呑み会 十一次会 -御子-
今日も迷宮に潜り、無事に戻ってこれた。
今日は米軍側パーティだったので、ダイニングバーで宴会。
「「「YEAH!!」」」
やえー
「コウは、いつもビールね」
今日のキャリーはカクテル。
「たまには強い酒をと薦めてるんだがな」
マッコイはいつも強い酒じゃないか。もっと肝臓を労わるべきだ。
「イツモびーるジャ、飽キルダロ」
そういうスコットはいつも同じウォッカ。俺の方が銘柄を変えてるだけマシだと思う。
カークとナタリーは、横須賀まで報告に行ったらしい。
迷宮から戻ってきたばかりなのに、タフだなー。
ちなみにマークは酒を呑まない。なので、今日は此処に来てない。
「ビールしか呑まないのは、宗教的な何かがあるの?」
んーそうじゃないけど、少なくとも最初の一杯はとりあえずビールでしょ。
そう言えば、と思い出した。
監察官を探してた時、俺達の信仰が異質だって言ってたよね?
キャリーが頷く。
「そうね、私達には考えられないわ」
それは、最初の一杯がビールだから?
「そう、それも貴方達の信仰の1つだと思う」
んん?
キャリーが目配せすると、マッコイとスコットがグラスを持ってカウンターに移る。
キャリーが俺の横に座り、肩を寄せて来る。甘い匂いがして、ちょっとゾクっつとした。
「日本人は、自分では無宗教だって言うけど、そんな人は滅多に居ないわ。人は皆、何か縋る存在が必要よ」
いや、そんなこと言われたって、日本人で宗教信じてる人は少ないぞ。
「ううん、宗教と思ってないだけ」
キャリーは俺の首に手を回す。こ、これって俺、ひょっとして誘惑されてる?
「でも貴方達にも私達と同じように、救世主が居る」
これって俺、ひょっとして勧誘されてる?
ちょっと引き気味の俺の心を察したのか、キャリーはちょっと身体を離す。
「コウ、宗教って何だと思う?」
えー?
正直、良くわからん。
「人を正しい方向に向ける道標よ」
なんか怪しい意見きたー
更に引き気味になった俺を、これはダメだと思ったのか、完全に身を離しキャリーは座りなおす。
「例えば戦争ね」
いきなり話が飛んだ。
「こちらにはこちらの正義が有って、向こうには向こうの正義がある。その正義を決めるのが宗教よ」
まぁ、宗教は頻繁に戦争の引き金になるな。
だから俺達は宗教を嫌うんだ。
「じゃぁ貴方達は、何に基づいて正義を決めるの?」
え?
それはほら、法律とか。憲法とか。
「法や憲法は、どうやって決めてるの?」
それは、ほら国会や裁判所で皆で話し合って。
「そう。それが、貴方達の宗教」
はい?
話し合って決めるのが宗教だって?
「例えば、人種差別するって話し合いで決まったら、どうする?」
いや、そんな決定するハズない。
「例えば、の話」
「正義は、話し合いや多数決で決まるものでは無いわ。話し合いは、正義が何かを探すための方法」
まぁ、そうかも知れない。
「でも日本では、話し合いによって決まったことを正義と定義する。皆で話し合ったから間違っているはずが無い、そう信じてる。それが貴方達の信仰」
いや、いやいや。
米国だって、そうやって法律とか決めてるよね。
「私達には、他に正義を導く標が有るわ」
「聖書には、救世主がどのような言葉を、行動をしたか書かれている。それが私達に、何が正義かを示してくれる」
キャリーの目は、狂信者的な感じはしなかった。
むしろ冷静な、論理的な瞳。
「それが私達の安全装置。皆が、社会全員が暴走した時に、引き止めてくれる錨」
でも、とキャリーは言う。
「貴方達日本人には、その安全装置が無い」
「日本人にも救世主は居る。でも聖書を持っていない」
その救世主って、誰よ。
天皇陛下のことか?
「違うわ」
「私達の救世主、イエスがどんな場所で生まれたか知ってる?」
話を逸らされた気がするが、答えは馬小屋。正解でしょ。
そりゃ、父親にとってはエッチしてないのに出来た子だ。どう考えても不義の子。
"馬小屋ででも産んどけ"、そう言われても仕方ない。
「確かに日本では、馬小屋で生まれたことになってるわね」
違うのか?
「実際は、生まれた後に飼い葉桶に寝かされただけよ。馬は出てこない」
へー
「日本には、馬小屋で生まれた人が居るわね」
何か聞いたことある気がする。
「厩戸皇子。聖徳太子と言った方が良いかしら」
ああそうそう。昔、一万円札だった人。
「彼が日本人の救世主よ」
はい?
「十戒に当たるのが十七条憲法。そこに書いてあるわ」
と、キャリーは俺の目を見て
「和を以って貴しとなす」
皆が最初にビールを呑むから、最初はビールが正義。
皆で話し合って決めたことだから、決定したことは正義。
それが日本人の信仰。そうキャリーは言った。




