呑み会 十四次会 -親戚-
俺が目覚めた翌日、あの子の血液検査が終わった。
天然痘ウイルスは検出されなかった。
念のため1週間は隔離を続けるが、まず大丈夫。
一気に皆の緊張が緩んだ。
特に劉さんがひどい。
俺達の事を放ったらかし、一日中なにやらやってる。
面会室の予約表には劉さんの名が並び、数少ないPCは独占状態だ。
たまに呑みに誘っても、まるで乗ってこない。
なので、いつもの民間人4人だけで缶ビールを開けている。
「劉は、ヤツなりに俺達の事を思ってるんだよ」
トウが擁護する。
「迷宮で遭遇した子が何処から現れたのか。それを調べようとしている」
迷宮から現れました。
「そうじゃなく」
「DNAからあの子が日本人じゃないことを、示そうとしている」
へー
それは大和民族の遺伝子がうんたらかんたらで?
「民族は文化的な区分けで、DNAは関係ないらしい」
そなの?
私も聞いた話なんだがな、とトウは続ける。
「大和民族ってのは、"日本語を母国語にしている人々"くらいの意味らしい。だから、もしナタリーの母国語が日本語なら、彼女は大和民族になる」
いや、それはナイ。
いくら美人でも、それだけは認められない。
あんな巨大な胸した大和撫子は居ない。
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人の遺伝情報は、細胞内のDNAに書かれている。
その情報は、2人の親からだけ子に受け継がれてる。3人目の情報が入り込むことはナイ。
だからDNAを調べれば、血の繋がった子かどうかが判る。
「劉はその方法で、彼女の親戚を探している」
「でも調査のために、日本人全員のDNAが必要じゃないですか」
まさか国民全員にDNA検査を受けさせるワケにはいくまい。
「お前らだって、健康診断とかで血液取られてるだろ?」
トウがとんでもないことを言い出した。
「今はDNA解析機も安くなっててな、5分くらいで検査が出来るらしい」
いや、出来るからってやっちゃダメでしょ。
許可取られた覚えナイよ!
「でも、情報有ったからやってると思うぞ」
しゃーしゃーとトウは言う。
特定秘密保護法違反じゃないのか、それ。
「まぁそれで、あの子の従兄弟やら再従兄弟やらが、居るかどうかを調べてるらしい」
だが調べてどうなる。
「親戚が居なければ、日本国民じゃない状況証拠になる」
警察が持つ行方不明者リストに、あの子に該当する者は居なかった。
近隣住民に該当者が居なかったか、調査もしたらしい。
だが、発見できなかった。
後は遺伝子調査をすれば、やるべき調査は終わりらしい。
「自衛隊が国民を殺害したなんて事になれば、一大事だからな」
大騒ぎになるな。
「万一を考えて、日本人じゃ無い証拠を積み上げるんですか」
なんか無意味な事してるなー
「でも、隊長とナツにとっては重要よ」
「自衛隊員として、敵国の者を撃つ覚悟はあるかも知れない。でも、撃ったのが自国民だったら」
じゃぁ、あの少女に北朝鮮国籍でも与えれば良いじゃないか。
そんな俺の思い付きは、さすがに口に出せない。
隊長とナツにとって、それは重要な事だからだ。
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劉さんの奮闘の結果、あの子に日本人の親戚は居なかった。
それが判った夜、劉さんを招いて呑み会を開催した。
「6親等以内の親戚が日本人に居る確率は、0.000001%以下だ」
それは、良かったのか?
まぁ、隊長とナツには良かったかも知れん。
「これらの情報を政府に送れば、日本人では無いと結論を出すだろう」
じゃぁ、何処から来たんだ?
「それが判らん」
見た感じは日本人っぽかった。
「なお、口内細菌からは納豆菌が出た」
おい、それって納豆食ってるんじゃないか。
それやっぱ日本人じゃね?
あ、韓国でも食ってるかな?
「韓国人の親戚も居ない。北朝鮮人はゲノム情報が手に入らない」
だが、日本に居て納豆を食ってる。
見た目も日本人だ。
たとえ親戚が居なくても日本人なんじゃないか?
「日本国籍を持たなければ、日本人じゃない」
いや、それは乱暴だろ。
そもそもそれじゃ、DNA調べたの何だったんだよ。意味ナイじゃん。
「いや色々判るぞ。あの子のDNAは日本の本州在住民に近い。ただ、一部はポルトガル在住民に近い。多分クオーターくらいだな」
なにー
じゃ、本当に日本人じゃねーか。
「日本国民に親戚が居なかったと言っただろう。何世代か前にポルトガルに渡った日系人の子孫、ということが考えられる」
でもクオーターって言ったじゃん。ポルトガル人の血は少しだけで、大部分は日本人だって事だろ。
ポルトガルって、そんな日系人ばっか居るのか?
「さて、ポルトガルに日本人村は有ったかな?」
しゃーしゃーと、すっとぼける劉さん。
「劉さん、それ、報告には書くの?」
ミズが妙に真面目な顔で聞いた。
「書かん。私も日本国から予算を貰ってる身だからな。期待される情報だけを書くさ」
それは科学者として、どーなのか。
「科学者もロハでは研究できん。資金源はお客様だからな」
うわー。ひでーこと聞いたー
「じゃぁ、この話はこの場限りってことで」
唇の前に指を1本立て、ミズが微笑む。悪女だ。これは悪い女の微笑みだ。
「じゃぁコウ、貴方この話をナツに伝えるの?」
うム、この話はこの場限りってコトで。
あれ、俺は?
俺には伝えても良いの?
「お前にとっては、あの子が日本人だろうが外国人だろうが、関係ないだろ」
トウが酷いことを言う。
だが、その通りだ。
俺にとっては、あの子が人間か怪物かが重要で、国籍や民族はあまり気にしない。
でも、あの子の家族が見つかったら、それが日本人だろうがホッテントット人だろうが、落ち込むだろう。
ナツのためにも俺のためにも、これ以上の詳細調査は行わないで頂きたい。
できるだけ。




