表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン&第16普通科連隊ズ  作者: tema
第六圏 異端の迷宮
50/106

第六圏 異端の迷宮2 -殺人-

時が凍りついた、そんな気がした。


ナツが切り裂き、俺が胸に短剣を沈めた相手は、10台前半の少女の姿。

怪物でも無く、悪魔でも無い。

黒髪に見開かれた黒い瞳。日本人と思われる顔立ち。

後ろの方で、誰かが昼飯を戻す音がした。


俺は、俺の心は、異常だった。

パニックを起こして良いはずなのに、起こして当然なのに、起こすべきなのに、冷静に状況を判断し行動している。

まるで感情など存在しないかのように。


分隊員のショックを抑えるため、フードを顔に被せ、その子の顔を隠す。

隊長に呼びかけ、辺りを警戒して貰う。

ナツの頬を張り、正気に戻す。

何とか動けそうなミズに頼み、他の3名と一緒に後方を監視して貰う。

隊長だけに前方を監視して貰う。


そして小剣を振り上げ、俺はその子の首を刎ねた。


--


「状況を終了する」


隊長が告げる前に、俺は出口付近に座り込んでいた。

立ってられなかったのだ。

膝が、手が震え、冷や汗が止まらない。

頭の中はパニックで一杯だ。今頃になって感情が戻って来た。


なぜあんなことをやった?

あんなことが出来た?


切断したあの子の首は、今俺が担いでいるバックパックの中だ。

あの子が人間じゃない。せめて日本人じゃない。そうあって欲しかった。

それを証明するためには多分、頭部をラボに持ちかえらなきゃならない。

だから切断した。


理屈としてはそうなんだが、人間として普通出来ないだろ。

なのに俺は、何の逡巡も無くそれを行い、さっきまで平然としていた。

俺は、俺の心は、何かおかしくなっている。


視界の隅で隊長が劉さんに話しかけている。

劉さんが近づき、俺の背からバックパックごとあの子の首を取り去ってくれた。

それを最後に俺の視界は黒く塗りつぶされーー

つまり、気を失ったのだ。


--


目を開けて最初に見えたものは、蛍光灯だった。

営舎の普通の光景。

窓がある。


刑務所の中でも、牢獄の中でも、地獄でもない。

色鮮やかな彫刻でも、殺風景な石造りでも無い、普通の室内。

人間を殺したというのに、こんな普通に放っておいて良いのか?


俺は放っておかれたりしなかった。

ギンッ!

音がしそうな程に強い目をしたナツの顔が、視界に飛び込んできた。


「トウ! コウが起きた!!」

ナツが叫ぶと、あわてたトウの顔が俺を覗き込む。

やぁ。

ちょっと失神しただけだよ。そんな心配するな。

「お前なぁ、3日間も失神しといて"ちょっと"は無いぞ」

なにー


気付くと、身体のあちこちに管が付いている。

股間の大声では言えない部位にも、管は付けられている。

いったいこれは--誰が付けたのか。男だったのか女性だったのか、それが問題だ。


扉が開き、劉さんがやって来た。

珍しく白衣を着ており、こうすると医者らしく見えるから不思議だ。

劉さんの検査を受けてる間に、ミズが俺を見物に来た。

やぁミズ。

気軽に手を振ると、怖い目で睨まれた。

それまで嬉しそうだったのに。


隊長とタダも現れ、彼らは普通に喜んでいた。

ナツもトウも普通に喜んでるのに、ミズだけ変だ。

俺、ミズに何かした?


管を外され(劉さんに!)、シャワールームで身体や髪を洗い、軽い食事をしたところで分隊の皆と劉さんに囲まれた。

「良い話と悪い話がある。どちらを先に聞く?」

良い話だけ。悪い話は聞きたくナイ。

「そんなわけにはいかない」


「先ずお前が持ってきた少女について、説明しよう」

ちょっと劉さん、あなたデリカシー無さ過ぎ!

今も瞼の裏に浮かぶ、目を見開いたあの子の姿。

コトと次第によっては、俺は泣くぞ。泣いちゃうぞ。


「ヒトの女性、血液型はA型、日本人かどうかは分からんがモンゴロイド、年齢は10~20歳の間」

そうか。

血が集団で下に落ちる。

やはり俺は人を殺したのか。

身体に力が入らない。

悪魔が化けた人型だった。そんな願望は潰えた。


俺はこれから、普通に眠れる夜が来るんだろうか。

見開いたあの子の目。あの目を夢で観ない日はあるのだろうか。

そしてナツは、彼女はそれに耐えられるのか?


「ただ脳が、あまり発達してない」

「神経細胞が殆ど分化しておらずシナプスが形成され--ヒトの脳は生まれた後も成長するが、彼女の脳は成長しとらん」

劉さんの言葉は、途中で俺が理解できる言葉に変わった。

「脳だけ見ると、殆ど赤ん坊だ。動くこともままならんはずだ。本来なら」

だが、迷宮内では普通に動いてるように見えた。


「さて、次に悪い話だ」

ちょっと待って!

じゃ、今のが良い話だったの?

違うだろ、それは違うだろ。全然悪い話だろ、今のは。

「次の話は覚悟して聞け」

やだー。聞きたくナイ。


「お前は、いや私達は、天然痘に感染している可能性がある」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ