呑み会 十八次会 -共同-
『神曲-地獄篇』では、地獄の第七圏は3つの環から成る。
第1の環--隣人に対する暴力
第2の環--自分に対する暴力
第3の環--神に対する暴力
「この3環が1階層になってるか3階層になってるか、今まで判らなかった」
とトウは言う。
だが、地下7階の通路にその3環が有った。
ならば、第八圏の10嚢、第九圏の4円も、地下8階、地下9階に在るだろう。
つまり、この迷宮は全9階層から成っているはずだ。
後3階層、その果てに何が待っているのかは判らない。
「『神曲』なら、次に煉獄篇が待ってます」
いやそれはちょっと、そこまで付き合いたくナイ。
「更に次は天国篇となる」
付き合おう。
天国というと、ストリッパー工場とビール火山がある処だな。
「何だそれ」
俺も良く知らないが、どこかにそう書いてあった。
ちなみに今回ミズは欠席。今後の対応会議だとかで、隊長と一緒に司令の所に出頭して行った。
さすがにミズが居る席で、"ストリッパー工場"なんて話題は出せない。
「ビール火山はよろしくないな」
劉さんが代わりに参加してる。男ばっかりだ。
「ビールは冷えたのに限る」
意義なし。
「やっぱりここに居たんだ」
あ、ナツ。
「アタシもまぜて」
えー
「いいじゃないか。華があって」
でもナツはなー。酒癖悪いからなー。
「いいじゃない!今夜は呑みたいのよッ」
強引に割り込んだナツを加え、乾杯~。
「そうか、そう言えば明日だったか」
ビールで喉を鳴らしてたナツがむせた。
劉さん、何が明日なんだ?
「明日、ナツの誕生日だ」
なんでそのことを知ってる。
断末魔の息の下、ナツが問う。
「天然痘騒ぎの時、全員分のカルテに目を通した」
平然と応える劉さん。大人物である。
まぁいいじゃん、誕生日だ。お祝いだ。
なのに、ナツの顔が沈んでいる。
「あっ!」
ギンッ!
叫んだタダを鬼の目で睨むナツ。
「ななななんでもありません」
むぅ、何が…あっ!
ギンッ!
睨まれた。
「全員気付いたようだ。諦めろ」
トウは表情に出さなかったものの、気付いていたらしい。
「見逃してよぉ…」
それは見逃せない。
ウェルカム30代。
別にいーじゃん。30になるくらい。
過ぎてしまえば楽なもんだよ。
まー次に40代が迫って来るんだが。
近年、その恐れがひしひしと感じられる俺である。
「コウ今幾つ?」
38だ。
「誕生日何時よ」
…12月
「何日!」
…1日
「明日じゃん!同じじゃん!」
ナツがヤなこと言う。
明日になれば俺は39。いよいよ後がナイ。
40になる前には結婚したい。結婚はともかく、穢れたい。穢れた身体になりたい。
「コウも明日だったか」
劉さんアナタ、男女で扱いに差つけすぎ!
「こりゃぁ、明日も呑まざるを得ないな」
トウはPHSを取り出し、操作しだす。多分ミズにメールを送ってるんだろう。
ピピピ
即座にメールが返ってくる。
「ありゃ」
どうした、トウ。
「明日はナツの誕生会が、女性自衛官内で計画されている」
それって、ナツには秘密だったんじゃないのか?
「ううん、知ってる」
更に沈み込むナツ。
なぜそこで沈む。
「毎年、誕生日に仮装させられるんだ」
ほう、それは見てみたい。
「男性自衛官の正装着せられる」
ふうん、別にいーや。
まぁ、似合うんじゃないか?
そんな言葉が全員の喉元まで出掛かってたが、耐えた。
口から先に出たら、危ないからね。
「そして、女性自衛官の正装着たコとケーキカットの写真撮られる」
それはアレか。宝塚的な感じのアレなのか?
ちなみに新婦役は、くじ引きで決めるらしい。
「最初は冗談で始めたはずなのに、なんか最近ちょっとね」
ぶるぶると身震いするナツ。
板倉夏海1士、百合成分ナシ。
「ナツ、そんな時は俺達を頼れ」
力強い言葉がトウから出た。
さっきからPHSでなにやら話しをしてたようだが、聞いてたのか?
「良い方法がある」
どんな?
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どうしてこうなった。
「それではケーキ入刀。お二人の初めての共同作業です!」
黄色い歓声と共に、スマホのフラッシュが焚かれる。
ナイフを持っているのは、俺とナツ。
そこまでは良い。そこは許す。
だが、なぜ俺だけでなくナツまで男性自衛官の正装着てるのか。
それにこういう時って、男が右で女性が左だよね。
なのに俺が左って、おかしくない?
確かに背はナツの方が高い。ちょっとだけ。ほんの数cm。
でもさ、俺にも男としての矜持があるわけですよ。
ここは断然、新郎の側に立ちたいワケですよ。
「お集まりの皆様、本日は板倉1士と益田2士の祝いの席にお越し頂き、ありがとうございます」
司会を務めるトウが、なにげに場慣れしている。
「それではここで、お二人に誓いのキッスを!」
ちちちちょっと待って!
別にナツが相手という事に異論はナイ。
でもこの状況はヤダ。お断りする。
だがしかし、部屋に詰め掛けた女性自衛官の目。爛々と光る目を前にして「それナシ」は許されない気がする。
恐る恐るナツと見ると、向こうも俺を見ていた。
「諦めろ。これも毎年やってる」
それ早く言ってよ!
そうならそうで、覚悟というものが必要でしょ!
まぁ俺も男だ。
ナツ相手に致すことに否はナイのだ。
39年間、守り続けて来たファーストキスだが、そろそろ潮時だろう。
それは良い。
でもこの状況はちょっとなー
引き気味になる俺にナツが迫る。
「安心しろ、寸止めだ」
御意。
俺がのけぞり、ナツが覆いかぶさるような姿勢になったところで、フラッシュが幾つも焚かれる。
と、その時、地震が起きた。
ズシン!
グラッ!!
ガツンッ!!
説明しよう。
最初のズシンは縦揺れ、グラッは横揺れだ。
地震は、縦揺れの方が速く伝わり、横揺れが後から来る。
この時間差で、震源地が特定できる。ちなみに地震警報システムは、縦揺れを感知して警報を出してる。
今回の場合、縦揺れと横揺れの時間差が殆ど無かったことから、震源地はとても近いと思われる。
さて最後のガツンッだが。
敢えて詳しくは言わない。
とても歯が痛かった、それだけを言っておこう。
"ストリッパー工場とビール火山"は、空飛ぶスパゲッティ・モンスター教の天国にあると伝えられている




