第三圏 大食の迷宮5 -帰還-
どのくらい、迷宮を彷徨っただろう。
怪物に遭遇すること5回。
内3回は退避に成功。2回は戦い、勝ち抜いた。
タダを含め、前から4人は満身創痍。回復魔法も尽きた。
特にナツがヤバい。
後1回でも怪物と遭遇すれば--いや、その時はタダが前衛に出れば良いか。
とはいえ、タダももう限界だろう。
皆、無言で前進して行く。
通路と十字路の繰り返しで、どのくらい歩いたかも定かじゃない。
トウによれば、この迷宮は北の端が南の端に、東の端が西の端に繋がっているため、同じ場所をグルグル回っている可能性も--
「待った!」
トウが叫んだ。
「これを見てくれ」
トウが地図の1点を指差す。
通路の左前と右後ろに扉がある場所だ。
「今、ここにいる可能性がある」
言われてみれば、左前と右後ろに扉が見える。
「右後ろから玄室に入り、もう1回扉を抜ければ階段の場所だ」
確かに。
「トウ、よく気付いた」
隊長が、皆が賞賛する。
だが、扉を開ければ怪物と遭遇する可能性が高い。
ナツはもう保たないだろう。
ここはタダに--
「ナツ、頼む」
「承知してます」
隊長はナツに頼み、ナツは隊長に応えた。
2人とも少しの躊躇も無く。
ニッと笑ったナツの笑顔が、目に焼きついた。
ああ、彼女はこんな風に笑うのか。
扉が開き、閉まる。
目の前には怪物、しかも熊3頭、狼5頭、狼男のような者まで居る。
運が悪いったらない。
だが、此処は逃げることはできない。
此処は超えなきゃしょうがない。
俺は盾と小剣を構え、せめてナツよりも早く、と狼男に突っ込んで行った。
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良くまぁ生き延びたもんだ。
それも全員。
「いやぁ、もう火花1つも出せやしねぇぞ」
トウがぼやく。
ナツも麻痺してるが無事だ。ただし麻痺を解く魔法は、もうミズもタダも唱えられない。
「で、この箱はどうしたもんかしらね?」
ミズの言うとおり、目の前に箱はある。
開けるさ。
箱の前に座り、息を整える。
「コウ」
隊長に呼びかけられる。
だが俺の心は決まってる。
あ、でも隊長がダメって言うんだったら--
「頼む」
ですよねー
これはまた、ちょっと困った。
下手に開けると爆発する仕掛けになってる。爆発の大きさは判らんが、俺がやられるのは確実。
皆にできるだけ下がってもらい、隊長とタダが盾を構える。
さて、と。
今まで、これほど集中したことは無かった。
鍵を構成する16本のシリンダー。それを正確に位置決めしていく。
4本目に罠が仕掛けてあった。刻み目がつけてあり、位置を間違えさせる仕掛けだ。もちろん、その仕掛けに引っかかれば箱は爆発する。
罠を回避し、全てのシリンダーが揃った時、針金を捻る。
カタリ
綺麗な音がした。
うん、良い鍵だった。
箱を開く。
中にはもちろん金貨、そして剣と日本的な鎧、そして巻物があった。
「ふぅ~心臓に悪いぜ」
近寄りながらトウが言う。
巻物を拾い上げ、眺める。
「どう思う?」
「多分、僧侶系ね」
「覚醒かどうかまでは判りませんけど」
まぁ使ってみればわかるさ。
ミズがナツの側に寄り、巻物を広げる。
『ir-krassen-kiuɑ』
光が溢れた。
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隊長が手で合図する。
先頭はナツだ。先ほどの巻物で、全ての傷が癒えた彼女が扉を蹴る。
扉が開き、閉まる。
怪物はいなかった。
そして1区画先に上への階段があった。
階段を昇ったところで、怪物と遭遇した。
ウサギだ。
「行きます」
ナツが飛び込んで行った。
あっという間に殲滅。危なげがない。
その後も、ほぼ守護神ナツが怪物を倒してくれた。
全く危なげなく。でも可愛げもない。
折角の美人なのに、それはどーかとお兄さん思うな。
嘘です。ナツ大明神様、どうか我々を出口まで連れて行ってください。
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「状況を終了する」
隊長の言葉と同時に、俺たち民間人4人組は一斉に崩れ落ちた。




