第四圏 貪欲の迷宮1 -大金-
火炎が押し寄せる。
盾で防ぐが、肌が焼かれ赤くなる。
火炎は後衛にも被害をもたらし、特にミズとトウが危ない状況にある。
だが、どうしてもこの2人は必要なのだ。
「ir-krassen」
ミズの詠唱で、トウが持ち直す。
「ɔː-hi-concentração」
トウの詠唱が怪物の群れを焼き尽くす。
目の前の怪物は、金貨。
箱の中に入ってるアレが飛び回り、詠唱もしていないのに火炎が俺達を襲う。
1つ1つは弱く被害も少ないが、なにせ数が多い。
俺はともかく、隊長やナツの剣撃もあまり役に立たない。
1回の踏み込みで倒せるのは1つ、運が良くても2つ。
全然減らないどころか、どこかから仲間が飛んで来て増えていく。
これは、退避するしかないか?
「トウ!昨日の呪文を!!」
タダが叫ぶ。
昨日、米軍が発見した巻物で学んだ呪文は、まだ効果が良く判ってない。
その上、トウは1度しかその呪文を使えないらしい。
「tʃ-zái-ir」
膨大な数の、全ての金貨が床に落ちた。
つっついてみても、動く気配はない。
あまりの効果に、誰よりも詠唱したトウが唖然としてる。
その一方で、ナツが袋に金貨を詰めだした。
呆然と見ていた俺だが、ハタと気付いた。
「これだけの量があれば」
「ひょっとして、カツが?」
復活できる。
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「まだ足りんな」
拝金神父が言う。
「1,352枚だ。後、2,000枚くらい持ってこい」
ケチだ。劉さんはドケチだ。
ちょっとくらいマケてくれたって良いのに。
「だから、マケるもマケんも無い」
システムが要求する金貨は、後2,000枚。
「でも、あの怪物と2、3回遭遇すれば」
「ああ、カツが復活できる」
滅多に感情を顕わにしない隊長が、満面の笑みを浮かべて言う。
しかも、怪物はトウの魔法で一網打尽。
俺も一緒に喜んでたが『喜んでていいのか?』そんな悪魔の声が胸で囁く。
喜んでいいのだ!
俺には、タダ先生から女性隊員を紹介して頂くという夢がある。
明るい未来が待っている。
ふぅ。
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ラボに、今まで無かったくらい大人数が詰め掛けていた。
研究者や俺達分隊員だけじゃなく、非番の自衛隊員が大勢居る。
そして米軍。
何故か焦燥感に駆られた俺は、トウに相談し、ナタリーやマークに頼み、トウと一緒に米軍パーティの隊長に頼みに行った。
彼らが収集した金貨を貸してくれ、と。
彼らも金貨の群れと遭遇したらしく、必用な金貨を快く貸してくれた。
金貨の群れは結構頻繁に出るらしく、トウが居れば直ぐに返せるだろう。
皆が見守る中、劉さんがシステムを操作し、両手を挙げる。
『lá-leven』
光が溢れた。
光の中、カツの骨が、腱が、筋肉が、皮膚が、修復されていく。
顔が修復された彼は、自衛隊員らしく引き締まったイケメンだった。
ちくしょう。
ナツが食い入るようにカプセルを、中に入った恋人を見つめている。
その頬に、涙が1粒こぼれた。
まぁ、これは仕方ない。
ここは引かなきゃ男じゃない。
ここは引くけど、その替わりタダ先生! よろしくお願いしますよ。
光が薄れ、完全に修復されたカツの姿がハッキリ見えるようになる。
やがて光が完全に消え--
カツは灰となり崩れた。
"カツ"については、「第一圏 辺獄の迷宮1 -遺棄-」参照




