の瀬戸際だけに現れる幻なら、そんな目には2度と遭いたくナイ。
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悪魔に避けられ、人型を倒し、探索を続けること数時間。
此処が最深部。そうナタリーは言う。
でも、何も出ないよ。
そう言おうとした時、そいつは現れた。
巨大な人型。
黒い金属製に見える身体の周りは、劫火に包まれている。
時間差で現れるなんてズルい!
だが、ゆっくりと現れてくれてるので、準備の余裕がある。
『lá-muur-ɔː』
俺が巻物を広げ、防御魔法が発動する。
一拍遅れて、カーク達前衛3人が盾と剣を構え、突進していく。
遅いよ。油断してちゃダメだよ。
「tʃ-kɔ́ː-concentração」
ナタリーの詠唱が終わり、氷の礫が巨人を襲う。
「ir-stem」
いかにも火系統の呪文を唱えそうな巨人、その呪文をキャリーが封じる。
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やっぱり米軍は強い。
難なく炎の巨人を倒すと箱が出て来た。
開けると、中から出て来たのは鞭。
なんか、そのテの趣味のお店で出てくるような鞭。
で、コレどうすんの。
鞭を革袋に包み、持たされた。
この前の"めだい"みたいに、持ってるだけで力が抜けたり血が出たりはしないけど、気持ち悪い。
「皆、これを見てくれ」
カークの声に目を向けると、壁一面に3つの壁画が描かれていた。
スコットが監視役となり、他の皆がそこに集まる。
と、歌声が響いた。
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「オテンペシャね」
ミズ、だから日本語でおk。
出口まで戻り、ラボで日本側分隊員を含めて検討会。
ミズに依れば、箱の中に有った鞭は、オテンペシャという名前らしい。
何でも、自分を鞭打つ苦行の道具とのこと。
「それにより、罪が赦されると考えられてるわ」
へー
3つの壁画は、キャリーがスケッチしている。
ささっと描いたのに、かなり上手い。画家になれそうだ。
「1つ目の絵は、神父から何かを授かっている日本人ね」
確かにそのように見える。
「2つ目は、何かを踏んでるような日本人」
手を胸にあて、右足で何かを踏みつけている。
「3つ目が、背中に傷が付いた日本人」
こんな簡単な謎解きなら、直ぐ判る。
1つ目に"めだい"を、2つめに"踏み絵"を、3つめに"鞭"を使うんだろう。
どうやって使うかは分からんが。
「だが、気になるな」
トウが言う。
「1つ目の絵、何かを授かってる日本人が2人居る」
確かに、ひざまづき手を差し伸べてる和服の男が2人。
「だが、"めだい"は1枚だけだ」
どっちに渡すか迷うよね。
「問題は、もう1つ有るわ」
キャリーが言う。
皆が絵の前に集まった時に流れた歌声。
ナタリーがラボで歌ってくれた。
"あー前はなぁ前は泉水やなぁ
後ろは高き岩なるやなぁ
前もな後ろも潮であかするやなぁ"
よくあの1回だけで覚えられたなー。
「この歌は、カクレキリシタンに伝わる祈祷文。さん・じゅあん様の歌、の筈なんだけど」
曲が違うらしい。全然。
ひょっとしてナタリー、音痴?
そう言うと、ナタリーに睨まれた。
「デモ、流レタノハ確カニコノめろでぃデス」
スコット、実は趣味でジャズピアニストもやってるらしい。
音感には自信アリ。
じゃぁ、ここにも謎があるのか。
んー。
シャーロック・コウムズとしては、まだ情報が足りない。結論を出すには早すぎる。
「でも、もう探索する場所は無いですよ」
あれま。
誰か専門家の手助けが必要だ。
ミズの伝で、潜伏キリシタンに詳しい人を呼べない?
「先生が、その第一人者です」
あれま。
そうすると、もう俺に心当たりは1人しか居ない。
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「分かってる」
いつものグラウンドの隅。
ワガハイを撫でながら、ナツはそこに居た。
無理に連絡取る必要は、無いぞ。
別にこのまま謎が解けなくたって、良いんだしさ。
「連絡取りたくないのは、単なるアタシのワガママ」
それに、とナツは続け
「今更、連れ戻されることも無いっしょ」
おう、もし連れ戻されても、取り返しに行ってやる。
隊長に具申してくる。
そう言って、ナツは走って行った。
この謎を解くための情報。それを与えてくれる者は、多分1人だけだ。
ミズ以上に潜伏キリシタンに詳しい者。
400年前の信仰を受け継いだ者。
未だ残る、隠れキリシタン。
ナツの父親だ。
なお、「WG報告 -模倣-」の通り、迷宮内でコウの脳は、ナノマシンで代替され、思考が加速されています。
ラボはそれを推測していますが、コウのモチベーションを考慮し、はぐらかしています。




