呑み会 十六次会 -牛痘-
「それじゃ、天然痘の撲滅に」
「「「YHEA!!」」」
やえー
米軍御用達のダイニングバーでマッコイが音頭を取って乾杯。
理由は未だ聞いてないが、天然痘大流行の危機は去ったらしい。
なので、米軍パーティが日本側分隊も招いて大盤振る舞い。
各種ビールが、何と呑み放題!
で、なによ、何があったんよ。
誰か俺にも教えてプリーズ。
「今日、箱の中から出てきた錐みたいな道具があるだろう」
トウが言う。
「あれは種痘のための道具だ」
ジェンナーという昔の偉い人が発見した、天然痘の防止策。それが種痘。
今で言うワクチンの事だ。
「あの道具から、牛痘ウイルスが検出された」
牛痘は牛が罹る天然痘に似た病気で、人間に感染してもあまり害が無いらしい。
そのウイルスを人間に接種すると、天然痘に免疫が出来る。らしい。
似てるから免疫ができるとは、またいい加減なモノだ。
種痘をしていたから、ローブ姿は天然痘の抗体を持っていた。
その傍証として、彼らの肩には種痘の痕跡があった。
更に、天然痘に罹った者特有の痘痕を持つ者は居なかった。
と、劉さんは言ってたらしい。英語で。
天然痘は撲滅したのに、なぜ種痘を続けていたのか?
そもそも種痘なんて古い方法を、なぜ続けていたのか?
それは判らんが、とりあえず天然痘患者は居ない。というワケで宴会。
ナツとトウは俺と同じテーブルに、ミズとタダは学者達のテーブルで呑んでる。
隊長とカークとナタリーは、偉いさん向け報告をどうするか司令と会議中。ご苦労さん。
ナタリーは働き者だよなー
この店での宴会でも、見たことないしなー
そう呟いた俺に、マークが反応した。
「コウはナタリーが怖くないのか?」
怖い。
胸の豊かな美人は、とても怖い。後は熱いお茶が1杯怖い。
さすがにマークも"まんじゅう怖い"は知らなかったようだ。
素直に、怖くないよと伝える。
「僕は怖い」
マークは大丈夫か?
あんな美人を怖がるとは、まさか!
ちょっとマークから身を遠ざける。俺はそんな趣味は無い。その趣味だけはナイ。
「怖がる必要は無い。だが、確かに彼女は"特別"だ」
マッコイが言う。
ああ、なるほどと姿勢を元に戻す。
そんな俺と、?マークを頭の上に浮かべたナツとトウを見比べるマッコイ。
「ナタリーは学者じゃ無い、かと言って普通の軍人でも無い。おそらく特殊部隊だ」
「グリーンベレー?」
「いや、多分デルタの方だ」
司令の予測と同じだ。
「いくらデルタフォースでも、あんな事を顔色1つ変えずにやるなんて、信じられない」
マーク、ちょっと黙ろうか。
ナツには聞かせたくない話だ。
俺が口を挟む前に、マッコイが手振りでマークを止めた。
「ま、彼女が何をやったかは秘密だがな」
ナツとトウが俺の方を向く。
その秘密はダダ漏れだ。司令と隊長限定で。
「私モ怖クハ無イケド、なつサンノ方ガ素敵ダト思イマス」
スコットが話を明後日の方向に飛ばした。
いやお前、この前ナツの事を彼とか言ってたじゃん!
思わずそんなセリフが口を突いて出そうになった。危ないあぶない。
「え、え?」
ナツが赤くなってうろたえる。
「確かに! 僕もそう思う」
マークが話に乗っかる。
ちなみに彼女は今、私服姿。ぶっちゃけ、見違えた。
この姿なら、誰も彼女を男と勘違いしたりしない。
俺も初めて見た私服姿。
しかもスカートである。形の良いおみ脚がちらちら。ちらちら。
「では、ナツさんとナタリーを交換ということで。どうだ?」
マッコイ、それはムリだ。
「うむ、検討に値する」
いやトウ、検討の余地ナシでしょ!
いいかい、よくお聞き。
米軍パーティは既に戦士が3名居る。
ナツが入れば、もれなくスコットはお役ごめんだ。
衝撃を受けるスコット。
一方、日本側分隊は戦士が2名だけ。
ナツが抜ければ、タダが前衛に入る。
タダの命は風前の灯だ。
何処吹く風のトウ。
「じゃぁ、ナツさんが魔術師系の呪文を覚えれば良い。"侍"になれば良い!」
諦めないマーク。
ひょっとしてこれはアレか?
惚れたか?
だが、ナツに"侍"の話はマズい。
"侍"であるカツを思い出してしまう。
心配になりナツの顔を見ると、聞いちゃいなかった。
真っ赤になってる。
そんな誉められたのが嬉しかったのか?
と思ってたら、原因が判明した。
スコットが横からナツに、ショットグラスを渡してた。
彼女の前には、マッコイが渡したショットグラスが、既に空になっている。
マズい!
「ふふふ~ん」
明らかにヨッパなナツが、自慢げに俺とトウを見る。
「どうよ、アタシの女としての魅力。見る人が見れば分かるんよ~」
超ごきげんである。
「特にそこのおっぱい星人ッ!」
ビシィッ、と俺に指を突き立てる。
「女の魅力は胸じゃないよ!」
分かった。
分かったから、そんなことを大声で叫ばないで欲しい。
店に居る全ての女性が、俺の顔を見ている。凝視である。
何人かは自分の胸を押さえ、俺の視線を避けようとしている。
「コウ、そこだけでナタリーのことを」
一種、尊敬の眼差しでマークが俺を見る。
「サスガデス」
スコットも頷かなくていいから。
「コウ、ナタリーの事は任せました。ナツさんの事は僕に任せてください」
マークが力強く言う。
「ナツさん、明日から僕が魔術師の呪文を--」
暴走しだしたマークをトウが止めた。
こっちゃ来い、こっちゃ来い。
「良いことを教えてやろう」
トウがマークに囁く。
メフィストフェレスのような悪い顔になっている。
ナツは今年、30歳になる
トウが囁いた瞬間、マークが固まった。
まーアラサーだと思ってたから、そんなもんだろう。
ところでマーク、そんな固まるほどの事か?
年齢を聞いて女性を見る目を変えるなんて、男としてどうよ。
修行が足りんよキミ。
「お前はまだ17だ。これからも出会いはあるだろう」
なんですとー
トウ、今なんつった?
「マークは17歳だ。前に話しただろう。米軍側のゲーム理論研究者だ」
大事なことなので、2回言います。
なんですとー
若者の心に失恋という傷を、俺の評判に深い傷を刻み、パーティは幕を下ろしたのである。
次回投稿は、7/1頃の予定です。




