第五圏 憤怒の迷宮6 -武士-
地下4階、未探索領域。
以前、米軍が全滅寸前になった場所だ。
凄まじく強力な怪物が出た場所だ。
政治レベルの交渉により、先に日本側が探索する権利を得たらしい。
誰だよ、そんな余計な交渉しちゃうの。
そういう危ない領域は、米軍にお願いしちゃいたい!
あ、俺は米軍パーティにも入ってるコウモリ男だった。
どっちにしても詰んでるってコト?
いや、この前みたいに、トウが米軍パーティに入ればヨイ。
だがそうなると、ナタリーかキャリーというグラマー美人が犠牲になるかも知れない。
それは人類にとって、特に俺にとって大きな損失である。
特にナタリーは何かと、その、積極的な接触が、ねぇ。
このように俺が人類の得失に想いを至らせている間に、地下4階の扉が目の前である。
地下1階で発見した鍵を使う。
後は神様仏様ご先祖様!
どうかこの俺を、お守りください。
タダやトウなら犠牲にして構いません。
扉が開き、閉まる。
警報のような音が鳴り響き、複数の足音が近づいて来る。
鬼のような影が見えた。
鬼の角と思ったのは、兜の飾りだった。
目の前に現れたのは、戦国時代を思わせる鎧兜を装備した武士。その後ろには、十体近くの人型。
だが一瞬、奴等は俺達を見失う。
影を見た瞬間、隊長の指示で俺達は左右に分かれ、壁に張り付いたのだ。
たたらを踏んで立ち止まる怪物の群れに、俺達が襲い掛かる。
「lá-muur-ɔː」
「ir-stem」
「ɔː-hi-concentração」
後衛の3人が呪文を詠唱する。
だがそれだけじゃない。
『ɔː-zái-ir』
俺が広げた巻物から魔法が発動する。
全ての怪物が劫火に包まれる。
隊長が飛び込み、長剣が武士の胴を貫く。
ナツの長剣が腕を薙ぐ。
先手を取り、怪物の最前列の武士は半減。後続も被害を受けたはずだ。
だが、やはり奴等は強敵だった。
なぜ米軍前衛3名が殺られたか、それは1体の化物に依るものだった。
暗闇に白い目だけが浮かぶ。
その目が俺を見据える。
次の瞬間、ざっくりやられた。俺の盾が。
そいつの刃が盾に当たったのは、偶然だ。
次の巻物を取り出そうと懐に手をやった動き、それが俺の命を守った。
だが、左腕は衝撃に痺れて動かなくなる。
返す刃が閃き、俺の首に迫る。
ヤバい。
盾も向けられない。
避ける余裕もない。
その時、ナツが飛び込んできた。
ナツはそいつに、身体ごと盾をぶつけ。
次の瞬間、ナツの左腕が飛んだ。
俺の首の替わりに。
大量の血が、肩の動脈から噴出する。
辺り一面が血の海になり、ナツは蒼白となった顔で、それでも相手を睨む。
巻物が俺の手の中に有った。
これが、目的の巻物かどうか確かめてる暇は無い。
運を天に任せ、俺は巻物を広げる。
『ir-krassen-kiuɑ』
ナツの切り落とされた腕が光りを放ち、その光が左肩に集まる。
光が消えるより前に、ナツはそいつの剣撃を盾で防ぎ、右手の長剣を振るった。
そいつが土に還る一瞬、動きが止まり、その正体が判った。
忍者。
黒い布だけを纏い、防御を捨て、全てを攻撃に振り向けた暗殺者。
その姿は、重力に引かれ粉々となった。
『ɔː-hi-concentração』
俺が広げた次の巻物が呪文を詠唱する。
1体、また1体と人型が倒れていく。
火と鉄と音が収まると、そこに立っていたのは俺達だけだった。
貧血を起こし、倒れそうになる俺を、ナツが支えた。
その目は俺を見ておらず、常に周囲を監視--していなかった。
ナツの視線の先には、血まみれとなり、動かなくなった隊長の身体があった。




