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ダンジョン&第16普通科連隊ズ  作者: tema
第六圏 異端の迷宮
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第六圏 異端の迷宮4 -告解-

「私のことはシモンと呼んでください」

従軍牧師だというその男は、日系らしく見た感じ日本人。

日本語も違和感ナシ。だが、母国語は英語らしい。


「ナタリーをはじめ、皆、貴方のことを思っています。元気付けてやってくれ、と言われました」

じゃぁ顔見せてくれれば良いのに。

「状況が状況ですので、許可されたのは私だけです」

まぁ、天然痘の疑いがあれば、仕方ないか。

シモンさんとの会話も、気密を保つためのビニール越しだ。


「迷宮内でのことを、話して頂けませんか?」

正直、あまり思い出したくない。

だが、誰かに聞いて欲しかったんだろう。不安を。

俺の心が、壊れ始めてるんじゃないかってことを。


人を刺したことはショックだ。

天然痘は恐ろしい。

でも一番気になるのは、迷宮内での俺の心と行動だ。

何の逡巡も躊躇いもなく、俺はあの子の首を刎ねた。


あの子の中身は、怪物だったかも知れない。

だが俺の中身も、怪物に変わってるんじゃないか?

シモンさんは、黙って聞いてくれた。

あの子の首を刎ねた話をした時も、彼の表情は少しも変わらなかった。

それがちょっと、ありがたかった。


「板倉夏海--ナツさんともお話をしました」

そうか、彼女は大丈夫なのか?

「斬った時に手ごたえがあった。貴方が刺した子は、既に遺体だった。そう貴方に伝えてくれ、と言われました」

ナツはそれより自分のコトを心配しろ。


考えてみれば、ナツが大丈夫かどうかは、シモンさんに聞くようなことじゃない。

こんなビニール越しの会話より、俺はナツと触れ合い、話し、どれほど彼女が危ない状態か分かっている。つもりだ。


話が途切れた時、シモンさんが言った。

「私は従軍牧師ですが、ラボでは生物学者です」

そだったの?

少し意外。


悪魔騒ぎの時、劉さんから聞いたことがある。

キリスト教は進化論を否定してるんじゃなかったっけ?

「それは一部の宗派です。私は違いますよ」

へー

「科学と信仰は両立できます」

そんなものか。


「で、これからは牧師としてではなく、学者としての言葉と思ってください」

迷宮に入った者は、それぞれ専門の職種になる。

戦士、僧侶、魔術師、そして盗賊。

盗賊は、特に謎が多いらしい。


「カークが貴方の腕を誉めてましたよ」

シモンさんは言う。

「前任者が10分以上かかっていた解錠を、数秒で行うと」

ほう。

さすが俺。

だから最初に解錠した時、米軍パーティの反応が変だったのか。


「前任者は、特殊部隊で解錠を指導している者でした」

解錠の指導者?

それも特殊部隊の?

そのワリに10分もかかるとは、腕がナニだ。

まぁ、俺の腕が良すぎるのかも知れん。エヘンえへん。


「多分、彼の腕は世界でもトップレベルでしょう」

つまり俺の腕は、世界でも類を見ないほどであると。

いやーそれほどでも。

「だから、彼より早く解錠できる一般人などありえない」


「貴方が、何処かの国から送り込まれた特殊工作員ではないか、そう疑いました」

いやちょっと待って。そんな事無いって!

「ですが調査した結果、その可能性はゼロです。貴方には何の特徴もありませんでした」

いやちょっと待って。そんな言い方ってナイ!


「だから私は考えました。貴方の解錠には、"盗賊"の力が関与していると」

へ?


待て。

前任者(カトー)だって、"盗賊"だろう。

「彼は"盗賊"ではありません」

なぬ?


「"戦士"ほど武具は使えませんが、彼は日本的な刀や鎧兜が装備でき、簡単な魔術師系呪文も使えました」

それは、カツと同じだ。

「我々は、"侍"と呼んでいます」


迷宮内に入った者の能力は、体内のナノマシンが与えている。

体内に入ったナノマシンは、人により何種類かに分化し、独特な力を与える。そう考えられている。


"戦士"が持つ、武具を思い通りに動かす力。

"僧侶"が持つ、人や怪物の体内にあるナノマシンに働きかける力。

"魔術師"が持つ、大気中に浮遊しているナノマシンに働きかける力。


「"侍"は、"戦士"と"魔術師"のナノマシンを体内に持つと考えています」

2種類の力を使えるが、体内のナノマシン濃度が低いため、各々の能力は低い。

「"侍"しか使えない武具があるのは、未だ原因不明ですが」

だがそうすると俺は?


「貴方は謎の存在だった。だから米軍としては是非とも観察したかった」

ん?

よもや。


俺の脳内にイヤな想像がよぎる。

全て、仕組まれていたのではないか。

"盗賊"が、どういう存在なのか知るために。


「逮捕者は通常、従軍牧師に告白の機会を与えられます」

だが、前任者(カトー)の逮捕後、シモンさんは彼の姿を見ていない。

「前任者が逮捕されたにも関わらず、パーティの士気は下がってません」

つまり、カトーはロシアや中国のスパイなどでは無く、俺を観察するために米軍が失踪したように見せてる。かも。


そしてナタリーの積極的な行動も、俺を観察するためにやってる。かも。

くすん。


考えてもみて欲しい。

特に裕福でなく極端に高い能力もない平凡な俺に、ボン・キュ・ボンの金髪美人が積極的な行動を取っている。

コレはひょっとして、俺に気があるんじゃなかろうか。

そう思っても仕方ないよね!


「そこは私にはなんとも」

シモンさんは言葉を濁す。

言葉は濁しているが、目は残念な人を見る目だ。

聖職者として、それは如何なものか。


「そちらは兎も角、"盗賊"の力は仮説があります」

む。

聞かせて欲しい。いや、なんかヤな予感するからムリにとは言わない。

「是非、聞いて頂きたい」


「金庫などの解錠と異なり、迷宮内の箱には罠が仕掛けてあります」

そう。毒針やら爆弾やら、色々仕掛けてあった。

「そんな箱を、普通の精神状態で扱うことはできません。どうしても手が震え、冷静な判断ができず、普段の能力は発揮できないでしょう」

まぁそうだな。

いや、ちょっと待て。

俺はそんなこと無いぞ。

「それが"盗賊"の力だと考えられます」


脳の役割は、神経細胞の電気的な活動だけじゃない。

各種ホルモンの放出という役割があるらしい。

それが感情の源泉だ、とシモンさんは言う。


「実際には、それらホルモンが心臓の鼓動、内臓の動き、汗腺などを制御し、それが脳にフィードバックされて感情となります」

まぁ、つまりは感情は脳が生み出しているという事だ。

「高ストレス下でその感情、感情を生み出すホルモン放出を抑える力、それが"盗賊"の力だと考えられます」

だから俺は、平常心で箱を解錠できるらしい。

でもそれ、他の人の力に比べてショボくない?


だが、と俺は考え直す。

確かにショボいかも知れないが、それで説明は付く。

俺の心が壊れているのではなく、迷宮内では俺の感情がナノマシンにより抑えられている。そうであれば、出入り口を超えた途端、感情が襲ってきた説明がつく。

それは、俺の不安をちょっと薄めてくれた。


--


面会室から出た俺を、タダが待っていた。

俺宛ての手紙を預かってた、と封筒をくれた。

中身は米軍パーティからの手紙だった。


カークからは勇気付けられる言葉を、マッコイからは希望が持てる言葉を貰った。

スコットは、俺が英語読めないことくらい察して欲しい。

従軍牧師(シモンさん)を送り込んだのは、キャリーだった。俺を元気付けるなら、もっと別の方法を考えて頂きたい。

マークが描いてくれた"心を落ち着けるポーズ"は、身体が固くて出来ない。


そしてナタリー。

情熱的な言葉の最後にキスマークは卑怯だ。

これはもう、俺に気があるに違いないよね!

"最初に解錠した時の変な反応"については、「第四圏 貪欲の迷宮5 -米軍-」参照

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