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ダンジョン&第16普通科連隊ズ  作者: tema
第七圏 暴力の迷宮
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第七圏 暴力の迷宮7 -絡繰-

Wikipediaに拠れば、数学は形式科学らしいです。

しかしtemaは、"数学も自然科学だよ"派。

ミズは、数学は観測可能な事実を扱わないと主張してますが、それは違います。


リンゴが1個有った際、別の場所からもう1個持ってきたら、リンゴは2個となります。これは「この宇宙」の性質です。

もし、もう1個持ってきてもリンゴが1個のままであれば、数学は現在の姿と違った姿になっていたハズです。


この宇宙でこそπは定数ですが、別の宇宙では半径により変動するかも知れません。

数学は、この宇宙の性質という"観測可能な事実"を調べる自然科学です。


例を挙げましょう。

その昔、数学者は人が認識できる空間の近似として、ユークリッド幾何学という仮説を立てました。

その後、地球が丸いという事実により、非ユークリッド幾何学という新たな仮説が出て来ました。


このように数学は、物理学や化学という道具を使い、この宇宙の性質を調べています。

その意味で数学は自然科学であり、物理学や化学などを道具として使役する女王様なのです。

龍の残した箱は難物だった。

複雑にして繊細。

そして罠が発動した場合、何が起こるか判らない。

だが、いかにも「良いモノ、入ってるよ」的な雰囲気の箱である。


小さいが、精緻な彫刻。

玉虫色というか、見る方向によって色が変わる素材。

これは、開けてみたい。

何度か試みたが、解錠するに至らなかった。

悔しい。


腕の緊張を解くため、少し休憩。

トントントン

箱の側面を叩いてみる。

ん?


この部分、少しだけ、ガタがある。

暫くその部分をいじっていると、右に動くことが判った。

カチリ

数cm動き、止まる。と、ガタが無くなった。

これは、からくり箱か。


からくり箱は、一種のパズルだ。

決められた手順に従い、押したり揺らしたりすることで開く箱。

ただ、存在は知ってたものの、開けてみたことは無い。

皆を呼び、意見を求める。

トウとか好きそうじゃん。


「いや、そりゃ好きだけどさ」

じゃぁ、たまにはトウが解錠してみよう。

「何時爆発するか判らん物なんて、触れるか!」

えー


「諦めた方が良いんじゃない」

とナツ。結構淡白である。

「私も賛成」

ミズもか。所詮、女性には男のロマンは分からんものよ。

「そうだな」

って隊長!

男のロマンはどうなる。


「ちょっと、この部分」

それまで静かだったタダが言う。

「ひっくり返すと、"res"になりません?」

そう言われてみると、そんな気がする。

「そしてこちらに縦になってるのは、"olver"」

むぅ。


「ちょっとコウ、全体を見せて」

場所を明け渡すと、ミズがあちこちに視線を走らせる。

「なるほど」

謎は全て解けた。

そんな感じでミズが微笑む。


「ちょっとトウ」

「えっ?」

なぜ私が、と言いながらミズになにやら言われてるトウ。

急に胡坐をかくと、じっと箱を見つめる。

やにわにノートを取り出し、なにやら書きなぐる。


「エウレカ!」

数分後、トウが叫んだ

アルキメデスの言葉だ。何か判ったらしい。

ちなみに、正式には叫びながら裸で走り回る。

トウにはやって欲しくない。やるならナタリーかキャリーに。是非。


「おいコウ」

えっ、俺?

「私の指示通りに動かせ」

いや、自分でやろうよ。

「そんな危ないことをやるには、私は繊細すぎる」

人、それをビビリと言う。


トウの指示に従い、からくり箱を動かす。

「その部分を上だ」

最後になると、俺にも判った。


模様と思えた部分が向きを変え、文字となる。

文字が組み合わさり、単語を作った。

"resolver sleutels"

ところでコレ、なんて意味?


「"鍵を開け"よ。僧侶系呪文と同じように、ポルトガル語とオランダ語で綴られてるわ」


鍵穴に針金を挿す。

内部構造がかなり変わっていた。

単純になり、解錠方法が明確になっていた。


カタリ


手ごたえあり。


--


箱の中には1冊の本だけが入っていた。

布張りの表紙に、書名が書いてある。

えーと、どくとりーな…

「どちりいな・きりしたん」

ミズが呟く。

「何でこんな…いえ、当然なんでしょうね」


慎重にページを捲るミズ。

だが、それは後にして欲しい。

「ナツの武器が壊れた。出口まで後退する」

隊長の指示が下り、俺たちは後退を始めた。


--


「あの本は慶長5年に発行されたキリスト教の教理書。子供向けの入門書よ」

門を潜ると装備を外す間も無く、ミズ先生による歴史の授業が始まった。どうやら、説明したくてしょうがないらしい。

空気の読める俺は、皆の疑問を口にした。


ハイ先生!

「はいコウ君」

慶長5年って、いつですか?

「1600年。戦国時代と江戸時代の狭間ね」

400年も前の本が、あんな形を保ってるものか?

「保存状態によるけど、まぁ本物かどうかは、専門家じゃないと分からないわ」

専門家って、お宝を鑑定する人とか?


「問題は、何故この本があんな厳重な鍵で守られていたか、よ」

何故だろう?

ナツが元気に言う。

「大切なものだったからじゃない?」

「正解!」

正解なのかよ!


「この本は怪物を使役する者、この迷宮を造った者にとって大切な物だった」

大切な武具を入れるついでに…って、武具は入って無かったか。

「第1環の松倉家、この本、そして呪文の言語、全ては1つの時代、1つの集団に繋がるわ」


江戸時代初期の潜伏キリシタン。そうミズは告げる。

その言葉を聞き、ナツは固まる。


あのーそれって、隠れキリシタンじゃないの?

「カクレキリシタンは、明治6年に禁教令が解かれた後もキリスト教に改宗せず、独自の信仰を続けている人達」

潜伏キリシタンは、それ以前の人々を指すらしい。


「この迷宮を作った者は潜伏キリシタン。時代は江戸時代初期」

もっと昔って事は?

「松倉重信が肥前に伊封したのは元和2年。それまでは大和よ」

えーと、日本語でおk。

「1618年に、奈良から長崎に来たの」


そうそう、年は西暦で、地名は現在の名前で行って欲しい。

「西暦や今の地名は、ちょっと性に合わないのよ」

一体いつの時代の生まれひぃッ!

睨まれた。

すんごい目で睨まれた。


「だが、そんな時代にこんな技術は無い」

トウが反論する。

「現代にだって無いじゃない」

ゔっ、とトウが詰まる。


「宇宙人でも来て、技術を伝えたんじゃない?」

「ならば、伝承などに残っているはずだ」

まだ諦めないトウ。

だが、状況は不利だ。


いいこと?

と、ミズは腰に手をあて、トウを見る。

「私は事実を元に仮説を立てている」

ビシッ

指をトウに突きつける。

「貴方の根拠を言ってごらんなさい。常識的にありえない、とでも言うつもり?」

ぐうの音も出せずに俯くトウ。


勝敗は決した。


--


くやしいのう、くやしいのう

居酒屋(ぱらいぞ)に来ても、トウはむっつり考え込んでいる。


自然科学では、事実が最も強い。

どれほど昔からある理論も、常識も、ただ1つの事実の前に崩れ去る。

そして、そこから新たな理論が発見されるのだ。


「くッ、よりによって人文学者に、事実を盾に取られるとは…」

ようやく諦めたのか、トウが愚痴る。

「ほーっほっほっ、ようやく自分の誤りを認めたようねぇ」

勝ち誇り、追い討ちをかけるミズ。


「そもそも人文学って、貴方だって自然科学じゃ無いじゃない」

ん?

いや、トウは数学者。自然科学者だよ。

「数学は自然科学じゃ無いわよ」

なんですとー


俺はこれでも大学は数学系を出てる。

その言葉には反論させて貰おう。

数学は科学の女王様なんだぞ。

女王様に向かって、なんたる。なーんたる!


いいこと?

と、ミズは腰に手をあて、俺を見る。

「自然科学は事実、即ち観測可能な対象を扱う学問よ」

ビシッ

指を俺に突きつける。

「数学は事実を扱わない。そこに有るのは、公理と推論だけよ」


なにをゆー。

だが、確かにそこはその通り。数学に観測可能な事実は無い。

言い返す言葉が無い。屈辱である。


「その意味で、数学は哲学や倫理学と同じ。ううん」

ちろり、と蛇のような目で俺を見る。

「哲学や倫理学はまだ観測対象がある」


「数学はむしろ、科学で使われるための言葉。言語であり、人文科学ですら無いわ」

ミズ、言いたい放題である。

そこまで言われて、黙ってるワケにはいかない。


だがトウは既に打ちのめされ、戦う気力も失っている。

ここは俺しか居ない。せめて一言だけでも言い返さねばならん。


ぐう。

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