第五圏 憤怒の迷宮2 -家出-
にーにー
今日のランニングノルマを達成し、猫のワガハイとたわむる。
俺の手の下で至福の表情を浮かべるワガハイ。
よしよし、ういヤツじゃ。
そこに草を踏む音がした。
ワガハイが俺の手を離れ、とととと駆けて行く。
なーお
ナツの腕に収まり、ご満悦である。
その頭を撫でようとナツに近寄ると
「近寄らないで」
ひどい。
「あんな男に近づいちゃダメだよ、ワガハイ」
えー
こんなに可愛がってるのに。
「アイツはおっぱい星人だからねー」
ちょっと、まだ引きずってんのそのネタ!
「ところで、おっぱい星人」
その呼び方はやめろー
「トウは大丈夫そう?」
あいつは…ま、大丈夫だろう。
案外タフだからな。
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迷宮から戻った後、タダとトウと連れ立って喫茶室に行った。
そして、タダ様が女性自衛官とお茶の機会を作ってくださった!
詳しいことは言えないが、トウが迷宮で辛い思いをした。そうタダが話すと、女性陣はトウの手を取り勇気付けてた。
「私達を護るために、戦ってくれてるんですもの」
あれ、俺は?
俺も戦ったよ。
「私達は迷宮に入れないけれど、この分屯地の皆が貴方の仲間よ」
「ごめんなさい。頑張ってとしか言えない。でも頑張って」
心を込めた激励だった。
問題は、女性の方々がトウの方だけを向き、俺を一顧だにしないことだ!
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トウは皆に勇気づけられて立ち直ってるよ。
ナツには、それだけを言って安心させた。
俺は勇気づけてくれなかったけど!
「あんたも意外にタフよね」
ナツが俺を誉めるとは!
まぁ、鬼教官のシゴキにも挫けず、脱走もしてない俺は誉めるに値する。
その後の、女性自衛官との受身の訓練というアメが有るにせよ、俺は褒められるべき男だ。
「虫をつけたのは、気にしてないの?」
あーそのことか。
まぁ、あれは仕方ないんだろうな。
協働してるとはいえ、自衛隊と米軍は別の部隊だ。
方針も違えば考え方も違う。
何時裏切るか判らないなら、情報を欲しがるのは当然だ。
それに、水面下で動いてるのは米軍も同じだ。
ナタリーなんか、露骨に俺を取り込もうとしているしな。
「へぇ、わかってたんだ」
そりゃ、あれだけ露骨にやられればね。
「ね、なんで逃げようと思わないの?」
突然、聞かれた。
「アンタだけじゃない。トウもミズもタダも、なんで逃げようとしないの?」
ナツだって逃げようとしないじゃないか。
「アタシ達は覚悟して入隊してる。身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえる、と誓っている」
まぁ確かに俺は、国民の負託にこたえるって気持ちは無い。
何で逃げようと思わないんだろう?
「アタシは逃げた。イエから」
それは、あの状況は逃げて良いんじゃないか?
「後で聞いたんだ。アタシは逃げさせて貰ったんだ」
?
「地元の自衛官募集窓口の人、アタシの許婚の親戚だった」
え?
「そして、アタシの実家の道場の門下生だった」
それは責められるんじゃないか? 親戚と師匠に。
「その人は何も言わなかったけど、多分許婚と父さん両方から頼まれたんだと思う、アタシのことを」
それはつまり、2人とも良い人じゃん!
「だからせめて、アタシは此処からは逃げない。でも」
ナツの真剣な瞳が俺の視線を捉える。
「あんた達は違う。もし逃げたいというなら、アタシは--」
手伝う、とその瞳が告げていた。
ああ、もしもその気になったら、頼むよ。
「おう、任せとけ!」
ドン、と自分の胸を叩くナツ。
その胸は、巌のように微塵も揺るがない。
俺の視線の先を察したナツは、見るみる内に真っ赤になり
「サイテーッ!!」
俺に怒声を浴びせ、去っていった。




