表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン&第16普通科連隊ズ  作者: tema
第四圏 貪欲の迷宮
30/106

第四圏 貪欲の迷宮3 -家出-

迷宮に入らない日は、グラウンドでランニング。

鬼軍曹から、毎日のノルマが科せられている。

ノルマを達成したので、汗が引くまでぶらぶら歩いていると、声がした。

にゃー


声がした方を振り向くと、猫だ。

にーにー

人に慣れてるらしく、近寄ってくる。

うりうり

撫でてやると、ブーツに首筋をこすり付けだした。

可愛えー。


「お、ワガハイじゃん。元気してたか?」

声がした方を振り向くと、ナツが立っていた。

うム、目に力がある。鬼軍曹復活だ。

でも、も少しお淑やかになっても良いと、お兄さん思うなー。


猫のワガハイ君は、俺から離れナツの方へ歩いていく。

「よしよし、いい子だ」


その猫、オスだったんだ。

まーオスなら仕方ない。俺が猫でも、抱かれるなら女性が良い。

「ん? 女の子だよ。ねーワガハイ」

猫に同意を求めるナツ。


ちょっと待って貰おうか。

なぜメスなのに"ワガハイ"なんて名前を付ける。

「ワガハイは猫である、ゆえに猫はワガハイである」

しゃーしゃーとナツは言ってのける。


違う。それ違うよ!

逆は必ずしも真ではない。

真になるのは対偶、すなわち猫で無いなら…

ま、いっか。


猫を撫でてるナツの顔は、普通の女の子に見えた。

まぁちょっと背が高くて迷彩服を着ているが。

鬼軍曹の顔や、迷宮内での姿と同一人物とは思えない。

なぁ、何で自衛隊に入ろうと思ったんだ?

気付いたら、そんな質問が口から出ていた。


「イエから出る一番簡単な方法だったから」

想定外の答えが返ってきた。

家から出るって、そんなに嫌な両親だったのか?

「ううん、父さんや母さんってよりイエがね、でも父さんがオヤジだったから…」

ぐさっ。


仕方ないじゃないか!

男は歳を取るとオヤジになっていくんだよ。

お前だって歳取ればオバ…

なぜか脳裏に、鬼のような顔をしたミズが出て来て、途中で言葉を飲み込む。


「あ、そのオヤジじゃなくてオヤジで、家がツモトだったから…」

ナツがワケのわからんことを言い出す。

オヤジじゃないオヤジ?

ツモトって何県?

頭の上にハテナマークを付けた俺を見て、ナツが言う

「ねぇ、隠れキリシタンって、知ってる?」


バカにして貰っちゃ困る。これでも中高の時には日本史を学んだんだ。

あれだろ、江戸時代に長崎辺りで迫害された人たちだろ。

「アタシん家、隠れキリシタンなんだ」

はい?


実はナツは江戸時代からタイムスリップして来たとか?

時をかける--いや、さすがに少女じゃない。そろそろアラサ…

「?」

俺の心の中のツッコみは、ナツの不思議そうな顔で途切れた。


--


隠れキリシタンは今も実在する。らしい。

未だに隠れてるというワケでは無いが、江戸時代に隠れ続けて普通のキリスト教とは別物になった宗教が、今も残っている。

信者たちは、ツモトと呼ばれる家に集まり、様々な行事をしてるらしい。

「ツモトの家長がオヤジつって、まぁ地区会長みたいなもんよ」

はー


つまり、ナツの家に信者が集まり、お父さんがオヤジとして行事を取り仕切ってたワケだな。

ナツが頷く。

別にいいんじゃね?

家を出るほどのことじゃ無いじゃん。

「オヤジは世襲制で、そのせいでアタシは中学の時に許婚を決められて…」

なんだってー


許婚って、どこのお嬢様だ!

つか、本当に現代の人間なのか?

じゃぁナツは、その許婚から逃れるために自衛隊に?

「いや、その人は悪い人じゃ無いんだ」


近所の優しいお兄さんで、子供の頃からナツは良く遊んで貰ったそうだ。

長崎大学を卒業後、地元の町役場に勤めて--

「でもさ、高校卒業後に直ぐ結婚って、それは無いんじゃない?」

大学進学とかは?

「女が大学なんて行くもんじゃ無いって」

だから何時の時代の女だ、お前は!


「まぁ、とにかくその人は悪い人じゃないんだ。でもね」

家が、嫌だったそうだ。


ナツの家は、いやその家が属する隠れキリシタンの宗派は、男尊女卑の教えだった。

「行事の度に、お母さんは徹夜で準備して、当日だってご飯も食べずに…」

それだけじゃない。

宗派を絶やしてはならない。

千代に八千代に引き継いでいかねばならない。

だから、男子を産むべし。


「でも、生まれたのはアタシだけだった」

父親に妾を取ろうという話もあったそうだ。

父親は断り、その替わりにナツに許婚を決めた。

ナツと親しかった男を選んだのは、父親のせめてもの親心だったのかも知れない。


「でもアタシは許せなかった」

宗派を継続する、そのためだけに人生を決められる。

自分の人生だけじゃない。結婚相手の人生も決める。

宗教は、人間を幸せにするために在るんじゃないのか?

宗教のために、人間が犠牲になるなんて本末転倒じゃないか。


「だから、高校卒業と同時にイエを出て入隊した」

それきり実家には帰らず、親にも会ってない。

そうナツは言った。


にゃー

気付くと、ワガハイが俺のブーツに身をこすり付けていた。

次の言葉を俺が思いつく前に、支給されたPHSが沈黙を破る。

隊長からだった。


急遽、会議室に集められた俺達は、米軍がほぼ壊滅した事を知らされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ