第五圏 憤怒の迷宮7 -割符-
隊長が、死んだ?
呆然と立ちすくんでいると、頬を張られた。ナツに。
「しっかりしろ!」
右頬を打たれた後、左頬も打たれた。
差し出してないのに!
「本玄室を探索後、出口まで後退して隊長を復活させる。その前にコウ、箱を」
隊長の遺体を抱え、ナツが指示を出す。
そして、目の前には箱。俺の仕事。
隊長が死んだ動揺を抑え、箱の前に座る。
細く息を吐き、吸う。
迷宮内では、俺は何故かすぐに落ち着くことができる。
何故かは判らない。判りたくもない。
まるで、俺の心は壊れているようだ。迷宮内限定で。
ただ、そのことは役に立つ。
鍵穴に差し込む針金が震えることも、焦りも、悲しみも無い。
ただ箱と俺、いや俺の持つ針金だけが其処にある。
カタリ
手ごたえあり。
中に入っていたのは、鎧と長剣、妙な形をした剣?、そして金貨だった。
なんだこの剣?
剣の持ち手は付いているが、バカにでかい柄から、5本の剣が延びている。
こんなの振れるのか?
道具などを回収した後、玄室を探索した。
すると、地下1階で見たのと同じような祭壇が有った。
祭壇に飾られている遺物は、石のような物体。
「僕が取ります」
タダが声を上げた。
そう、誰かが罠にかかる場合、彼が最も代替が利く。
冷静な、冷酷と言っても良い俺の心の一部が、そう告げる。
いや、冷酷ですらない。
感情が存在せず論理だけで動く部分。それが、迷宮に入ると俺の心の中で目覚める。
タダがその遺物を取り上げ、何事も起こらないことに、俺の心の多くの部分は安堵する。
良かった、タダ先生が亡くなったら、誰が俺に女性自衛官を紹介してくれるとゆーのか。
そんな心のおちゃらけた部分が、声を上げる。ちなみにその部分は、迷宮外でも元気いっぱい。
閑話休題。
「出口まで後退する」
ナツ分隊長代理の指示に従い、俺達は後退を始めた。
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『lá-leven』
隊長が無事に復活して、ようやく一息つけた。
ありがとう! 拝金神父の劉さん。
金にはガメツいが、仕事はできる。
「ir-krassen-kiuɑ」
ミズの魔法で全快した隊長は、俺達を見渡し、1人も欠けてないことを確かめるとニヤッと笑い、ナツから報告を受ける。
「さて、こいつは何だろうな」
カークが、タダが取って来た石を見ながら言う。
万一に備え、遺体捜索の用意をしてくれてたらしい。
米軍パーティが全員集合している。
「おそらく、あそこの部分よ」
ミズが指差す先には、地獄門があった。
迷宮の入り口。"汝ら此処に入る者、一切の望みを捨てよ"と書かれた門だ。
色々な字が書かれた部分の上の方。一箇所、文字が一部欠けている部分があった。
「あの欠けた部分は"CITTÀ"。後ろの"DOLENTE"と合わせて、憂いの都を示す言葉よ」
「そうか!」
どゆこと?
「地下5階の閉ざされた門、あれは『神曲』ではディーテの市の門に当たるわ」
つまり、とミズは説明する。
「"CITTÀ"の文字が欠けているから、私達はあの門を通れない」
ならば。
「この石を在るべき場所に戻せば、多分」
通れるようになるのか。
「多分ね」
ちょっと自信が無さそうなミズ。
まぁ良い。やってみるだけだ。
そしてそれでも通れなかった場合は
天の岩戸作戦が発動されるのだ。きっと。
"地下1階で見た祭壇"については、「第一圏 辺獄の迷宮3 -脱出-」参照
"門"については、「第二圏 肉欲の迷宮3 -降下-」参照




