呑み会 十三次会 -進化-
「で、結局ダメだったのね」
居酒屋にいつもの4人が集まっている。
「ああ、悪魔が数匹居ただけで、扉はしっかり閉まったまま。手詰まりだな」
米軍側の探索に参加したトウが言う。
「ラボから頼まれた悪魔の首は持ち帰ったから、劉だけは喜んでた」
うわー
行かなくて良かったー
「僕はあんな気持ち悪いモノ、とても持てません」
タダが言う。
「誰が持ち帰ったの?」
ミズが聞く。
「ナタリーだ」
げっ
あのナタリーが?
あのボン・キュッ・ボンの美人さんが?
「平然とバックパックに入れて担いでた」
人は見かけによらない。
引くわー
いくら美人さんでも引くわー
でもあの胸は捨てがたい。
だが、そんな俺の呻吟は長くは続かなかった。
居酒屋に嵐のように飛び込んできた男が居たからだ。
「貴様ッ! どういうつもりだッ!!」
トウの襟元を掴み、締め上げる。
「あんなモノを持ち込みやがって、万一他所に情報が漏れたらどうするつもりだ!」
なんだなんだ。
いつも冷静な劉さんが激昂している。
トウもさすがに目を白黒しているばかり。
パァンッ!
いー音が響いた。
「静かにしなさい」
ミズが平手で劉さんの額を叩いた音だ。
いやー、いー音がした。
実の詰まったスイカ叩いたような音だった。
ごっふごっふごっふ
劉さんがジョッキを一気に干す。
エラい呑みっぷりである。
呑まなきゃやってられねー。
全身から、そんなオーラが出ている。
「あの悪魔の眼球は、網膜と視神経が逆についている」
へー
劉さんの言葉に、誰も何も反応しない。
まぁ悪魔だからな。そのくらい違っても当然じゃない?
「これがどういう事だか判るか!」
一向に存じ上げません。
全然ピンと来ない俺達に向けて、劉さんは説明しだす。
かくかくしかじか。
言葉を尽くすが、俺達には何が問題なのかまるで分からん。
人の視神経は、網膜の前に付いているそうだ。
ところが米軍パーティが持ち帰った悪魔の頭部、その視神経は網膜の後ろに付いていた。
んー酔った席だが、劉さんには普段世話になってる。
仕方ない。考えてみよう。
網膜は光を感じ取る器官だ。
そして視神経は、感じ取った光を脳に送る神経だ。
だから悪魔の眼のように、視神経は網膜の後ろに有った方が都合が良い。
網膜は光を直接受けられるし、視神経は脳に近い方が良い。
Win-Winだ。めでたしめでたし。
「お前ら分かってない。全ッ然、分かってない!」
劉さんは怒っている。おこだ。激おこだ。
「ヒトに限らず哺乳類は、否、魚類に至るまで、脊索動物の系統は全て、視神経が網膜の前に位置している!」
なんでそんな設計ミスしちゃったかなー
光が網膜に到達するには視神経を通らなきゃいけないし、視神経が網膜を貫いてる部分は盲点となり見えなくなる。
神様、アンタの設計はよろしくない。
で、何が問題なの?
「こんな事は進化論的に有り得ない!」
劉さんは力説する。
「こんな事が、もし原理主義者やID論者に知られたら、どんな騒ぎになることか!」
いや、だって劉さん。
復活やらゾンビやら悪魔が居るんだよ。
もー進化論も何もあったもんじゃないよね。
俺達はジョッキを掲げる。
劉さんが抱えた頭の上で、皆のジョッキがぶつかる。
乾杯~
「まぁ進化論の破綻は良いとして、問題は地下6階への扉だな」
良くない、全ッ然、良くない、と騒ぐ劉さんを無視してトウは話を進める。
「こうなったら、残った道は1つだけよね」
まさかミズッ!
貴女が"天の岩戸作戦"を実行すると!?
いや、確かに貴女は歳のワリに中々のモノをお持ちだ。
ダイエットしてるのだろう、スタイルもまずまずだし、脚も長い。
だがそれは、下着や服で補強された砂上の楼閣。
それらを取り去れば、重力と年齢という無慈悲な力がその肌に、オッパイに!
「コウ、何か凄く失礼なこと考えてない?」
いえ何にも。
0.1秒で俺は理性を取り戻した。
危うく口走りそうにはなったが、それだけはマズい。生命の危険がある。
「じゃぁ最後の道、地下4階の未探索領域に行くしか無いわね」
えっ!?
天の岩戸作戦じゃないの?
「なにその"天の岩戸作戦"って」
しまった口走った。
?マークが浮かんでたミズの顔が、次第に赤くなる。
柳眉がだんだん上がっていく。
地下4階の未探索領域、やってやろうじゃないか。
それ以外に方法は無い。
この絶体絶命の窮地を切り抜ける手段は!
翌日の訓練の開始前、鬼軍曹が俺の目を見据えながら言った。
「コウ、アンタ本当さいてー!」




