呑み会 十五次会 -泥酔-
トウから、居酒屋で呑んでると連絡が来た。
いそいそと向かう。
個室の扉を開けると、いつもの3人とナツはともかく、劉さんが居るのが気になった。
トウが振り向く。
「来たか、ヘタレコウモリ」
ちょっと劉さん、どゆこと?
患者の情報を漏洩しちゃうなんて、医師の倫理はどこへ行った。
「お前は患者じゃない。面会者だ」
ひどい。
「そうか、コウってヘタレなんだ」
くぷくぷ笑いながら、ナツが言う。
「ううん違うの。コウはナタリー以外に、好きな人が居るのよ」
みみみミズ!
いや、ミズさんッ。そのネタは今、この状況で言うべきネタではありませぬ。
こればっかりはご容赦を。ひらに。
ほほう。
そんな目でナツが俺を凝視している。
目は俺に据えながら、口は「誰っ、誰っ?」とミズに囁きかけている。
「どっしよーかなー」じゃありませんよミズさん!
こんな状況でそんな御無体なこと披露されちゃったら、俺は明日からどうすりゃ良いの。
「ミズ、そのくらいにしてやれ」
トウ様がフォローに回ってくださった。
ありがとう。このご恩は当分忘れません。
とりあえず、さっきヘタレ言ったのは許す。
「そうだな、その話はコウを酔い潰してからだ」
劉さん、アンタは許さない。ゼッタイにだ!
だがとりあえず乾杯はしてやる。ありがたく思え。
ごっふごっふごっふ。
呑まなきゃとてもやってられねー
だが待て。
酔い潰れたら劉さんに何言われるか判らん。いや判るが判りたくない。
ここはセーブだ。
こっそりとホッピーの中身抜きを頼み、万が一にも潰れないようにする。
心頭滅却、精神集中。
この場でミスは許されない。
「なぁ」
耳元で囁かれた俺は飛び上がった。座ったまま。
「誰よ、その人。手伝うよ。手伝っちゃうよ、アタシ」
ナツが爛々とした目で俺の横に居た。
ちょっとミズ、この人何とかしてください。
「あらナツ、貴女コウを同僚に薦められるの?」
ちょっとミズ、話を進めないでください。
「悪い男じゃ無いと思ってる。まぁ、女を見る目は無いけど」
豪快にジョッキを呷るナツ。ビールおかわり。
「ふ~ん。じゃ、もしコウから迫られたら、どうする?」
みみみミズ、なんてコトを!
でもちょっと知りたい。かも。
「ダメ、却下」
急に蔑んだ目で俺を見るナツ。
「こいつ、おっぱい星人だから」
いつまで引きずるそのネタ。
「それがねー」
ミズ、もう許して。お願い。
「コウの想い人、ナタリーと全然別のタイプなのよ」
そっちでトウとタダが腹を抱えて、のたうち回ってるんだけど。
「へぇ、どんな感じの女性?」
誰かある、ナツを止めろ!
「えーと、ボーイッシュな感じで、スレンダーな美人よ」
「なにそれ、おっぱい星人のクセに」
ミズさん、ご存知だろうか?
貴女は今、非常に微妙な状況に追い込んでいる。この俺を!
俺の顔は酔ってもいないのに赤くなっている。
耳は、今にも火が点きそうだ。
一方、肝は冷えひえである。
胃には穴が開きそうだ。
「アンタは、おっぱい星人としての自覚が足りない!」
ビシィッ!
そんな感じで俺に指を突きつけるナツ。
さすがに、ここに至って俺も気付いた。
ナツは酔ってる。それも泥酔だ。
いったい彼女に何杯呑ませた?
「まだそれで2杯目だけど」
弱っ。
「なにをゆー。アタシまだ酔ってないよ」
べろんべろんだ。
「ああん、アタシのビール取ったー」
いつの間にか2杯目のジョッキを干し、おかわりまで頼んでいたナツから、ジョッキを奪う。
これ以上、こいつに呑ませるワケにはいかない。
「なんか保護者みたいね」
うるさい。
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その後、酔いつぶれたナツを背負って、女子営舎に行く。
女性としては重いはずだが、ここ数ヶ月、鬼軍曹に鍛えられた俺の足腰は、このくらいなんとも無い。
ちなみに背中に当たる感触は、なんにもナイ。
「コウが来てくれて良かったわ」
えーよござんしたね。
さんざん玩具にされました。
「ナツ、まだ落ち込んでるのよ。たとえ中身が怪物だったとしても、あの子を斬ったことで」
じゃぁしょうがない。玩具にされてもガマンしよう。
「貴方は意外とタフよね」
そうかな?
タフというのとは、ちと違う。
なぜか他人事のように思えるんだ。迷宮内でやったことは。
そんな事は、ミズにもナツにも聞かせられないけれど。
「ちょっとここで待ってて」
誰か、手伝ってくれる人を連れてくる。
そう言って、ミズは女子営舎の中に入って行った。
夜風がそろそろ冷たくなる季節だ。
早く人を呼んできて欲しい。
だって背中の感触が寂しいんだもん。
もし背負ってるのがナタリーだったら、遅い方がヨイと思った。かも。
「んー」
耳元で声がする。
起きたのか、ナツ。
「すきよ」
幼子のような声だった。
首筋に冷たい涙が触れる。
「カツ…」
夜風が冷たい。
ミズ、早く人を呼んできてくれ。




