第四圏 貪欲の迷宮2 -説得-
覚悟ができてるとはいえ、人間それほど非情にはなれない。
健全な精神は健全な肉体に宿る…かどうかは知らないが、不健全な精神で戦闘に突入するのはリスクが高い。
俺はともかく、他の分隊員は数ヶ月のレベルアップを経て、現在に至っている。
もし俺達分隊員が全滅すれば、日本は米軍に数ヶ月後れを取ってしまうわけだ。
それは好ましくない、と判断があったのだろう。
ここ1週間、俺達は迷宮に入っていない。
だが、それはそれでリスクがあったのだ。
考えてもみて欲しい。
洞穴の中でゾンビや熊と戦闘する。
死んでも復活できる、と思いきや灰になることもある。
そんなオファーが来たら、君ならどうする?
Noだ。大文字で特大のNO!
いきなり非日常的な状況に巻き込まれ、それをずっと続けていれば、非日常が日常になり慣れてしまう。
だが、1週間というブランクが、俺達を日常の方に戻してしまった。
「コウ、此処を脱出しません?」
俺にそう聞いてきたのはタダだ。
脱出する方法があるのか?
思わずそう聞き返してしまった。
方法があったらどうするのか。俺は他の分隊員を、ナツを見捨てて脱出するのか?
「コウが居れば、あるいは」
そうタダは応えた。
タダの作戦はこうだ。
食料や生活雑貨を搬入するためのトレーラーが、時折出入りする。
物によっては、基地内で1夜を明かすことがある。
夜中にそのトレーラーに忍び込み、脱出するという。
なんだよ、そのザルな作戦!
そんなのすぐ見つかるだろ。この分屯地の出入りは、かなり厳重に監視されている。
仮に門を出れたとしても、トレーラーからどうやって出るつもりだ。外から鍵掛けられてるんだぞ。
「そこをコウの腕で」
俺は何処の脱出王だよ!
「ダメかぁ…」
タダは諦め切れないらしい。
そもそも、脱出しても行くところが無い。
俺達が知ってるのは、かなりヤバい秘密だ。
そんな俺達を野放しにしてくれるワケは無い。
あっという間に警察に御用だ。
タダは一旦諦めたようだが、このままじゃヤバい。
ということで、俺はとある女性自衛官に声をかけた。
以前、タダと一緒に迷子の子猫ちゃんになった人だ。
かくかくしかじか。
脱走しようとした話は伏せつつ、カツが灰になったところを見てタダが怯えている。そんなことを伝えた。
「判りました。任せて下さい」
力強く彼女は頷いた。
その勢いで、豊かな胸がブルンと震える。
待て。
判ったのは良いが、どうするつもりだ。
なぜトウのところに行って、話をしてる。
なぜ俺に「男子営舎の合鍵を作ってくれ」などと言う。
そしてトウは、なぜ用も無いのに俺たちの部屋に来て時間を潰しているのか。
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翌日、タダが元気な顔を見せ、もう脱出のことは考えないとか言ってた。
妙にスッキリした顔をしてた。
ぢぐじょぉお…
"迷子の子猫ちゃん"については、「第二圏 肉欲の迷宮6 -馬人-」参照




