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ダンジョン&第16普通科連隊ズ  作者: tema
第三圏 大食の迷宮
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第三圏 大食の迷宮6 -神曲-

米軍側の分隊に魔術師は、ナタリーとマークの2名。

一方こちらはトウ1人。

地下3階では魔術師系の魔法である座標感知が、多量に必要となる。

このため、日本側は遅れを取っていた。

会議室に張られた地図には米軍の書き込みだけが増え、俺達は階段付近から離れることができなかった。


この問題を解決してくれたのは、ラボだ。


「金貨100枚を用意すれば、巻物に座標感知の魔法を書き込むことができる」

白衣を着た科学者が断言した。

発掘された機器を調査した結果、ある程度使い方が判ってきているらしい。

だが、ボッタクられてる気がするのは何故だろう?

「気のせいだ」

トウが断言する。


そんなワケで、座標感知の巻物を持っては潜り、また書き込んで貰っては潜った。

地図は順調に埋まっていき、戦闘も楽になっていった。

何よりも、箱から良い長剣を見つけたのが大きい。

隊長がその長剣を使うと、殆どの怪物は1回の攻撃で土に還るほどだ。


だが、下りの階段が見つからなかった。

この迷宮は3階層で終わりか?

ある日の会議室、分隊内でそんな話を始めた。


「多分違うわ。9階層、または23階層の可能性もある」

なんだその具体的な数字。根拠あるのか?

「彼らが描いた地図、信用できるの?」

俺の質問には答えず、ミズは言う。


「彼らって、米軍ですか?」

ミズは頷く。

「もし彼らが主導権を握るために、わざと間違えて地図を描いたとしたら?」

可能性はある、と思う。


「本案件に於いて米軍は友軍だ。情報は信頼できるはずだ」

隊長が言う。でもそれ、タテマエじゃない?

「あんな迷路じゃ、地図が間違ってるかも知れない」

ナツは故意じゃなく過失だと言いたいらしい。

「僕は怪しいと思います」

タダは米軍不信派だな。


俺は--パス、正直分からん。

「故意に情報を伏せることは無い、はずだ」

トウが言った。

「しっぺ返し戦略って知ってるか?」


最初は相手と仲良くする。

相手が裏切ったら戦う。

それが、しっぺ返し戦略だ。


「しっぺ返し戦略は、ナッシュ均衡だ」

トウの言葉に、皆の頭の上に?マークが乱立した。

「…まぁ、良い戦略つーことだ。そして米軍は、これを基本戦略にしている」

なんでそんな事が判る?


「米軍のオブザーバに、ゲーム理論の研究者が居る」

再び、皆の頭の上に?マークが乱立した。

「…まぁ、しっぺ返し戦略の伝道師だ」

トウは落ち込み気味だ。

厳密な数学用語じゃなく、アバウトな言い方しなきゃならんのが気に入らんのだろう。


「ともかく、米軍の描いた地図に過失はあっても故意の間違いは無い」

トウはそう断言した。


トウ、ちょっと良いか。

解散して営舎に戻るトウを呼び止める。

「なんだ?」

囚人のジレンマでは、裏切りもナッシュ均衡だ。有限ゲームなら特に。


俺の言葉は、トウを微塵も揺るがさなかった。

「知っていたか。それを皆の前で言わなかったことを感謝するよ」

平然とトウは言う。

俺が言ったのは、しっぺ返し戦略が最も優れてるわけじゃない、ということだ。

特に、有限ゲーム--迷宮が何階層か判ってる場合は、どこかの時点で裏切った方が有利になる。


「いずれにしても今は信じるべきだ。米軍が裏切ったと判るまではな」

そうだな。

俺も、そう思う。


次の日、会議室の地図が全て埋まった。

回転床や落とし穴など、様々な情報が書き込まれた地図。

だが、地下へ向かう階段は描かれていなかった。


「本日は、米軍が探索した領域に向かう」

隊長が作戦を説明する。

「故意に誤りを描いたとは思わん。しかし過失は考えられる」

だがそう言う隊長自身が、米軍の裏切りを疑っているようだ。

「そうね」

ミズが同意する。


「是非、この部分を確認したいわ」

ミズが指差した部分には、"Statue(彫像)"と書き込みがあった


--


「これが彫像か」

トウが目を丸くする。

壁に悪魔のような彫像が彫られている。細かい部分まで精緻に彫られており、今にも動きそうに思える。

「造られてから、いったいどのくらい経ってるのか…」

ずっと洞窟は封鎖されてたんだから、少なくとも数百年は前のはずだ。

積もり積もった埃が、その年月を物語っている。


「じゃぁ大声を出すから、皆は周りを監視してて」

ミズが言う。


「パペ サタン! パペ サタン アレッペ!」

なんだその呪文?

次の瞬間、盛大に埃が舞った。


彫像が降りていく。

天井に隙間ができ、次第に大きくなっていく。

そして、下へ向かう階段となった。


「やがて、私たちは下へと降りてゆく地点に達したが、そこには大いなる敵、プルートゥが待ち受けていた」

歌うようにミズが呟く。

「ダンテ『神曲-地獄篇』第6歌の一節よ」


--


「『神曲』が創られたのは13世紀から14世紀。この迷宮はそれ以後に人間により作られた」

「いや、そんなはずは無い。こんな技術は今まで地球上には無かった」

ミズの言葉にトウが反論する。

「さっき私が叫んだ呪文、あれは『神曲』で冥王プルートゥが叫ぶ言葉よ」

ミズも負けてない。

「宇宙人が『神曲』を読んだとでも?」

「それくらいにしておけ」

隊長が止めた。


「出口まで後退する」

この階段の開け方を米軍に伝える。

米軍が信じられるかどうかはさておき、もし俺達が全滅したら、直ぐに遺体を拾えるのは彼らだけだ。

だから、少なくともこちらから先に裏切ることはできない。


尤も、俺達を復活させてくれるかどうかは、判らないけれど。

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