呑み会 十九次会 -隊長-
「それでは地下7階、第1の環、制覇を祝して」
「「「「「乾杯~」」」」」
今日もビールが旨い。
分隊員全員での祝杯は、格別である。
本日は珍しく隊長まで参加している。
「ささ隊長、もう1杯」
ミズがすかさず空になった隊長の杯に注ぐ。
隊長、実は日本酒党である。
「それにしても、ミズが唱えた呪文の効果は凄かったな」
トウが手放しで誉める。
「"極症"は"全快"の使える回数が減るから、余り使えないんだけどね」
隊長がミズの杯にご返杯。
いつもビールだったミズ、本日は日本酒。
「助かった」
隊長がミズを見つめ、低く響く声で言う。
花が咲くように微笑むミズ。
ん、なんかイイ雰囲気なのか?
「ところでさ」
そんな雰囲気を読まず、ナツが言う。
「島原の乱って、何?」
俺は目を丸くしてナツを見つめる。
トウとタダも目を丸くしてナツを見ている。
ミズは隊長を見つめている。
隊長は頭を抱えている。
「いッ、いや。島原の乱は知ってるよ! ただ、誰と誰が戦ったのかなーって」
それは普通、全然知らんと言う。
かくかくしかじか
トウに肘で突かれたタダが説明する。
「で、この戦いというか一揆がもとで幕府は禁教令を出し、信者は信仰を隠して、隠れキリシタンになったんです」
ナツが目を丸くした。
「隠れキリシタンって、幕府から隠れてたんだ!」
そこ!?
いや、それ知らないってどゆこと?
コッチの方がビックリだよ!
「タダ、禁教令は元和5年。島原の乱の20年近く前よ」
ミズが視線を隊長から逸らさず言う。
「島原の乱が幕府に衝撃を与え、結果的にカクレキリシタンを産んだとは言えるけどね」
あらー
俺も知らなかった。
でも俺、理系だし!
タダの目は泳いでる。
お前は文系、しかも日本史専攻なのに、それはマズいだろ。
つかタダはともかく、ナツはなぜ知らない。
「いやアタシ歴史は苦手で…」
そーゆー問題じゃナイ。
口には出さんが、お前の実家は隠れキリシタンだろうに!
そういう思いを込めてナツを見ると、ナツは目を逸らした。
ひょっとしてナツ、アホの子なのか?
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宴が終わり、営舎に戻る途中。
隊長とミズが遅れていた。
俺達は先を急ぎ、角を曲がった所で待機。監視体制に入る。
「今夜のミズは気合入ってたからな」
「メイクがビシッと決まってましたからね」
「服も、かなり迷って決めたんだよ」
確か隊長は奥さんと死別しているはずだ。法的に問題は無い。
でも、と俺は胸の中だけで思う。
隊長は45歳。多分ミズの方がかなり歳うぇーッ!
なんかゾクッとした。今、ゾクッと悪寒が走った。
その時、細かい縦揺れが始まり、グラッと揺れが来た。
「きゃっ」
ミズが隊長の胸に倒れこむ。
歳のワリにたわわな胸が、2人の間で潰れる。
当てて来たな。
あざとい。
それはあざとい。
その時、隊長の意を決した声が聞こえた。
「ミズ、この迷宮探索が終わったら、頼みたいことがある」
「はい!」
キターーー
隊長ここでフラグ立てるの?
ミズ相手に立てちゃうの!?
でもそれ、死亡フラグだよ。
「ナツの勉強を見てくれないか?」
あれ?
「あいつは実技と体力は申し分無いが、学科に問題があって陸曹候補生になれん」
ナツは目が泳いでいる。
やはりアホの子なのか。
「士長に上げると肩叩きされかねんので、上げれん程だ」
隊長、貴方はヒドい。
ミズは遠目から見ても固まってる。
メーデー、メーデー、メーデー!
心停止してる可能性がある。救護班急げ!
舞い上がってしまっただけに、叩きつけられた時の衝撃が大きかった。
その夜、アホの子からメールがあった。
"ミズが死んだ魚のような目をしてる"
"どうしたらいい?"
ナツには、どうしようもナイ。
いや1つだけ、ナツにできる事がある。
俺は"勉強しろ"と返信した。




