呑み会 五次会 -微震-
「「「「おつかれ~」」」」
心なしかジョッキをぶつける音が小さい。
疲れているのだ。俺達は疲れ切っている。
この疲れた身体に、冷えひえのビールちゃんが染み渡る!
く~~っ。この1杯のために生きてる、いや生き延びたね~~っ!
「いや、よく還って来れたよなぁ」
今回の殊勲賞、トウが言う。
還って来れたのも、トウが諦めずに地図を確認し続けてくれたからだ。
「いやぁそれほどでも、あるけどな」
鼻高々なトウである。
「地下3階からのナツの動きも凄かったな」
「なんか、動きが良くなってませんか? 訓練の成果ですかね」
あの訓練のことは言うな、言ってくれるな。
だが、確かに凄かった。
「でも私が助かったのは、タダのおかげよ」
ミズが静かに言う。
トウも俺もタダを見る。
うろたえるタダ。だが、地下3階で座標感知の魔法が尽き、死が身近に迫った時、ミズの心を支えたのはタダの言葉だ。
俺とトウがタダの肩に手を置く。
そうだ、良くやった。タダ。
「見直したよ」
「そうよ、私感動しちゃって、思わず単位あげそうになったもの」
「えっ?貰えるんですか!」
「ええ、あげちゃう! 卒業にも口ぞえしちゃうわ」
ガッツポーズをとるタダ。そんなに危なかったのか?
「ミズを励ますため、わざと計算間違えた甲斐があったな」
バレバレだったけどな。
「アレは思わず笑っちゃって、それで私は持ち直したのよ」
だよね、なんで3回の十字路で1/12だよ! そこは1/64だろ、って心の中でツッコんじゃったよ。
「え?」
ん?
「ええ?」
「なに?」
タダが驚いた顔をしていた。
よもや。
「まさか」
「もしや」
「ろ、ろ…1/64?」
あかん、これはマジだ。
「本気で計算間違ってたのか!?」
カチカチカチ
ねぇ、なんでカチカチ音がするの?
それはここがカチカチ山だから--じゃなくてタダの歯が鳴ってんだよ!
今更ながらに、恐ろしくなったらしい。
そのうち、テーブルまで揺れ出した。
ん?
「地震?」
「タダの身震いじゃないんだ」
「違いますよ!」
あ、やっぱ地震だったんだ。
地震は、じきに治まった。
「なんか最近、地震多いわね」
そうだっけ?
「もともと迷宮の入り口は、地震が原因の土砂崩れで現れましたからね」
へー
「ま、地震はともかく、だ」
コウが話を変える。
「あんな確率計算を、しかも1/12なんて間違いをする者を卒業させるのは、数学者として許せん」
もとい、話を戻した。
「いや、僕ほら歴史学専攻ですから。文系ですから!」
俺も如何なものかと思う。
「ん゛~~~」
ミズが頭を抱えている。
「先生も、ほら考え込まずに! 歴史学に数学は不要ですよ」
んなワケあるか。
「必要不可欠だ」
「ん゛ん゛~~~」
ミズが更に頭を抱える。
「大丈夫だタダ、1留くらいなんてことない」
トウが力強く言う。
まぁ就職には、ちょっと不利になるかも知れんけどな。
「ダメですよ!だって僕、去年も…」
なに!?
2留か。それは就職には大分不利かも。
「此処に来たのだって、調査に付き合ったら前期の単位を考えてくれるって先生に言われて…」
ん?
「前期?」
前期というのは、言うまでもなく9月までの事だ。
ところで今日は何月かな?タダ君。
「そうよ!」
ミズが復活する。
「もう9月よ。貴方、前期試験を受けてないじゃない!」
「そ、それはこの分屯地に隔離されてるから…」
前期の必須単位は取れてるのかな?
タダの青い顔には「取れてません」と書いてあった。
めでたしめでたし。




