第七圏 暴力の迷宮1 -転職-
俺が米軍パーティで地下6階を探索している間、そして営倉に入っていた期間、日本側分隊は何もしてなかったワケじゃない。
地下5階を探索して、経験を積んでいた。
前衛になってたタダが死ななかったのは、幸いである。
分隊は、最短経路を通り地下7階に向かう。
正直、ハードルが高い。
そして、地下7階でもローブ姿が出たらどうする。
だが、米軍に全てを委ねることは出来ない。
軽トラから装備を降ろし、身に付ける。
地下6階で箱から出た装備は、ラボの調査の結果、かなり良いもの揃いだった。
俺が装備できるものは少なかったが、米軍の余りで他の分隊員の装備は強化された。
タダと装備を相互に確認し、振り向くと武士が居た。
いょおっ、ポンっ。
そんな効果音がしそうな感じで、鎧兜に大小を腰に差した武士が立っていた。
ミズが装備を確認し、OKと背中を叩いている。
もしや、ナツ?
「火力を増やすために、と言われてな」
ナツに、魔術師の呪文を教えたのか。トウ。
「ああ、隊長も承諾の上だ」
確かに火力は増えるだろう。だが、"侍"の装備は"戦士"より弱い。
「覚悟の上よ」
ナツが俺を見据え、言う。
「心配しないで。そもそもコウの方が弱い装備じゃない」
それに、とナツは続ける。
「この装備は軽くて強い。怪物の攻撃を弾くだけじゃなく、かわせる」
だがナツ、それでも--
「状況を開始する」
俺の逡巡を断ち切るように、隊長が告げた。
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"侍"の火力は確かに凄まじい。
地下6階に行くまでの間でも、それは判った。
魔法も使えるが、それ以上に日本刀の力が大きい。
刀身が軽いのか、1回の踏み込みで繰り出す斬撃の数が多い。
総合的な攻撃力は、カークの"フードプロセッサー"に匹敵するだろう。
ただ、"侍"の防御は弱い。"盗賊"に毛が生えたくらいだ。
そして防御主体の俺と違い、ナツは攻撃主体。
彼女は何度も傷を負い、時折タダが魔法で癒していた。
魔法で癒せると言っても、斬られれば痛いし、焼かれれば熱い。
そこまで火力を求めるならいっそ、タダの代わりにナタリーを。
いやそれはマズい。
何故か判らんがマズい気がする。
俺の煩悶を他所に分隊は順調に降下を続け、地下6階に至った。
先頭には俺が立つ。
もしローブ姿に襲われた場合、隊長とナツは刃を向けられない恐れがあるからだ。
いくらラボが、上官が、国家が保証しても、人間それも自国民の姿に刃を向けて平静でいられる者は限られる。
少なくとも、隊長もナツも違う。
幸いにして、地下6階で遭遇したのは悪魔の群れだった。
俺が踏み込み、先頭の1体に切りつける。
「ɔː-zái-ir」
「ir-stem」
トウとタダが詠唱し、色鮮やかな地下の街に劫火が舞う。
「ir-stem」
少し遅れてミズの詠唱が終わり、多くの悪魔の魔法を封じた。
ズパァアンッ!
ナツの一撃が、悪魔1体を斬り裂く。
返す刀で2体目を屠る。
隊長も着実に戦果を挙げていく。
最後の悪魔を倒すと、俺の出番となる。
かなり大きい箱が置かれている。
解錠には大した手間はかからなかったが、中身が問題だった。
うあー
「いかにも"呪い、かかってます"って感じの剣ですね」
タダの言うとおり、装備すれば呪われ、その場で死んでしまいそうな雰囲気の大剣が出てきた。
触らぬよう革袋に包み、慎重に持ち帰ることにする。
「早く行きましょう。この匂いで、気持ち悪くなりそう」
ミズが言う。
悪魔の血の匂いが充満して、確かにキツい。
皆様、階段はこちらでございます。お足元にお気をつけ下さい。
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"Al prossimo"
地下7階の階段を降りると、目の前にそう刻まれた門が有った。
「"隣人"という意味よ」
ミズが教えてくれた。
「この門に入らず、先に通路を探索することを具申するわ」
何か思うところがあるのか、ミズは自信たっぷりに言い、隊長もそれを受け入れた。
"A sé"
「これは"自分"。すると次の門は、"A Dio"--"神"ね」
ミズは腰に手を当て、皆に宣言した。
「つまり、この迷宮は9階層よ」
俺はトウを見た。トウも俺を見ていた。
2人とも無言だったが、互いに何を考えているかは判っている。
囚人のジレンマでは、裏切りもナッシュ均衡だ。有限ゲームなら特に。
迷宮が何階層か判ってる場合は、どこかの時点で裏切りを選んだ方が有利だ。
迷宮が9階層だと判った以上、どこかの時点で米軍は裏切りを選ぶ可能性がある。
"囚人のジレンマ"については、「第三圏 大食の迷宮6 -神曲-」参照




