第三圏 大食の迷宮3 -前衛-
本日は苦しい訓練の日。
特に午前中は、鬼軍曹が猛訓練により、俺の体力と自尊心を根こそぎ奪う予定になっている。
午後の女性自衛官との触れ合いのひとときのため、耐えるのだ俺!
だがその日、俺はナツ共々、道場に呼び出された。
そして今、目の前でボロボロになっているのは隊長だ。
おかしい。
色々おかしい。
隊長の相手をしているのは、司令官室に行った際に俺の後ろに立っていた若い自衛官。
隊長の装備は、訓練用の防護服、長剣、そして盾。
相手の若造は、迷彩服姿にナイフが1本。
それほど動きが速いとも思えないのに、ナツが「始め」と合図した直後には、隊長の首筋にナイフが触れていた。
その後も隊長は翻弄され、ろくに攻撃できない内に時間が終わった。
汗まみれで荒い息をついてる隊長に比べ、汗1つかいてない若造。
どゆこと?
これ、どゆこと?
1. 隊長は実は弱い
2. 若造がべらぼうに強い
3. これは夢だ
1は無いだろう。
迷宮内の戦いを見ても、隊長はナツより強い。
そしてナツは化物のように強い。
故に、隊長は化物そのものである。
うむ、論理的に正しい。
正解は3であって欲しい。
隊長よりべらぼうに強い人間なんて、ちょっとアレだ。そんな人が日本に居たら、俺は安心して外を歩けない。気がする。
ようやく普通に動けるようになった隊長が審判となり、ナツと若造が構える。
若造は今度はナイフすら持たない。無手だ。
「始め」
隊長が言った直後に、ナツが足を払われ倒れる。
やはり正解は3。決定。マチガイ無い。
10分も経たない内にナツもボロボロとなり--
ここはどこ?
私は誰?
ここは武道場。そして俺は若造の対戦相手。
ちょっと待って!
無理でしょコレ。
俺をこれ以上ヘコませてどうする。
俺は褒められて伸びるタイプなんだから!
「始め」
隊長の掛け声の直後、若造が動く。ヒヤッと鳥肌が立つ間もあらばこそ、手刀が喉に突き立つ。
元の位置にに戻って--礼して帰らせてくれ。
ダメですか?
ダメですね。
若造が動き、避けようとしても倒され、極められ、突かれる。寸止めだが。
身体が無理に動こうとして、滅茶苦茶疲れる。
10分の持ち時間が切れる頃には、意識も朦朧としていた。
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「ふむ、彼なら良いでしょう」
俺の訓練が終わった後、若造が言う。
「では細川1曹、相手を」
若造が俺の後ろに回り、俺の腕を持つ。
2人羽織りのような格好だ。
「お願いします」
隊長が俺に向かって礼をする。いや、俺を2人羽織りしている若造にだ。
「始め」
ナツが掛け声をかける。
いや、いやいや、なに始めちゃってんの!
始めちゃダメでしょ。剣持ってるの、俺よ!?
隊長が長剣を振りかざし、俺に襲いかかる。
待ってー。
死ぬ。練習用の模擬刀でも死ぬ。
ガンッ!
隊長がぶっ倒れる。
俺の小剣が首筋に当たったのだ。
隊長の長剣は、空を切った。
俺の腕を持った若造が、隊長の攻撃をかわさせ、小剣を振り下ろさせたのだ。
直ぐに隊長は立ち上がる。
衝撃を逃がすため、自分から倒れたようだ。
「次は合図なしで始めていいよ」
この若造、とんでも無いこと言いやがる。
恐ろしい経験だった。
本気で構えた隊長は強い。化物だ。
切ろうが叩こうが揺るがない岩のようだ。
なのに自分の腕が隊長を翻弄する。
まぁ俺自信は操り人形なのだが、どうしてこんなことができるのか、まるで判らない。
判らないのに、結果だけが出る。
鳥肌が立ちっぱなしだった。
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午前中で、若造の訓練は終わった。
「後2日間やろう。そうすれば、彼は前衛で使えると思うよ」
へ?
彼って誰。前衛って何。
どゆこと?
それ、どゆこと?
「現状では、我々は火力も防御力も足りない」
若造が去った後、ナツが言う。
「剣が使えないタダでは火力が不足する。そして折角の呪文も前衛では使い難い」
まさか。
「それを解決する方法が1つ」
よもや、もしや、さては。
「コウ、お前が前衛で戦い、タダが後衛で防御呪文を使う」
鬼軍曹が、少しだけ申しわけ無さそうな顔をする。
鬼の目にも涙、いや涙は無い。
たしか昨夜、ナツは言っていた。
『ですがもし"彼"が死に、復活もできなかったら』
昨夜、確認しとくべきだった。
"彼"って誰!?
誰のこと!?
まさか俺じゃないよね?
そうじゃないと言って欲しい。是非。
--隊長の戦い方は、間違ってるかも知んない。
"若造"の初登場は、「第一圏 辺獄の迷宮4 -勧誘-」




