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ダンジョン&第16普通科連隊ズ  作者: tema
第四圏 貪欲の迷宮
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第四圏 貪欲の迷宮4 -失踪-

地下4階に、解錠できない扉があった。

俺は試していないが、鍵穴内にはシリンダーも継ぎ目も無く、どうやっても開けられない扉があった。

その扉を開ける鍵を、俺達は持っていた。


俺がバイクと共に迷宮に落ちた日。

幽霊を倒し、解錠した箱の中に、凝った意匠の鍵があった。

その鍵が扉を開けたそうだ。


扉を超えた米軍分隊は、凄まじく強い怪物たちと遭遇した。

辛うじて全滅は逃れたものの、前衛の3名がその場で死亡。

地下3階まで辿り着いたが、毒のため2名が死亡。

1名だけが、ボロボロの状態で帰還した。


「私のことはカトーと呼んでくれ」

日系らしいその男は、タダの呪文で話が出来る程度には回復していた。

カトーから遺体の場所を聞いた隊長は、即座に判断した。

「コウ以外の隊員は準備にかかれ。準備が完了次第、状況を開始する」


迷宮の扉は、開きっぱなしにはならない。凄い勢いで閉まる。

設計者はPL法で訴えられること間違いない。

試行錯誤の末、迷宮内の行動は6名が上限と定められている。

つまり遺体を持ち帰るためには、5名以下で潜らなくてはならない。


今回は、遺体の回収が目的だ。

戦闘は可能な限り避け、箱は開けない。

俺の出番は無い。


もし俺の出番が必要な時、それはかなり拙い事態だ。

「安心しろ、地下3階なら5人だって大丈夫だ」

俺の不安げな顔を見て、トウが気休めを言ってくれる。


--


迷宮に潜る分隊を見送った後は、会議室で待機。

カトーは医務室に行き、ここに居るのは俺とナタリーだけだ。


「大丈夫よ、コウ。遺体の場所は、地下3階に降りてすぐの処だから」

ナタリーは、今回の探索に参加しなかったため無事だったらしい。

どうやら米軍も7人居るらしい。おそらく日本側に俺が加わったため、政治的なバランスで1名増員したんだろう。

それにしても、立場が逆だ。

むしろ俺がナタリーを元気づけなくてどうする。


カツのために金貨を貸してくれたんだ。今度はこちらがお返しする番だな。

「そうよ、あの貸しはトイチだって聞いてたかしら?」

ちょっ、それどこの高利貸しだよ!


そんな冗談を言ってないと、不安に押しつぶされそうになる。

もしもの時は、カトーを含めた俺達3人に声がかかる。

俺達の出番が必要な時、それは分隊が全滅して、更に捜索隊を出す事態だ。


「コウは鍵開けができるんでしょ?」

ナタリーから聞かれるままに、家が代々鍵師をやってたこと、それが元で分隊に入り鬼軍曹にシゴかれる日々を話した。

そういえば、米軍にも鍵師がいるはずだな。そんな思いがちらっとは浮かんだものの、それを聞く前に話は別の方向に向かって行った。


「ふ~ん。今聞いた話からすると、コウはナツの事が気になるのね!」

ちちちちょっと待って!

なんでそんなことを言い出した!

「女のカンを見くびっちゃダメ」

いやそんなことはナイ。断じてナイ。アレは単なる吊橋効果です。


むしろ俺はナツよりナタリーの事が気になる。美人だし。

苦し紛れに俺がそう言うと、彼女は喜んでくれた。

喜んだフリをしただけか?

いや、きっと喜んでくれてるに違いない。


だが、それを確かめる時間は無かった。

分隊が帰還したのだ。

米軍の内、1人の遺体を連れて。


--


lá-leven(復活)


劉さんの操作でシステムが起動し、大柄な米軍兵士が復活した。

ナタリーと話をしているが、英語なので俺には全く判らない。

こんなことなら、学生の頃にもっと勉強しとくんだった。


「じゃコウ、私達はもう1回潜ってくるから」

ミズが手を振り、分隊は再度迷宮に入って行った。

会議室に戻る俺を、ナタリーが追いかけてきた。

あれ、復活した兵士は?

「復活はしたけど、回復呪文を掛けられる人が居ないから、今は絶対安静よ」

なるほど。


復活した兵士はカークというらしい。

米軍の分隊長だそうだ。

少し気が楽になった。

これで地上に4名、万一日本側の分隊が全滅しても、何とか探しに行けるだろう。


そして、考えてみれば美人さんと2人っきり。

これはチャンスじゃないのか?

天が恵まれぬ俺に賜った千載一遇の機会に違いない。


そそそそう言えば、ナタリーの苗字は?

いや一緒に迷宮を探索する仲間だし、米軍の人の事も知らなくちゃね。

「ヒ・ミ・ツ」

あれ?

「私は、ただのナタリー」


パチッ。

音がしそうなウインクと共に彼女は言う。

ひょっとして、ナタリー・タダノさん?

もしかして日系?

そんなワケはない。


考えてみよう。

米軍の学者系、魔術師と僧侶は、ナタリー、マークにキャリー。

おそらく兵士の2人は、カークとカトー。

もしや、残りにマッコイとかいう人が居る?

「正解。もう1人はスコットよ」

マジで?


つまり、こういうことだ。

米軍側の呼び名は全て偽名だ。

映画の登場人物やら役者やらの名で、呼んでるだけだ。

そこまでするか?


目の前でナタリーがぺろっと舌を出している。

でも彼女の本名はナタリーじゃない。

騙された!


耳鳴りがする。

そんなに彼女に騙されてたのがショックだったのか、俺。

まだ数回しか会ったことがナイのに、既に心を盗まれてたのか。

でもナタリーなら仕方ない。だってすげー美人さんだし、胸だってもうボンッ!って感じだし。


いや、これは耳鳴りなんかじゃない。サイレンだ。

急に会議室のドアが開き、小銃を抱えた自衛官がドアの前に立つ。

何事?


自衛官に聞いてもわからない。

ナタリーに聞いてもわからない。

ただ、気になることがある。

自衛官が俺達の方を向いてることだ。


自分で言うのも何だが、俺達は貴重な人材だ。

迷宮内で戦闘を重ね、レベルアップした者などそうそう居ない。

だから銃を持つ自衛官が俺達に背を向け、誰かから俺達を護るなら話は判る。

だが今、自衛官は俺達を見ている。

いったい--


どういうことだ、と自衛官に聞く前にドアが開き、基地司令が現れた。

後ろには隊長とナツを手玉に取った若造もいる。

「困ったことになりました」

と、基地司令は言う。

その視線は、俺ではなくナタリーを向いている。


「Mr.カトーが失踪しました。地下4階の鍵を持って」

"凝った意匠の鍵"については、「第一圏 辺獄の迷宮3 -脱出-」参照

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