呑み会 十次会 -見所-
「貴女が居なければ、私の命は無かったでしょう」
監察官の言葉は、マークが同時通訳してくれている。
「貴女は私の命の恩人です。しかも素晴らしく美しい」
あらあらうふふ。
最後の一言に、ミズは上機嫌だ。
「男の中に女性1人では、何かと不便でしょう。何か私にできることがあれば」
ん?
ちょっと待った。その言葉、プレイバック。
『男の中に女性1人』?
左を見る。
タダが慌てている。
右を見る。
トウが頭を押さえている。
後ろを見る。
隊長がナツを抑えている。
状況を整理しよう。
1.ナツは装備を外し、迷彩服姿である
2.ナツの身長は170cmを軽く超える
3.ナツの髪型はベリーショートである
4.ナツの胸部は膨らみがナニである
背が高くて、髪が短くて、ぺったん。
コレは外人だったら、男と間違えてもしょうがないよね。HAHAHA!
まぁ、そんなこと口にしたら大変なことになるけど。
今まさに、後ろで大変なことになっていた。
--
俺達は今、4人で居酒屋に居る。
ただしミズは居らず、替わりにナツが居る。
隊長は逃げた。いや、司令に報告に行った。
タダは怯えている。
トウは沈黙している。
ナツは目が据わっている。
「まぁなんだ」
仕方なく、という感じでトウが口火を切った。
「監察官は、見る目が無いんだよ」
だよねー。
見所が悪いよね。
ジョッキを持ち上げる。乾杯~。
キンキンに冷えたジョッキが口に触れる直前、声がした。
「見所って、何処よ」
俺の肝がキンキンに冷えた。
しまった、言葉を間違った。
「何処よ、見所って!」
更に追求される。
ここで胸とか言っちゃったら物凄いコトになる。
かかか髪型で判断しちゃったんだよ、きっと。
でかした俺!
よくぞ最も無難な場所を選んだ!
俺の顔が2つの掌で挟まれる。
ぎぎぎぎぎ
掌で挟まれたまま、強制的に左に向かされる。
爛ッ!
青く燃える瞳が俺を射る。
思わず目を逸らした。
だって怖いんだもん。
問題は、目を逸らした方向だった。
下にだけは、逸らせちゃいけなかった。
だが諸君、考えてみて欲しい。
若い女性が至近距離に居る場合を。
思わず視線を胸元に走らせてしまうだろう!
それは男のサガだ。本能だ。条件反射だ。
たとえそこに膨らみが無くとも、思わず視線を走らせてしまうものなのだ。
ぎぎぎぎぎ
やめてー
指立てるのやめてー
頭蓋骨に穴が開いちゃうから!
「おまたせー。あれコウ、何やってんの?」
頭蓋骨に穴が開いてないか、確認してます。
つかミズ、もちょっと早く来て欲しかった。
「いやー、口説かれちゃって大変だったのよ」
えっへん。
胸を張るミズ。年齢不詳。
確かに、歳のワリになかなか立派なモノをお持ちである。
ぎりぎりぎり
横で歯軋りが聞こえるような気がする。気のせいである。
「監察は無事に終わって、迷宮の危険性と此処の重要性は認められたわ」
それは何より。
「米軍は予算と人員を増やせるって喜んでたわ」
乾杯〜、とジョッキをぶつけ合う。
「酒保の品揃えも増えるよう、監察官にお願いしといたから。期待しといてね、ナツ」
ん、ナツが欲しい物が何か売られるのか?
翌週、米軍側の酒保の品揃えが増えた。
特にミズが監察官に"お願い"した女性用下着の品揃えは、相当な充実度と聞く。
ただ、ナツが使えるサイズの胸部下着が無かったことは、まことに遺憾である。
"ナツの胸部下着"については、「呑み会 九次会 -氷炎-」参照




