第五圏 憤怒の迷宮5 -悪魔-
陸自vs米軍の危機を水面下で解決した優秀な俺は、迷宮に於いても優秀である。はずだ。
なにせ、米軍には金貨2,000枚の借金がある。
俺ほどの男が居なければ、あっという間に利子がかさみ借金地獄だ。
「あの貸しなら、米軍側救出と監察官捜索でチャラだ」
あれー?
だが、魔法が使えなくなる領域が判ったことで、地下5階は米軍に劣らぬ速さで探索が進んでいる。
これは--
「私のマッピングが優秀だからだな」
さっきから煩いよトウ。
「状況を開始する」
はーい
ムダ口を先生に注意された生徒のように押し黙り、迷宮入り口の地獄門を潜る。
ここからは、さすがに真剣にならざるを得ない。
地下5階は、おそらく今回の探索で下への階段が見つかる。
ただし、地下6階への降下は困難が予想されている。
『神曲』では此処で悪魔が門を塞ぎ、通してくれないという話が書かれている。らしい。タダによると。
だって、あんな難しいの読めないよ!
印刷もなんか荒いしさ。
今回は座標感知の魔道具も借りてきた。
回復魔法を書き込んだ巻物も用意してきた。
出来る限りの準備をした。
でも本当に悪魔が門を塞ぎ、通してくれなくなるとは思ってなかった。
俺達は、閂をかけられたらしくビクともしない扉を前に、呆然と立っていた。
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ここで時を少し戻そう。
地下5階の奥、未探索だった領域の一番奥にある玄室。
俺達は何とか、その場所まで辿りついた。
扉が開き、閉まる。
怪物の--悪魔の群れがそこに居た。
コウモリのような羽。
黒いウロコで覆われた皮膚。
猫のように横に開く瞳孔が、俺達を捕らえる。
「lá-muur」
「tʃ-hi-concentração」
牙に覆われた口が開くと、詠唱が聞こえた。
ひー
無数に飛び交う火の矢が俺達を襲う。
先手を取られ、俺達の動きは防御で手一杯になる。
その俺に、長い爪を伸ばした手が迫る。
左側を盾で、右側を小剣で防ぐ。
悪魔の群れから距離を取り、体制を立て直す。
ふと違和感が俺を襲う。
だが、違和感などに構ってる余裕は無い。
「lá-muur」
「ɔː-hi-concentração」
「ir-stem」
頼りになるウチの後衛達の詠唱が聞こえ、魔法が俺達を護り、悪魔の群れを襲う。
ナツの剣撃が、1匹の悪魔の手を切り落とし、血しぶきが飛ぶ。
ミズの"沈黙"魔法が効いたのか、悪魔が口を開いても詠唱は聞こえず、魔法は発動しない。
攻撃から、次の攻撃に移る際の半呼吸ほどの間。
その間に、悪魔の群れは後退した。
玄室の奥に有った扉を開け、飛び込んでいく。
扉が閉まると、ガコンッと重い音がした。
そして俺達は、閂をかけられたらしくビクともしない扉を前に、途方にくれることとなった。
玄室の中には俺達と、ナツが切り落とした悪魔の手だけが残っていた。
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「コウの腕でも開けられないか」
いや鍵穴も無いし、多分裏側から閂を掛けられてるからムリ。
俺達は出口まで後退し、米軍と一緒に会議室で対策会議中。
「次に遭遇した際、大量の火力で一気に全滅させるしかないか」
とはいえ3グループの群れが居たから、1回の攻撃で全滅は難しいな。
「他に扉を開ける方法は無いのか?」
実は良い考えがある。
名づけて"天の岩戸作戦"。
美女が舞い踊り、薄絹を1枚、また1枚と脱いでいく。
その周りに陣取り、酒を酌み交わしながら浮かれ騒ぐ。
何事だ、と悪魔が扉を開けたところでツッカエ棒を填める。
なお、舞い踊るのはナタリーかキャリーが望ましい。ボリューム的に。あと若さ。
この完璧な計画は、俺の口から外に出ることはナイ。
そんなコトを口にしたら最後、俺の命は無い。物理的に。
ここは、別の計画が必要だ。
「『神曲』では、メガイラ、アーレクトー、ティーシポネー、3柱の復讐の女神が扉を開けるために来るわ」
ミズが言う。
「確かメデゥーサも呼ばれたはずだ。1人足りんな」
ちょ、カーク隊長。
4人居ます。此処には女性が4人居ますからね!
間違っても視線で3人を限定しないように。お願いしますよ。
「悪魔の手からは何か分かったか?」
そう、ナツが切り落とした悪魔の手は持ち帰っても土に還らず、そのままの状態で残っていた。
血しぶきが飛ぶのも、今までになかったことだ。
俺は戦闘開始時に感じた違和感を思い出す。
今まで戦った怪物は、何処か作り物めいた雰囲気があったが、あの悪魔の群れは違った。
まるで生きているような、そんな感じがした。
「悪魔の手は今、ラボの医学技官達が調査している」
と隊長が言う。
「ただ、門を開ける役に立つとは思えん」
指紋認証で開く扉だったら使えたのに。
結局、米軍パーティにトウが参加し、前衛3名の戦士に後衛3名の魔術師という最大火力でゴリ押ししてみることになった。
これがダメだった時、俺達には最後の手段しか残されていない。
でも"天の岩戸作戦"は、俺以外の誰かが提案して欲しい。
もちろん参加はする。全力で。
コウが読もうとしたのは、岩波文庫。最初に読むなら、河出文庫がお勧め。




