呑み会 七次会 -盗賊-
「で、その後はどうなったんですか?」
タダの質問に、俺は答えられない。
あの激動の日から3日経った。
米軍の遺体は全て回収され、幸いなことに全員が復活している。
ただしカトーの行方は、ようとして知れない。
あの後の司令とナタリーの会話も判らない。
だって英語だったから仕方ないじゃん!
「でもちょっとくらいは判るでしょ」
ミズはそう言うが、こればっかりはダメ。ちょっとも判らない。
自慢じゃないが、俺の英語の成績は抜群だ。下の方に。
「コウ、少しは学んどけよ」
トウ、お前も理系だろ。英語苦手じゃないのか?
「私は留学してたからな。英語は得意だぞ」
裏切り者だ、トウは裏切り者だ。
「仕方ないですよ。誰にでも苦手分野はありますから」
ここでタダ先生がまさかのフォロー。
「タダ、貴方もしかして英語の単位まで…」
耳を塞ぎ、うつむくタダ。
おおタダよ、文系だというのになさけない。
「でも、あの鍵を持って行ってどうするつもりなのかしら?」
ミズの疑問も尤もだ。
俺もそこが疑問だ。
「おそらく、取り引きに使うつもりだろう」
トウがいい加減なことを口にする。
取り引きって、世界最強の米軍相手に?
どんな命知らずがそんなことをするんだ。
「米軍に対抗できる組織。つまりロシアか中国」
はい?
「つまりカトーはロシアか中国のスパイってこと?」
そういうことですか、ミズさん。
いや、俺もそうだと思ってたよ。ホントだよ。
で、取り引きって何?
「我々もこの件に噛ませろ。そう言ってくるんだろう」
迷宮内には現代科学を超えた文明がある。
もし日米がそれを手に入れれば、世界のパワーバランスは大きく傾く。
だからこそ、日本はかなりの予算と自衛隊をつぎ込み、米軍も積極的に関与している。
どこから情報が漏れたか判らんが、確かにそう考えると説明がつく。
「でもこちらとしては、そういうことを許すワケには、ねぇ」
いきなり背後から声がして、俺は飛び上がった。心臓が。
甘い香りと共に白い腕が俺の首に巻きつくと、背中にナタリーの豊かな膨らみが、あた、あた。
「だが、あの鍵はいずれ必要になるんじゃないか?」
トウが冷静に言う。
ちなみに俺は冷静じゃない。俺の全神経は今、背中に集中している。
「鍵は取り返したわ」
ナタリーが俺の首から腕を解き、横に座る。
「こちらの部隊を動かして、国外に出る前に押さえたわ。電子顕微鏡での調査の結果、鍵は本物」
俺の左腕に腕を絡める。
ちょっ、二の腕にむ、む、胸っ…
「彼の脱走を許したのは日本側の失点。ただ我々も必要な人材を失った」
店員が持ってきたジョッキをナタリーが掲げる。
「だから、日本側から人材を補充して貰うことになったの。これでWin-Winね」
かんぱーい…って、あれ?
ジョッキをぶつけたの俺だけ?
「カトーはそちらで、何をやってたの?」
ミズが冷静に言う。
「優秀な軍人として活躍してたわ」
「こちらの聞きたいことは判るでしょ。戦士?僧侶?魔術師?それとも」
女と女の戦いがちょっと怖い。
左腕に押し付けられた膨らみが気になるが、ミズの目も怖い。
「コウと同じ。"盗賊"よ」
へ?
盗賊って、俺が?
いや、俺そんなワルじゃないから!
解錠の技を悪いことに使ったこと無いから!
確かに、戦士でなく、僧侶でなく、魔術師でも無い。
だからって、"盗賊"は無いんじゃない?
ナタリーは更に俺に身を寄せて言う。
「じゃぁコウ、明日は私達と一緒に潜りましょうね」
いやそんなダイビング誘うみたいに、気軽に言われてましても。ねぇ。
ミズの視線が怖い。
いやあの俺、別にそんなつもりじゃないよ。
ただ、左腕に当てられた感触がなんともコレ、至福というか天国というか。
ああ、俺は祖国を裏切ってしまうかもしれん。




