呑み会 四次会 -動揺-
「それじゃ乾杯…」
「「…」」
空気が重い。
今居酒屋に居るのは、俺、隊長、そしてナツ。
午後の訓練も3人でやったが、2人のヘコみ具合がハンパなかった。
これはイカン、と2人を呑みに誘ったのは俺だ。
俺は空気が読める男なのだ。
できる男なのだ。
だが、この俺ほどの男をもってしても、今の2人はフォロー不可能。
これはもう、イカンともし難い。
そもそも、この2人をコテンパンにノシたあの若造は、一体どこの誰なのか?
「多分、特戦だ」
隊長が言う。
エス?
「日本版グリーンベレーだと思ってくれ」
そもそも、隊長もナツもレンジャー隊員らしい。特撮子供番組ではない。要するに、2人は陸自隊員の中でもかなり強いらしい。
その2人をこうも手玉に取るとなれば、所属は限られてくる。
中央即応集団 特殊作戦群、通称"特戦"。
これはもう掛け値なしの化物らしい。
あ、良いこと考えた!
その人たちを迷宮に送れば、あっという間に攻略してくれるんじゃね?
隊長が嫌そうな顔をした。
「そんな決定はされない」
隊長はジョッキを呷り
「この場だけの独り言だ」
と話し始めた。
特戦はエリート中のエリート、最終手段らしい。
最終手段は滅多に使わない。他の部隊でできるなら、他を当てる。
この迷宮の攻略は、レンジャー隊員とはいえ一般自衛官でもできる。少なくとも今のところは。
「たとえ失敗しても、大きな影響はありませんしね」
と、ナツもジョッキを呷る。
ん?
いや、影響あるでしょ!
失敗って、それ俺も犠牲になっちゃうじゃないか。
影響あり。大ありだ。人類にとって特に女性にとって大いなる損失である!
ちょっと言い過ぎた。かも。
だが結局、そういうことだ。
自衛隊にとって、隊長やナツ、俺を含めたメンバーは替えが効く。
替えが効く隊員を使い、地図を埋める。
誰かが死んだら、別の隊員を補充する。
そして、もうダメどうしようもナイという時まで、特戦は温存する。
でもそれって、平等公平の立場からどうなのよ。
人の命の価値に上下は無いんじゃなかったのか?
まぁ命の価値には、上下が無いかも知れん。
だが、戦闘員としては能力に上下がある。
個々の人間ではなく消費し再生産できる資源として隊員を扱わねば、戦なんてできないのだろう。
理屈としてはその通りだが、消費されかねない俺としては、納得いかない。
と、考えて気付いた。
俺はそもそも会社員だ。クビになるかも知れんが、命を落とす仕事じゃなかった。
だが隊長やナツは違う。
『お前らは死ぬかも知れん。でも大丈夫、替わりはいるから』
所属する組織から、そう言われているのだ。
あの若造の実力を知り、それを実感してしまった。
それはヘコむわ。
だが、と俺は思う。
納得いかない。断然納得いかん。
俺は腹を立てている。立腹だ。
確かに隊長の替えは効くだろう。ナツの替えは効くだろう。自衛隊にとっては!
そんな組織なんざクソっくらえ、だ。
ダンッ…
干したジョッキをテーブルに叩きつける。
俺は、あの若造と一緒より、隊長やナツと潜ることを選びますよ。
そんな事を言った。
言った後、ちょっと恥ずかしくなった。
幸い、酔って赤くなったか恥ずかしくて赤くなったかは判らないハズだ。
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営舎に戻る途中、ナツが俺の腕を引いた。
隊長は、気付いたはずなのに、そのまま営舎に入っていく。
ナツは俺の後ろに立ったまま、ぼそっと言った。
「ありがと」
ダッシュで女子営舎に駆けていくナツ。
ずるい!ずるいよ!!
コレはアレだ。普段悪いことしてる不良が、捨て猫拾うようなもんだよ!
その落差に女子はコロっといっちゃうんだ。
普段から温厚でクラス内の仕事とかやる俺のことは、単なる"いい人"で終わらせておいて、不良が気まぐれにちょっと良いことするだけで、"イイひと"になっちゃうんだよ!
俺はそんな不条理なことはしない。日本中の女性に失礼である。
だからタダ先生、俺にイイ娘を紹介して下さい。
是非。




